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二輿物語 『胡蝶恋記』  作者: tomoya
一章 「王、婚儀を命じる」
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 第一部「婚約事変」はサイトに掲載してありますが、そちらを読まなくても読めると思います。第一部はもう少し恋物語っぽいですが、基本的に淡白です。ラブラブ、ドキドキ、という感じではありません。

 第二部「胡蝶恋記」の方は政治と戦略が多くなるので、国家の視点で展開します。主にいたぶられるのは表に立つ王子です。姫もそれなりに彼の背後で苦しみます。その隙間で、展開される恋話なので、のんびり展開します。


そんな感じの物語ですが、よろしければどうぞお楽しみ下さい。

 ザヴァリア王国の皇女、アリシア・フォル・ザヴァリアの婚約が決まった。

 相手は近隣で恐れられている東南の軍事大国はヴァルヴァラ新王の末子、ウルフェウス・アクエリアス・ヴァルヴァラだ。彼の戦績は大陸一と言われる。とにかく好戦的な男だと知られる。

 この婚姻は皇女の意思とは無関係に結ばれた。彼女は彼とは一度も面識がなかったし、野蛮な男も好きではなかった。

 それに、相手に強く望まれた、というわけでもない。彼にとってもアリシアは遠い異国の姫であり、父に命じられての結婚――それが、政略結婚なのである。



「なんて迷惑なのかしら」

 この台詞を呟いたのは、婚約の当事者であるアリシア姫だ。

 戦に長けた第五子が相手と言うだけあって、婚約の噂が流れると、周辺から使者が殺到した。ウルフェウス王子(文中:輝殿下またはウルフ)に謁見を願ってのことだ。その使節団の接待で国庫が危うくなるほどの盛況振りである。

 しかしながら、当の本人はそのような華やかな接待の場に一度として顔を出したことがない。たった今も、今日帰国するという西隣のカニューレ公国の使者から「頼むから一度、王子にお目通しを」とせがまれ、父王が姫を使った説得に乗り出すところ。そのために、彼女はこれから王子の部屋に迎えにいくことになったが、十中八九、彼は不在だ。使者が気の毒である。

 だが、部屋にやってきたら、運よく扉が開いて王子が顔を出した。

 身軽な狩り姿で、良く日に焼けた金色の肌が露になっていた。くせの無い黒髪は光を含み、七色の輝きを見せている。その長い前髪の間から透き通った水のような青い目が見えた。王子は女性と見紛うほど美しい。彼の姿を遠目に見つけたアリシアも、見惚れて足が止まるほど。

 ところが、彼は彼女の顔を見つけたとたん、ギョッとした顔になり、逃げるように走り出したのである。神々しかった彼の雰囲気は一変する。

 思わず、我を忘れて怒鳴りつけた。

「王子っ! カニューレ公国からいらした使者と一度も会談しないおつもりですかっ!」

 ウルフは片手で剣を持ったまま、叫び返した。

「どうして今頃から挨拶しなくちゃならねぇ?」

「あなたは既にこの国にいるから――こら、待ちなさい。私を走らせるつもり……あっ、あぶないっ!」

 彼女の悲鳴と共に彼は窓から身を躍らせて飛び出してしまった。

 姫は真っ青になって窓辺に走り寄る。飛び降りた彼の体を心配したのだが、当人は眼下の木に飛び移り、サルのように枝を伝って地面に降りてしまった。そして、姫を見上げ、にっこりと明るい笑顔になり、「そのうち出向くと伝えてくれ」と言い残して、颯爽と走っていく。結局また逃げられてしまったわけだ。

 仕方なくため息をついたとき、駆け抜けていく王子の前に衛兵が立ちふさがった。

「殿下、王陛下に呼ばれましてございます」

 さすがの彼も王命の手前、無視することができなくなる。不機嫌な顔に変わり、無言で衛兵を睨みつけた。その怒りを恐れた衛兵たちが膝をつき、頭を垂れる。「御仕度ください」と言われ、苛立たしげに手に持っていた剣を衛兵に渡した。衛兵は王子から剣を受け取って追従した。

 彼は怒りも露にして、部屋に戻ってくる。コロッと彼の雰囲気が変わってしまった。陽気な少年から、冷酷な専制君主へ。

 アリシアはドキッとして背が伸びた。彼の眼力に足がすくむ。おどおどして部屋の前で待っていたら、彼は無言で傍を通り過ぎて部屋に入ってしまう。

 彼に無視され、胸がキュッと痛めつけられた。そんなにあからさまに怒りを向けられたのは初めてだった。

 その後、彼は半日近く身を清めて身支度をした。結局のところ、カニューレ公国から来た大使の出立には間に合わず、午後になってから超ど級に派手派手しく着飾った王子が、仰々しい隊列を組んで王の元へ向かった。つまり、彼は詭弁を用いて王の命令すら、覆してしまったのだ。その反骨精神には舌を巻いた。

 さすがは、戦好き、なのかもしれない。


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