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その一一 「上陸演習 前編」


 海軍上陸作戦演習は、四年に一度、東京湾上で行われる連合艦隊総観艦式と、毎年太平洋上で行われる連合艦隊大演習と並ぶ、帝國海軍の三大行事の一つである。一週間の演習期間の内、上陸作戦専門の海軍陸戦隊員だけでも述べ3000名が動員され、それを支援する艦艇に至っては247隻、作戦機では約200機にも及ぶ。


 勿論、訓練の主体はあくまで海軍であって、上陸してくる海軍陸戦隊を、内陸で迎撃する対抗部隊たるぼくらは完全に彼らの引き立て役であり、そう振舞わねばならない。この演習ではぼくらはずっと敵役に徹し、最終的には撃破される運命――――言い換えれば、設定――――になっている。


 海水浴シーズンがとっくに終った、総延長70キロメートルの九十九里浜に海軍陸戦隊のLVTや揚陸艦が殺到し、兵員や装甲車両を吐き出す様は壮観ですらある。その様子は毎年TVニュースにも放映され、1960年の演習開始以来、この時節の風物詩としてお茶の間にも大演習の一端を垣間見させていた。当事者たるぼくらもまた、演習の一環ぐらいは着任以来座学で散々見せられた教材用VTRで知っている。例を挙げれば――――――


 ――――長距離策敵のため、沖縄は嘉手納飛行場の誘導路を、一基当たり12000KWの高出力を誇るターボフロップエンジンをそれも六発、二重反転六翅プロペラとともに緩慢に震わせながらゆっくりとタキシングしていく帝國空軍戦略航空団の「富嶽改」戦略爆撃機。

 「スクランブル!」の呼び声が掛かるや五分間の内にパイロットの搭乗を終え、凄まじいまでのハイレートクライムで飛び上がっていく帝國空軍厚木基地所属のF-104J「栄光」要撃戦闘機。

 

 太平洋上で訓練中の帝國海軍航空母艦「信濃」のアングルド-デッキから、カタパルトの蒸気を蹴立てて発進していく海軍航空隊のA-4J「スカイホーク」艦上攻撃機。それに続くF-4J「ファントム」艦上戦闘機による過酷な夜間離発着艦訓練。


 太平洋上で対潜作戦演習中のヘリコプター搭載巡洋艦「大淀」の後部飛行甲板から、ローター音もけたたましく一度に二、三機発艦していくHSS-2哨戒ヘリコプター。


 そしてさらに圧巻なのが……上陸部隊援護のため、戦艦「大和」の放つ三連装四六センチ主砲の一斉射撃!―――――これらのVTRを思い返すにつけ、自分がこれらの演習の一部となることに、今更のように少なからぬ興奮を覚えたものだった。そしてときは、着上陸作戦に先立つ対洋上戦闘演習及び対潜攻撃演習、さらには空軍も参加した航空作戦演習を終え、ぼくらの出番の巡って来る着上陸進攻演習が、至近にまで近付いていた。



 ――――演習開始から三日目の深夜。


 ぼくら近衛旅団にもついに動員令が下った。就寝時間が近付いた2145。非常呼集の喇叭とともにぼくらは手早く装具を調えて舎前営庭に集合と整列を果たし、次の瞬間には流れ作業のような鮮やかさで点呼に取り掛かっていた。


 「点呼っ……!」


 「第一内務班、総員三一名、病欠一名! 現在員三〇名、病欠の一名は就寝休、番号っ……!」


 「第二内務班、総員三一名、欠員なし! 現在員三一名、番号!」


 「第三内務班、総員三二名、欠員なし! 現在員三二名、番号っ!」


 ……点呼の後、整列したぼくらの前に立った石橋中隊長は、華奢な肩を震わせ、あまり出ない声を振り絞って訓示した。


 「―――――空軍のF-100DR偵察機が房総半島東海岸洋上200kmに敵上陸艦隊を発見した。上陸部隊は黎明を期し、九十九里浜一帯に上陸するものと思われる。近衛騎兵旅団は直ちに出動、これを迎撃すべく下総方面に進出、展開する……!」


