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ひぐらしの鳴く森で  作者: 天青


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1/1

出会い

「こんにちはー」


「いらっしゃい。今日も来たのかい」


「チャーシューラーメン1つ」


「はいよ」


 今日は何をやろうか? 釣り、読書、ビリヤード。いつもやっていることでなんだかな――


 今日も僕は学校終わりにラーメンを食べる。毎日学校に行って、放課後に1人で遊ぶ。それの繰り返し。部活には入ってないから時間はたっぷりある。

 

 僕はいつも1人だ、学校でも――家でも。だから、1人で遊ぶことは得意だ。僕は周りとは違う。そう思う時がある。学校では目立つことなく、教室の隅で本を読んでいるような奴だ。無理もない。


 学校は居心地が悪い。どいつもこいつも群れて生活している。周りの空気を読んで、自分を殺して。しょうもないな。


 ふん、こんなひねくれた中学生がいるだろうか? いや、いないな。僕は雄一無二だ。


 でも、少し寂しいと思う時だってある。それは友達がいないからじゃない。毎日が同じで退屈なんだ。いつも独りで同じことをして、同じものを食べて、同じ時間に寝る。それが僕だ。


 それにしても、このラーメンは美味しいな。色々な考えが吹っ飛んでいく。濃厚な豚骨ラーメンなのに、どこかあっさりしていて、旨味の塊のようなラーメンだ。チャーシューは口でとろけるほど柔らかくて、肉の味がしっかりしている。


 もう食べ終わってしまった。どうしようか――1日の楽しみがなくなってしまった。釣りは雨だから無しだ。家に居るのもなんだかなぁ。


 店の扉をガラガラと音をたてながら開き、ラーメン屋を出た。ふと、海に目が行った。小雨が店の屋根にあたる音に波の音が合わさる。他の音は何も聞こえない。まるで、世界で僕だけが生きているみたいだ。


 まぁ、今日は雨だからおとなしく家に帰ろうか。僕はいつもの道を通り、家に帰った。


 傘に雨があたる音は嫌いではない。でも、この町は嫌いだ。この住宅街は特に嫌い。犬が吠えてうるさいし、糞も落ちてる。ごみの日はネットをかけない人がいるからカラスがごみを荒らして汚いし、何より、住んでいる人が嫌いだ。家同士が近いから、必然的に他の家にどんな人が住んでいるのか、どのくらいのお金を持っているのかが良くわかる。だから、自分と比べたがる。大体はおばさんたちがグチグチと悪口を言っている。隣の鈴木さんがまた高級車を買ってる。山口さんの子供は私立の中学に行ってる。ざっとこんな感じだ。それを毎日のように聞かされる身にもなってほしいな。

 

 だから、この町は嫌いだ。


 家に帰っても誰もいない。僕はお父さんと2人暮らしだ。お母さんは僕が5歳の時に事故で死んだらしい。だから、お母さんのことはあまり覚えていない。お父さんは朝早くに家を出て、帰ってくるのは深夜だ。だから、ほとんど会わないし、話す機会も話す内容もない。


 常に、僕は独りだ。

 

 最近、やることが何もない。退屈な日々を過ごしている。他に何かやることはないのだろうか――


 次の日、6時に起き、昨日作った肉じゃがを食べ、家を出る。僕が起きた時には、お父さんはもう家を出ていた。行ってきますと誰もいない家に言って、僕は学校へ向かう。


 今日は蒸し暑い。昨日雨が降ったからだろう。朝から嫌になる。学校はコンクリートで出来ていて見栄えも悪いし、学校に入るとガヤガヤとうるさい。


 はぁ、朝から何なんだまったく。


 僕はため息をつきながら上靴を履き、階段を登って自分の教室に着いた。教室に来てやることは一つ。読書だ。それ以外にやることなんてない。


 中学3年の夏、もう受験勉強をするべきなのはわかっている。でも、僕はやりたくない。どうして他人と同じことをしなくちゃいけないのかが分からない。この生きづらい世の中が憎い。


