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探り

主人公紹介と街のことが中心です。

「ただいま……」

 一部除いて、誰もいないよな。

 部署はしんと静まり返り、さっきより片付いていた。

「おかえりー。遅かったね、何かあったの?」

 う、きた。第六感。

「まぁな、スリルがあった騒ぎを俺が起こしちまって、こうなった」

 レズアは腕組みを止め、腕を隠したバンダナをするりと解いた。その下にはおれがかけた手錠。

 そんなに姉貴に見せびらかすなって。ほら、顔色が変わった。

「……あなたたちは、堤防を見に行っただけだよね?」

 おれが人に手錠をかけれたことに驚いているか、あるいは、かけられたレズアに驚いているのだろう。

「あぁ、帰り道に寄り道した。それもあまりよくはない……」

 知らせもある、って言えなかった。

「お土産がこいつさ。以外だろ?そういえば、俺の荷物は預けたんだっけ?」

 当の本人は何故か上機嫌。

 クレタスは上から落ちてきたって言ってたし、何者なんだ?思えば姉貴の元旅仲間ってこと以外、ほとんど聞いてない。

「マロ、あんたが初めて人に手錠をかけたわけじゃないのは知ってる。でもね、冗談半分に今後逮捕しないで。それと、相手をわきまえておいた方がいいと思うわ。取調べのロスタイムよ」

 たしかに。この街では、逮捕した本人が取調べを行う。こいつとテンポが合うかどうかは正直不安だ。

「大丈夫だ。半分演技みたいなもんだし、俺は加害者じゃないからな。……こいつの借りは返すから」

 反省するべきか、おれ。



 地下に移動し、おれたちは牢をはさんで座る。

「ここまでが芝居か?」

「うまくいけばな。ある程度項目をうめなきゃ終わらない」

 いつもは何人か檻のなかにいるが、今日は別の場所。

 おれは椅子に座る。レズアも牢を挟んで椅子に座った。

「じゃあ、今から色々聞くけど、内容のふざけは無しで、本当のことを言ってくれ」

「わかった。そんでもって、俺の指導も最後だ」

 指導?こんな場面までもか?しばらく考えてみたけど、おれから切り出さないと始まらない。


「一応名前の確認で、レズア・グレイロンだよな?」

「そ。自警団、傭兵……あと、少し前に特使の経験がある」

 ここまでで、おれはほっとした。

 前回が、なかなか思うように進まなかったからだろう。

「今はとある目的で、流離さすらいの旅の真っ只中だ」

 おれはこいつの話したことで、必要なことを調書に記入する。

 自警団、傭兵に……っておい、ちょっと待て。

「前科は軽いのが数回。今回みたいな誤解だったけどな。

 それと知ってるだろうが、俺は刺青者だ。出身は国外。

 得意分野は、土木・旅行・密偵・逃走・脱獄くらい。年齢、21歳。

 ……以上、他に質問は?」

 聞くまでもない。


「早い!」おれは机を強くたたいた。

 良く見積もっても、書けたのは全体の3割ほど。

「そりゃ、わざと早口で言ったからな。全部書けなかっただろ?これで、誤解の借りはチャラな」

 正直くやしい。「あぁ、ちくしょう。はめやがって!」

 おれはそう言って、調書と鉛筆を手から離し、両手を顔に当てた。

 その一瞬の間に、レズアにそれらをとられてしまった。

 適当な口笛を吹きながら、調書に書き込んでいく。

「おい、それ、おれが書かないと無効なんだ」

「知ってるよ。薄く書くから、マロが書き直しとけ。そのほうが気が楽だ」

 いや、気が楽なのはおれの方だって。


 ……結局、レズアの走り書きを写すことになった。

「ほら、これで終わった。あとはまかせた」

「あ、ありがと。……いいのか、これ?」

 礼はいったけど、悪い気がしてしかたない。

「遅いとイオネに怪しまれるから、できるだけ早くな。わからない文字があったら言ってくれ」


 黙々と隅に要約された文を書き写す、これはこれで手こずる。急かすくらいなら、口問口答の方が早いって。

 しばらく考えて、コイツは言った。

「この街には、イオネや裏路地で会ったやつ以外で、マロが知っている刺青者(トゥラー)は本当にいないのか?」

「多分いない。あんたみたいに自分から刺青(しるし)があるなんて、そんなこと言うやつはまずゼロ。街中に知られる前に、みんな留学なり、転勤したりして出て行く」

「へぇ、ここのやつら変わってんな」

 おれから見たら、あんたの方が随分変わってる。


「住民の意識が変わってるって?そんな簡単なもんじゃない」

 おれの手が止まった。

「なんだよそれ。やっかいなことでもあったのか?」

「よそもの刺青者のお前には無関係だ」

「いや、興味がある」


 即答かよ。ったく。

「それに、この街のことを聞けそうなのは、お前らの姉弟だけだしな」

 こいつに話てもいいのか。旅をしているから、口コミで広がるんじゃねぇか?