 演習が、始まった。


 ぼくら捜索中隊はすでに準備を終えていた大型トラックに便乗し、主力に先行して該当地点まで進出する。今回ぼくは機銃手の配置を外され、中隊長付きの無線手の配置を宛がわれていた。前任の無線手が満期除隊してしまい。その後釜にぼくが据えられた形だった。それも、「鳴沢二等兵は大学で機械をやっていたそうだから、無線機ぐらいすぐに使えるだろう?」という中隊長直々のお言葉によって……揮下の各小隊から上がってくる通信を一括して受信し、上級司令部へ報告する機能上、中隊用無線機はどうしても嵩張るものである。行軍に際しては重い装具の上に全重量18キロ、ミカン箱のように大きい無線機を背負い、その上に小銃も持たなければならないのだ……機関銃の件といい、ぼくってどうして、重いものに縁があるのだろう?


 動き出した車列。その荷台の中、我等が石橋中隊長はぼくのすぐ隣に腰を下ろし、始終顔を蒼白にさせ俯いていた。彼自身乗り物酔いしやすい体質である上に、今回の演習にあたり、上司たる大隊長からハッパを掛けられていることもある。どう考えても軍人向きではない彼の境遇に、自分自身の巡り合わせも忘れ同情を禁じえないぼくであった。


 「うちの中隊長はダメだァ。使えねえ」


 とはバンちゃんの言葉だが、それはまたぼくら中隊の兵士の共通認識でもあった。気弱な性格も然ることながら、夏季演習で露呈した指揮の拙さは連隊司令部でも問題になっているらしく、彼の今年中の去就は、ぼくら兵隊にとっても少なからず注目されるところとなっていた。


 「どっかの後方勤務部隊に飛ばされるらしいぜ」


 「いやいや、予備役行きだと」


 「未だ若いのに、ツライねえ……」


 その日の夜間休養時間に又聞きした古参兵たちの会話を脳裏で反芻しながら、ぼくは中隊長の顔を覗くようにした。その途端、自らを苛む酔いと緊張に耐えられなくなった彼は何度か嫌な咳をした直後に慌てて袋を取り出し、ゲーゲーやり始める。ぼくは嘆息し、ぼくとほぼ同年代の中隊長の背中を擦った。


 「中隊長、大丈夫でありますか?」


 「ウェーゲホゲホゲオッ!」


 頷きながらも、彼は未だ袋の中に今日の夕食の変わり果てた姿を吐き出し続けている。その痛々しい様子が、ぼくに一層の哀感と焦燥を誘う。しかも、トラックの向かう先は―――――



 ――――出発から一時間後、部隊と装備を積み込み、川崎港を発った貨客船「ちどり」の船上で、戦場に赴くまでもなくグロッキー状態となった石橋中隊長を、付きっ切りで看病するぼくの姿があった。

 貨客船「ちどり」……もとは「大東亜戦争」期に離島への揚陸作戦を期して大量に建造された海軍のSB艇(揚陸輸送艇)が、戦後に余剰となったものを廉価で民間に払い下げたうちの一隻である。改装の結果最大400名の乗客とともに、広い車両甲板に乗用車を最大で16台積むことができるこの船は、建造から30年近くが経ったこの頃でも、東京湾内のみならず日本各地で港湾や離島間の輸送交通手段として重宝されていた。


 部隊の移動にこうした民間の交通機関を使用するという点で今回の演習は、有事の際の民間施設徴用のシミュレーションとしての性格をも併せ持っている。民間船舶への軍用車両の繋止、兵員の積載、そして軍の指揮下での運用というのは、有事の際にいきなり行おうとしても、事前に問題点を顕にしておかない限り、ひいては民間との協力関係を確立して置かない限り上手くは機能しないものである。我々と同じく東京の第一師団隷下部隊の一部もまた、今次の演習では国鉄を使った部隊移動を行うことになっていた。


