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二輿物語 『胡蝶恋記』  作者: tomoya
一章 「王、婚儀を命じる」
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 王は部下から、ウルフェウス王子について報告を受けた。

「近頃の王子は問題行動が多すぎますな。侍女や小姓と戯れて遊んでいたとか……まだまだ子供なのでしょう」

「結婚式で新居を披露するなんて、前代未聞。伝統を無視した乱暴な案です」

「王子の言うとおりに予算を組んでいたら、国家が破産してしまう」

「さすがはあのヴァルヴァラ国から来た王子だ。贅沢な浪費ではござらんか。わがままに育てられたものだ」

「いや、浪費と思われるならまだよいわ。軍の施設も新たに作るとか。戦争なんて起こせるわけが無いのに……なんと迷惑な王子よ」

 ウルフの要求する予算案と婚礼資金は大臣たちには受け入れがたいようだ。

 ザヴァリア王は若い王子を思い出し、考察したまま黙っていた。

 しかしながら、王は彼の案を無下に差し戻すことが出来ない。

 王子は国の礎を作ろうとしていた。彼が要求している予算は、基盤工事が主だった内容だ。つまり、道路やダムなどの産業基盤を整えようとしているのだ。だが、外交重視だったザヴァリア国にとって、外国の大使をもてなす接待費は欠かすことの出来ない予算。接待費を削れ、とは伝統を破壊する行為だと思われても仕方がない。

 王子は堅実な国から来た実質的な為政者だ。与えられた少ない予算を使って上辺だけ豪華なパーティをすることを、彼は潔しとしなかった。

 新たに作り上げた財産を披露するのは、自分の政治力を示すために必要な手段だ。それは贅沢好みの王子の遊びではない。城や軍事施設はただの結果だ。しかし、目に見える形で彼の力を知らしめることができるのである。各国がウルフェウスの手腕をこれほどのタイミングで見られる機会はない。王子は挙式で自分の力を広報するつもりなのだ。彼が武力によって力を誇示するよりずっと平和な手段だ。

 それが、ゆくゆくはこのザヴァリア国の王になる男の出した答えだ。彼にとって挙式はただの儀式ではない。そこからもう政治が始まっている。

「ふふふ……打てば響く男ではないか」

 王は一人楽しげに呟く。よい反応をすると思った。育てがいのある若い王子だ。自分の信条とは異なるが、王は嬉しくなった。

 彼が受けてきた帝王学の厳しさを思う。ウルフは独力で国を興すことを、既に祖国で学んでいた。

 王はウルフの作った書類を眺めて微笑んだ。新しいことを始めようとすると、反対は必須だ。しかし、そこに王子の意地があるのなら、義理の父親として、彼にしてやれることは一つだけ。

 全力で彼を見守る。

 王は口を開いた。

「皆の言い分は良く判った――王子をここへ。彼からも話を聞こう」

 最終的な決断は王にある。大臣たちは批判を止めて、王子を呼びに行かせたのだった。



 予算案を作りあげたウルフは、既に執務室にはいなかった。

 彼は城内にいる教師たちを集めて、授業を受けていた。これは研究者たちには不評だ。なぜなら、授業中は彼らの研究が進まなくなるからだ。

 しかし、ウルフは国の頭脳を集めて相談できるその時間を重視していた。彼は教師に問う。

「乾燥に強い植物を作れないのか」

「それは作れます」

「では、この国を農作物の産出国にできるか」

「それはできません」

「なぜだ。水脈を整えて水を分配し、年間を通して植物を生産できるように計画しよう」

「ほほお……思考実験ですな? そのような政策をお考えですか」

「俺の質問に答えろ」

「やはりできませぬ」

「なぜだ」

「地味が落ちるからでございます。私の計算では、全ての国民が生きていくにふさわしい食料を得ることが今の時点で出来ております。なぜ、土地の力を弱めてまで大量に生産を行うのですか」

「……。じじい、俺に問うのか」

「はい。授業でございますから、お答え下さい」

「この国の飯が不味いからだ。外国の作物の方が味がいい。ならば、金に換わる作物をたくさん作って売れ」

「なるほど。それでしたら、解決できましょう。味のよい食料を作れるようにします」

「できるのか」

「はい。ちょうど今、私は糖分の高い果物を開発しているのです。また、私の教え子は宮廷を出て野草園で野菜の研究を続けており、わが従兄弟は異国で畜産の技術を学んでおります。知識を集約すれば、五年ほどで国内の市場が豊かに変わると思われます」

「何故、五年もかかる」

「私の研究室では、いくつかの果物が完成しておりますが、流通させる商人をまだ見つけておりません」

 そんなことを言われては、援助を申し入れるより無い。「どんな果物なのか食わせろ」と要求する。授業は中断して、博士の研究室へ出向くことになる。

 植物学を専攻しているマーシア博士の植物園で、数種類の果物を味見して、流通できそうな植物をいくつか見つける。

 普段、交流の無かった他の研究者たちは、興味津々の顔で見たことの無い果物を眺めている。

 経済学者がマーシア博士に質問する。

「この果物が市場に出回るまでに五年もかかるという根拠は?」

「まず、城に食料を提供している商人に話を持ちかけてみました。彼は売るのは構わないと言ってくれました。しかし、一個あたりの単価が今は高いので、売ることが出来ないと言われてしまい、単価を下げるための研究をしておりました。手のかからない品種を開発したので、人件費が削減できます。そこで、実験的に研究に協力してくれる農家を見つけて、今、栽培をしているところでございます」

「収穫までにかかる時間は?」

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