 ……そうだ。

「話してもいいが、3つ条件がある。

 1つめは、他の街でこの話を言わないこと。

 次に、あんたが刺青者であることをこの街ではできるだけ伏せておくこと。

 最後に、この話を聞いたら、なるべく早くに出ていくこと。でどうだ?」

 あいつはため息をついた。興味も嘘じゃないかって思った。

「そんな、簡単なことでいいのか?約束を守るのは常識だし、明日のうちにはここを発つつもりだ」

 わざとらしく、笑わらった。

「……たいしたことないけど、聞くんだな?」

 彼は何もいわずにうなずいた。



 ――この街は、昔からの観光地。

 当時はまだ刺青者もいた。街の人たちも彼らを認めていた。

 けど、あるときから行方不明者が出るようになった。その事件を独自に調べると、わかりやすい共通点があったんだよ。


 全員が刺青者(トゥラー)

 おしゃれとかで彫った入墨(いれずみ)をしたやつじゃなくてさ。

 いなくなったのは、能力をもったやつらだけだった。

 職場で別れた後とか一人でいるときを狙って多発。一週間くらい続いた。

 ごくまれに目撃はあったけど、犯人らは駐屯兵だと聞いて驚いた。普段は街を守ってたやつ達だと思えるか?

 自警団の先輩たちも捜査に必死だった。誰一人、不明になったやつは戻ってこなかったから、余計に不安なんだ。


 それでも、犯人たちに対する疑念の広がりは止まらなくて、街に残っている刺青者たちにも疑いの標的になった。

 住民達が険悪になってきたのはそれからのこと。互いに誰がどうするかわからないから、疑っているんだよ。

 そしてさっきのような暴動も、この頃多くなってきたんだ。――



「なるほど、この街の雰囲気の原因はそういうことか。…けど、何もしなかったわけじゃねぇだろ?それからの詳細は?」

 カンテラの明かりが頼りの中、おれは書きながら答える。

「いや、無理そうだな。秘密事項だから教えられない。どうしてもって言うなら、あんたの元仲間に聞いてくれ。調査をした本人だし。おれの口から言える事は話した」


 経緯欄に付け足しを見つけたから、本人に聞いてみた。

「ん、そういやあんたの旅の目的って何だ?危険な宝石って書いてあるけど」

「そいつこそ大規模な秘密事項だ。マロが教えないなら、俺も教えねぇぞ。追求はよしとけ」

 言い終わるや否や、レズアは調書をのぞきこんできた。

「ほー、結構書けたんじゃないのか?」

「見るなよ!…ま、これくらい書けたならいいだろ」

「じゃあ、こいつをはずしてくれ。じゃまで何をしようにも出来ねぇからさ」

 手錠、そんなに邪魔か?

「まじないが彫ってあるだろ。こいつがあると、刺青者(トゥラー)は能力を使えない仕組みなんだ」

「そういや、あんたの能力もしってねぇな。刺青者ってのはわかってるけど」

 おれはポケットから出した合鍵で手錠をはずす。

「よし、わかった。見逃すなよ?」

 チョーク取り出し、牢にすばやく模様を描く。それは堤防に落書きしたのと似ていた。

「で、どうすればいい?」

 聞くのか。何が出来るんだよ?

「とりあえず、わかりやすいので頼む」

「よし」


 レズアが触れると、チョークで描かれた模様が光りだした。鉄格子に手をかけ内側に引っ張ると、いとも簡単に数本を折ってしまった。

「こんなもんだ。さわってみるか?」

 そう言いながら、牢から出てきた。

 鉄格子はおれが曲げられるものではないが、この時は簡単に曲がった。レズアは手を離している。

 まるで乾いていない紙粘土のようだ。

「俺の能力は“物質的変化”が中心。印が描かれたものはほとんど、硬度や容積とかも変えられる。…まぁ、描けない物には使えない。こんなもんでどうだ?」

 刺青者は、マジシャンや魔道師みたく、何も無いところから出すだけじゃないのか……。

 こんなに鉄が温度変化せずに変わるなんて、驚いた。あれ?

「なぁ、これ元に戻せるよな?」

「もちろん。手、放しとけ」

 パチン。

 彼が指を鳴らすと、大きな音をだしながら元の牢に戻っていった。チョークの模様は見当たらない。

「脱獄成功、ってな」

*続・執筆中

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