 ……だが、ぼくらの知らないところで、勇躍列車に乗込み戦地へ出発しようとした彼らの前に、驚くべきトラブルが巻き起こっていた。


 『――――陸軍を乗せた列車を爆破する』


 「遵法闘争」に名を借り、同時期狂騒的なまでに盛んになっていた国鉄職員の労働争議が、その脅迫電話に真実味を持たせることとなった。その真偽はともかく、動員直後に国鉄本部に掛かってきたたった一本の電話で、帝國陸軍の歩兵一個大隊が乗車を中止し基地に引き返すこととなったのである。当然、部隊の展開は大きく遅延することになった。偏執的なまでに時間に忠実な動員計画を重視する帝國陸軍のお偉方にとって、まさにこれは噴飯ものの事態であったに違いない(後に事件は、国鉄職員を父に持つ一中学生の悪戯であったことが判明)。


 トラブルといえば、今次の演習において、ぼくら近衛旅団は戦車部隊の支援を受けられない立場にある。表向きには「周辺住民への配慮」がその理由だった。先月の新藤軍曹による戦車暴走事件以来、戦車を基地の外に持ち出すことに陸軍の上層部は事の外慎重になっていたのだ。外の目を気にして日々の備えに徹せねばならないこと、なんともやりにくい。それに有力な支援手段たる戦車というオプションが失われたということは、我等が石橋中隊長の命運もまた、風前の灯火に一歩近付いたというわけである。


 「ちどり」号は行程にしてまる二時間をかけて対岸の千葉港に入港。そこから上陸を果したぼくらは、一路千葉県は九十九里浜方面へと向かう。

 赤色灯を点灯させる憲兵隊のジープに先導され、ぼくらの車列はまるで大名行列のような、ゆっくりとした速度で国道を進んだ。時は既に一二時を回っている。付近を通る車は少なく、周辺の家屋や建物からはあらかた光が消えていた。兵隊の中には、日頃の疲れからかすでにコックリコックリとし始めている者もいる。だが誰もそれを咎め立てしない。中隊長はといえば、やはり蒼白な顔もそのままに完全にぼくに寄りかかるようにして、それから死体のように微動だにしていない。

 車列は九十九里平野を抜け、九十九里浜とは目と鼻の先に位置する台地に差し掛かり、そこで止まった。展開予定地点に入ったのだ。

 忙しげに降車準備を整える皆に倣いながら、ぼくは未だ動こうとしない中隊長の顔を覗き込むようにした……果して、我等が中隊長はこんな大事な時に眠りこけている。


 「中隊長……?」


 「…………」


 「中隊長殿……!」


 「ウワァァァッ!……陶さん御免なさぁい!」


 そう叫ぶや、慌てて顔を上げる中隊長。ぼくもまた驚いた。さぞ悪い夢でも見ていたのだろう……その内容は、改めて詮索する必要もなかった。


 「中隊長、付きましたよ?」


 「ええっ……こ、降車!」


 覚束ない足取りであたふたと荷台から降りる中隊長の後に続き、ぼくは野営地に一歩を踏み出した。台地、それも周囲は太平洋に面している上に何も遮るもののない剥き出しの平地であるだけに、吹き荒れる寒風がぼくらを容赦なく襲う。防寒着なんて持ってきていないぼくらにとって、唯一の防寒方法は只動き回ることぐらいだ。気の利いた者は、すでに猿臂を奮って塹壕堀に取り掛かり、寒風を凌ごうと取り掛かっている。それらの部下を前に呆然と突っ立っている中隊長に、ぼくは恐る恐る切り出した。


 「あのう……中隊長?」


 「ん?……何かな鳴沢二等兵」


 「司令部に報告を……」


 「ああそうだった!」


 慌ててぼくから送受話器を受取り、司令部と交信する石橋中隊長……だが程無くして彼の顔に表れたのは驚愕だった。それに追い打ちをかけるような司令部からの怒声!


