新しい扉
本屋。
突然ですが、私は本屋でバイトをしています──
「……後輩よ」
「はい──」
本の補充をするため、私と先輩は新刊が置いてある、レジの裏の部屋にいた。
先輩のもとに行き「何でしょうか」と訊くと、先輩は一冊のマンガを私に見せながら訊いてきた。
「このマンガって、どの世代に人気なんだ?」
そう言って見せてきたのは、男同士が手を繋ぎ合い、顔を赤く染めている表紙の物だった。いわゆる、ボーイズラブという物だ。
私がバイトをしているこの本屋は、幅広い世代、ジャンルを取り扱っているため、こういった本も入荷している──。
「あー……どうなんでしょう……幅は広いと思いますよ」
「そうか──」
と先輩は表紙をじっと見てから裏表紙を見て、あらすじを読み始める。
なんだか、こっちが恥ずかしくなってきた……。
「……こいつら手繋ぎ合ったり、キスしたりして、仲良いんだな」
「……そう、ですね……」
何て反応すればいいのかわからないんですが……!
先輩は軽くぱらぱらと捲りだしたので、私はそっとそばを離れた。
質問されても、私わかりませんしね!
*
私は新刊を並べたりレジをやったりして、一段落してからレジの裏の部屋に行った。
先輩はまだ、さっきと同じように背中を向けて立っていた。
「……先輩?」
「ん……?」
「何や──」
近づいて手元を覗き込むと、先輩はまだあの本を読んでいた。
「これさ……」
「…………」
私は先輩の言葉を待った。
先輩は少し眉間にシワを寄せ、悲しげに私を見る。
それからそっと口を開いて、息を吐いてから言った。
「伝えられないって……こんな辛いんだな……」
マンガに視線を戻し、先輩はそのマンガをそっと本を運ぶカートに置いた。
そして次々と、そのシリーズをカートに並べていく。
「この本の世代層、訊いたろ? 俺、わかったわ。幅広い意味──」
トン……とそのシリーズの出ているまでの巻を置くと、先輩は振り返って微笑んだ。
「こいつらの複雑な感情とか、一途な想いとか、そういうのがグッとくるんだな」
そしてカートを押して行こうとするので、私は訊いた。
「それどうするんですか?」
「ん? 全ての世代の所に置いてくる」
「えっ、待ってくださいよ! 置き場所決まってるじゃないですか!」
「大丈夫だ、足らなくなったら追加入荷すればいいんだから」
「そういう問題じゃないでしょうよ!」
それでも先輩はまだ行こうとするので、私は必死に止める。
先輩は渋々カートを片し「はぁ……」と溜め息を吐いた。
それから、ふっと上を見たかと思うと、ぼそっと呟く。
「……いけるな──」
「え──?」
何が……!?
*
先輩が何に対して「いける」と言ったのか、私に訊く度胸はなかった。
ただ、たまにレジの裏の部屋で、先輩がぱらぱらとマンガを捲っているのを見かける。
そして私に気付くと、先輩はふっと口元を綻ばせ、言うのだ。
「読むか──?」
と。私は首を横に振り、それを苦笑いで断る……。
先輩はどうやら、新しい扉を開けてしまったようです──
後輩「先輩は、戻ってこれるのでしょうか……」
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