 周りと違うとすぐに指をさされるこの世の中。なんか変だなぁ。


 それにしても、本は面白い。本にあるような体験がしてみたい。魔法、異世界、特殊能力。現実には無いような――


 そうは言ったって、ここは現実。自分に都合のいいことは一切起こらない。なんて厳しい世界だ。どうして神様はこんな世界を作ったんだろう。


 あっという間に今日の授業が終わった。先生たちの受験の話を聞くのは耳が痛かった。クラスメイトもあんなに真剣な表情で聞いていて正直笑えた――いや、本当は焦っていた。置いて行かれるような感覚。周りと違う方がいいと思っているのに、周りと違うと不安になる。とにかく将来が不安だ。


 今日の放課後は何をしようかな――昨日は家にいたから今日は外で何かしたい。


 んー。とりあえず、今日はいつもと違う道を通って家に戻ろう。家に戻ってから、釣り具を持って海に行くとするか――


 僕はいつもの海側の道を通らずに遠回りしていった。こっちの森側はあまり通ったことがない。だいぶ遠いけど、せっかくだから、あの森に行ってみるか。そういえば、あの森はよく幽霊がでるって学校の奴らが言ってたな。


 幽霊なんているわけない。ただの幻覚だ。そうは言っても少しは怖い。


 しばらくして、森に着いた。


「薄気味悪いなぁ」


 つい、声に出してしまった。ここまで来るのに結構歩いた。遠目から見ていた森はいざ来てみると、少し不気味に感じる。それに森に近づくと妙に涼しい。


 この先はどうなっているんだろうか? 僕は恐る恐る森に足を踏み入れた。


 不思議なことに、疲れてくたくたなのに、足はずんずんと進んでいく。最初こそ、不気味に見えた森は次第に心地よく感じてきた。この町は嫌いだけど、こんなに静かで隔離された場所があるなんて知らなかった。森は生い茂っていて先が見えない。行けども行けどもなにもない。でも、虫の音色が綺麗で、つい歩きたくなる。それに、向こう側になにかあるような気がする。


 ヒグラシの鳴く声が森中を覆っていくのを肌で感じる。日もだいぶ落ちてきて、夕日が綺麗だ。木々が邪魔で見づらいけど、真っ赤に燃えているようだ。空だけでなくこの一帯全部が紅い。


 そして気づけば、僕は森に迷っていた。そんなに奥まで行ったつもりはないのに。太陽の方向から考えて、海側に歩いているのに、一向に森は終わらない。やばい、どうしよう。このままでは完全に日が落ちて暗くなってしまう。


 焦りが徐々に積み重なって、今にも泣きそうなとき、ふと、後ろに気配を感じた。森に入った時から時々感じる妙な気配。


 振り返ると誰かいる――ような気がしたけど、やっぱり誰もいなかった。


 顔を前に戻したその瞬間。前から、スーッと冷たい空気が来て、いつの間にか目の前には大きな館が建っていた。


 僕は目を疑った。あるはずのないものが目の前にある。これは夢なのだろうか――


 僕は一度、館から距離をとってじっくりと見た。


 館は大きな池に囲まれていて、池には綺麗な鯉が泳いでいる。館への道は木造の赤い橋1本だけだ。館はとても古そうに見える。でも、ボロボロではなく、ちゃんと手入れされている。


 僕は興味本位でこの館に入ることにした――


 橋が壊れないか心配しながらギシギシと音をたてて館の扉の前に着いた。扉は木造で大きい。僕の力で開くことができるのか?


 僕は扉の取っ手を掴み、おもいっきり扉を引いた。すると、扉はギギギと嫌な音をたてながらゆっくりと開いた。


 開くと、木の独特な匂いが漂っていて、中は明かりがついていた。そして目の前には色白の女の子が立っていた――

 


 


 


 

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