 『―――このバカ! 展開位置を間違えるやつが何処にいるんだ!?』


 ――――そして撤収、再び移動。


 野戦用地図をにらみ、さんざん逡巡した挙句、予定通りの地点に展開を終えたときにはすでに午前の三時を回っていた。これでは二等兵のぼくですら、野戦地図を前に怒り狂う市ヶ谷のお偉方の姿が眼に浮かぶというものだ。周辺住民への安眠妨害になることは勿論、貴重な仮眠時間を削られることになったのも痛い。


 塹壕掘りを終了するや否や、そこに砲撃用の前進観測所を増設。さらには一基で新車のクラウンが一台買えてしまえる程高価な赤外線暗視装置を設置し、そして防御陣地と擬装網とを設け経空脅威及び上陸部隊の進撃に備える……これらの作業を、ぼくらは敵上陸部隊が沿岸に接近する黎明までに完了しておかねばならない。


 皆の様子を見守りながら、中隊長は言った。


 「なあ……鳴沢君?」


 「はい?」


 「ぼく……いや本官は何か遣り残したことがあるだろうか? 何でもいい、もしあれば言ってみてくれないか?」


 それはその辺の大衆食堂の店主に「雉のテリーヌ」の作り方を聞くような、なんとも間の抜けた質問だったが、中隊長の表情の切実さが一兵卒に過ぎないぼくに言葉を出させた。


 「そうですね……設営もあらかた終ったことですし、周辺に偵察要員を出しては如何でしょう?」


 「それだ!」


 ぼくとしてはそれとなく言ったことだったが、先程の思いつめたような表情など何処へやら、嬉々として部下に命令を出す中隊長を、複雑な目で見るぼくがいた。


 その一時間後……


 『―――こちら第三分隊。敵偵察部隊と思しき集団と交戦中。増援求む』


 「…………!?」


 ぼくと中隊長は顔を見合わせた。「棚からぼた餅」とは、まさにこのことを言うのだろう。海軍は上陸作戦への事前準備として、精強を以てなる陸戦偵察隊(IN-RECON)を極秘裏に上陸させ、迎撃部隊の配置状況を調べようとしていたのだ。その一部がこちらの放った偵察隊に発見されたのだった。最終的にはこれが沿岸防備部隊の注意を喚起し、上陸部隊の放った殆どの偵察隊が二時間の内に全て「殲滅」、もしくは捕縛されてしまったのである。


 『―――石橋大尉、よくやった……!』


 司令部からのお褒めの言葉に、頬を赤くする石橋中隊長……自信を取り戻してくれただろうか?と、ぼくは中隊長を見遣る。彼はといえば照れ臭そうに頭を掻きながら、満更でもないかのようにぼくに笑いかけるのだった。



 ――――果して午前五時。


 うっすらと明けかけた東の水平線の彼方。監視所に詰める兵士が暗視装置付監視鏡のレンズの中に蠢く複数の船影を認めたとき、全ては始まった。


 「通信兵! 司令部へ報告だ。我敵発見―――――戦力は揚陸艦二隻、戦艦一隻、巡洋艦二隻、駆逐艦―――――LST多数! こちらへ向かって来る!」


 送信後も、ぼくらは持ち場を離れるわけにはいかない。上から「退避命令」が出るまで、引き続き監視任務が残っている。もし出なければそれは、「最後まで現地点に留まり、現地点を死守せよ」という無言の命令を意味する。


