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二輿物語 『胡蝶恋記』  作者: tomoya
一章 「王、婚儀を命じる」
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 大臣たちは彼の言葉を待って、目を輝かせていた。そこに、ウルフの失脚を願う陰湿な光はない。彼らは皆、人のよい親切な老人たちだった。彼らにとって、ウルフはまだまだひよっこの若造だ。彼らは敵対したのではない。ただ、王子の行く末が心配になって意義を申し立てたのだ。

 心配する目で見守っている、その視線を受けて、ウルフは大臣に返答した。

「もっともな意見だ、アラン。王の御心を教えてくれて礼を言う」

「いいえ、僭越でございました」

「だが、やはり俺は城を建設したい。この都は既に古い。城下町は膨れ上がって不衛生だ。人口の移動を誘致するためにも、王族の移動は必然だ」

「そうですか……王子は祖国でそのように執政を学ばれたのですな」

「うん。俺の一生は、ほとんど全てが旅だと教わった。一度栄えた都はもう王を必要としない自由都市だ。自由な都市が増えれば国が栄える」

「ようございます。あなたが既に万人のために覚悟されているならば、臣下が御心に踏み込む理由をもちませぬ。孤独と共に強く生きなさい。建設用の支度を整えさせましょうぞ」

 建設大臣は快く頷いて微笑む。ウルフはすっと体が楽になって笑う。

 場の空気が不意に軽くなった。重々しかった雰囲気が弾け飛んで、一人の大臣が急に話しかけてきた。

「まことに恐縮ですが! 王子、私は意見がございます、あ、私の名前は」

「知ってるぞ。コッコラ・デル・サヴリナ内務大臣」

「いやはや、いつの間に名を覚えられたので? さすがでございますなー!」

「名を覚えなければ、俺の仕事はなりたたん――俺に意見とは何だ」

「衛生、軍事、建設とは全て私の管轄内でございます。今までは少ない予算の中でやってきました。今回、王子が新しい予算を組まれて、私は一番喜んでおりました」

 ウルフは予算改編に喜んでいるコッコラを見て、妙な胸騒ぎがした。

 建設大臣がゴホンと咳をした。ウルフはアラン・デル・デリ建設大臣を振り返ってきょとんとする。アランは咳き込みながら、ちらちらと外務大臣をみやる。

 ウルフは予算案にもっとも反対している人物を知る。外交官の接待費を削られてしまった外務大臣は、不機嫌な顔である。外交に関して発言しなくてはならないようだ。

 コッコラは機嫌よく内政の重要性を語っているが、彼は少々オーバーな男だ。

「王子、私は前々から福祉政策の重要性を語ってまいりました」

「は? 福祉だと?」

「はい。地方行政を統括して中央集権化を進め、医療の充実、治安維持、利水、土木、雇用政策、社会保障……特に! 私が王陛下と輝殿下へ提案したいのは、国の宝となる子供への教育施設の充実でありますっ!」

「(こいつ、闇雲にとめどねぇ話を……)お前の話はなかなか面白いが、今の俺には子供がいねぇ。また次の機会に楽しい話を聞かせてくれ」

「あぁっ、輝殿下! あなたは既に国家の父となられるお方――」

「アレキス・デル・ガボン外務大臣!」

 呼ばれて外務大臣は柔和な微笑を見せた。ウルフは少し緊張して苦笑いする。心の見えない笑い方をする大臣である。

 彼を敵にはしたくない。今度の婚礼で一番頼ることになる男だ。

 ウルフはちょっと考えてから、問いかけた。

「相談したい問題がある」

「私でよければ、何なりと」

「近頃、俺あてに使節団が押し寄せていると聞いた。何故なのか」

「それは輝殿下と皇女へ、祝を申し上げるためでございます」

「婚約の噂を聞きつけてやってくるのは別に構わないが、あいつらはきっと俺を恐れているんだろう。過剰な反応だ」

「……そのように、お考えなのですね?」

「この国にとって外交は必要だと思う。だが、不用意に俺が外に出て行けば、周辺国の力学が変動するだろう……俺は国内に集中して彼らの恐怖感を和らげたいと考えている」

 ウルフの考えを聞いて外務大臣はにやりと笑った。彼はしばらく無言で思考し、大きく頷いて答えた。

「あなたは既に大国の力を持ってやってきています。ヴァルヴァラ家の直系男子として、この国に肩入れしている事実は消せません」

「…………」

「これからもあなたの下へ大使はやってきます。それを避けることは出来ません。拒否する理由もございません。しかし、それがあなたをこの国に誘致した我々の務めなのでしょう。私はあなたを対外的にお守りする役目がございます」

「判っている。俺を外交面で助けてくれるのか」

「勿論でございます……まあ、今回の予算案については、ひとまず身を引きましょう。王子が熟慮された結果、政策をお決めになったのであれば、私は大使たちにそのように弁解できます。ウルフェウス様は内政重視の政策を取っているのだとお伝えしましょう。その後に起きる騒動の処理も私が引き受けます。ですが、最低限必要な外交はお続け下さい。接触することがこの国にとって安全保障となることを、お忘れなく」


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