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失敗ばかりの見習い魔女ですが、堅物騎士がなぜか毎日世話を焼いてきます  作者: はな


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第3話 世話焼き騎士と、ちょっとした嫉妬


 爆発音のあと。


 もくもくと煙が上がる台所で、私は正座していた。


「……反省しています」


「何回目だ」


 低い声が頭上から落ちてくる。


 怒鳴られているわけじゃない。


 むしろ静か。


 なのに、めちゃくちゃ怖い。


 クラウスは焦げた鍋を無言で覗き込み、深いため息をついた。


「家が吹き飛ばなかっただけマシか……」


「今回は小規模です!」


「規模の問題じゃない」


 正論で殴らないでほしい。


 しゅん、と肩を落とすと、彼はもう一度ため息をついてから、私の額を軽く小突いた。


「怪我は」


「ない、です」


「……ならいい」


 それだけ言って、手際よく片付けを始める。


 濡れ布巾。割れた皿の回収。窓を開けて換気。


 全部、慣れた動き。


 ……いや慣れちゃダメでしょ。


「ご、ごめんね。私やるから」


「お前は座ってろ。また何かやる」


「信用ゼロ!?」


「実績がな」


 ぐうの音も出ない。


 でも。


 文句言いながら、結局全部やってくれるところが。


 ずるい。


 優しすぎる。


「……クラウスってさ」


「なんだ」


「お母さんみたいだよね」


「誰がだ」


 即答だった。


 珍しくちょっとムッとしてる。


 あ、やば、地雷?


 と思った瞬間。


「……俺は保護者でも世話係でもない」


 ぽつり。


「……ただ」


「ただ?」


「放っておけないだけだ」


 それだけ言って、視線を逸らす。


 耳がほんのり赤い。


 ……ずるい。


 そういうの、ほんとずるい。


 心臓に悪い。


 ◇◇◇


 午後。


 買い出しに出た市場で。


「あれ? エミリアじゃん!」


 声をかけられて振り向くと、魔道具屋のお兄さんだった。


 この前、修理を手伝ったときに知り合った人。


「この前ありがとねー。助かったよ」


「いえいえ!」


「今度お礼にお茶でも──」


「必要ない」


 ぬっと、


 間に割り込んできた大きな背中。


 クラウスだった。


「……騎士様?」


「こいつは忙しい」


「え、私?」


「帰るぞ」


 ぐい、と腕を引かれる。


 え、え、強引。


 お兄さんぽかーん。


 私もぽかーん。


 しばらく歩いてから、やっと声を出す。


「ど、どうしたの急に」


「……別に」


「怒ってる?」


「怒ってない」


 絶対怒ってる。


 眉間のしわすごい。


 数歩歩いて。


 やがて、ぼそっと。


「ああいう軽い男は信用するな」


「え」


「すぐ口説く」


「……もしかして」


 にやけそうになるのを必死で我慢する。


「嫉妬?」


 ぴたり。


 クラウスの足が止まった。


「ちが──」


「嫉妬だ」


 自分で言ってから、はっとした顔。


 しまった、って顔。


 そして真っ赤。


 あ、これ確定だ。


 胸の奥が、きゅーっと甘くなる。


 なんだこれ。


 幸せすぎない?


「……うれしい」


「は?」


「だって、私のこと気にしてくれてるってことでしょ?」


「……当然だ」


 当然、って。


 さらっと言うな。


 心臓もたない。


 並んで歩く。


 肩が少し触れる。


 そのまま離れればいいのに。


 なぜか、どちらも一歩分だけ距離を詰めたまま歩いている。


 袖が、こすれる。


 歩幅がそろう。


 ふとした拍子に、手の甲がかすかに触れた。


「……っ」


 同時に、ぴくっと跳ねる。


 子どもみたいだ。


 でも、離れない。


 離れたくない。


 指先が、また触れる。


 今度はほんの少し長く。


 たったそれだけなのに、胸の奥がばくばくとうるさい。


(手、つなぎたいな……)


 思った瞬間、自分で自分にびっくりする。


 そんなの、恋人みたいじゃん。


 いや、好きなんだから恋で合ってるんだけど。


 でも、でも。


 勇気が出なくて、ちらっと隣を見る。


 クラウスも前を向いたまま、やけに無言で。


 でも耳が赤い。


 あ、これ。


 たぶん同じこと考えてる。


 そう思ったら、急におかしくなって。


「……ふふ」


「なんだ」


「なんでもない」


 言えるわけない。


 今すぐ手、つないでいい? なんて。


 そんなこと。


 その距離が、前より近い気がした。


「ね、クラウス」


「なんだ」


「今日の夜、またチョコ作っていい?」


「……爆発しないなら」


「がんばる!」


「……俺が横で見てる」


 その一言が、どうしようもなく嬉しくて。


 思わず笑ってしまった。


 ああ。


 こんな騒がしくて、くだらなくて、あったかい毎日が。


 ずっと続けばいいのに。


 隣を見ると、クラウスが少しだけ困った顔で笑っていた。


 その表情を見られるなら。


 何回だって爆発してもいいかもしれない。


「それはダメだな」


「心読むのやめて!?」


 今日も、たぶん平和だ。

 クラウスが隣にいる限り。


読んでくださってありがとうございます。

次回はバレンタインに向けて準備回です。

明日21:30更新予定です。

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