 程無くして水平線の彼方を注視するぼくらの耳に、淡い炸裂光とともに遠雷のような轟音が聞こえてきた。


 ドオォォォォ……ン


 「退避!……退避壕に退避!」


 と叫んだのは中隊長ではなく先任下士官だった。我等が中隊長は艦砲射撃の迫力に圧倒される余り、弾着に備えた退避命令を出すのを忘れていたのである。


 中隊長の手を引き、慌てて退避壕に潜り込むと同時に、断続的に海原の遥か先から轟く砲撃音……それは帝國海軍唯一の戦艦「大和」の放つ三連装四六センチ砲のものであった。空砲であるから実際に海岸線に撃ち込むわけではないものの(実弾だったら大事だ)、撃たれる側からすれば、空砲であってもこれほど心胆を寒からしめるものは無い。その上、艦砲射撃の爆音はそのまま空気の震えとなり、それは距離にして40キロ余り離れた此方にも微かな振動となって伝わってくる。


 ヤドカリ宜しく壕に閉じこもりながら「退避命令」を今か今かと期待するぼくら。……だが、無線機を通じ入ってきた司令部の指示は無情。


 『――――司令部より捜索中隊へ、引き続き対抗部隊の着上陸を監視し、逐次報告せよ』


 ひょっとして……ぼくらって、捨て石?


 そのことに思い当たり、ぼくは隣で蹲る中隊長の顔を覗きこんだ。そのぼくの視線の先で、あいも変わらずに蒼白な顔を浮かべる中隊長、それはすでに死人の顔だった。


 「あのう、中隊長どの?」


 「…………?」


 放心したようにぼくを見遣る中隊長に、ぼくは水筒を差し出した。


 「一息つかれては、如何ですか?」


 「…………」


 呆然と頷くと、中隊長は水筒に口を付け、チビチビと呷り始めた。水を飲み一息ついた彼は、唐突に唇を震わせて言葉を搾り出した。


 「ぼく……こんな柄じゃないんだ」


 「中隊長……?」


 「御爺ちゃんみたいに偉くなれって、子供の頃から散々言われ、御爺ちゃんみたいな軍人になれって、無理矢理幼年学校に行かされ、御爺ちゃんみたいに出世しろって、実力も無いのに大尉にされて……それがこのザマだ。誰の尊敬も勝ち得ず、誰の信頼をも裏切り、自分のやりたかったことも忘れ、今のぼくは羅針盤の壊れた難破船のように生きている」


 「…………」


 「……鳴沢くん、ぼくは君が羨ましい。君はあと二年ここにいれば元の自由な暮らしに戻れるんだろ? ぼくは死ぬまで軍人だ。ぼく以外の誰かの意思で、死ぬまで軍人であり続けることしかできない。喩えそれが、ぼくという人間にはとんでもなく不向きであっても……」


 「……そんなこと、関係ないじゃないですか」


 「え……?」


 「……そんなこと、ぼくらがこうして攻撃に晒されていることに、何の関係もないじゃないですか」


 「鳴沢くん……」


 「皆隊長の身の上話じゃない、隊長の決断を待ってるんです。隊長がこれから我々にどんな命令を下すのかを。お解かりになりませんか? 中隊長の仕事は考えることではありません。命令を下すことです。隊長の考えていることは自分にはわかりません。しかし、隊長の命令することは皆理解することができます」


 「…………」


 中隊長は、ぼくの顔を見返した。互いにどす黒く汚い迷彩に覆われた顔。見ていて楽しいはずが無いのに、中隊長は何時の間にか、迷夢から醒めたような綺麗な目でぼくのことを見詰めていた。


 「中隊長―――――っ!」


 声を張り上げ、壕へと滑り込んできたのはバンちゃんだった。息を弾ませてぼくを一瞥し、彼は報告した。


 「捕虜を連行して参りました!」


 分隊の兵に急き立てられ、腰を屈めて入ってくる陸戦偵察隊の隊員。その七名の何れもがすでに装備を没収され、シャツ一枚となった上半身からは、ただ認識票のみがキラキラとした光を放っている。そのとき、ぼくの脳裏で何かが煌いた。


 「隊長、お耳を拝借……」


 「ん……?」


 ――――――数刻の後、ぼくの言葉に唖然としてぼくの顔を見返す中隊長の姿があった。




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