05 異世界ってすごい
俺がようやく落ち着いたのを見計らって、カティアさんが歩きながら口を開いた。
さっきまでとは違う、とても真剣な表情だった。
「まあ、いろいろ話したいことはあるけど……まずは、私たちアンノウン・クラウンの目的を説明するね」
少し間を置いてから、彼女ははっきりと言った。
「それは――神と魔神を倒して、この世界から魔法を消すこと」
あまりにも壮大すぎる話に、俺は思わず息をのむ。
神……?
聖騎士団が言っていた“神”って、本当に存在するのか?
ただの宗教的な概念じゃなくて……?い、異世界ってすごい……
俯いたまま、情報量に追いつかない頭を必死に回転させていると、
「おーい、おーい。起きてるかー?」
その声にハッとして顔を上げる。
「あ、すみません。ちょっと混乱してて……」
「大丈夫ならいいけど。質問はたくさんあると思うけど、後にしてもらってもいいかな?」
「え? 何かあったんですか?」
俺がそう聞くと、カティアさんは無言で俺の背後を指さした。
え、何? そんな「ホラー映画で振り向いたら終わり」みたいなやつ?
恐る恐る振り向くと――
白い人影が、そこにあった。
白い人影……? まさか!
「脱獄犯を捜せ! この方向から魔力が流れているぞ! 必ず確保しろ!」
一番偉そうな男が叫ぶと同時に、その白い人影が異様な速度でこちらへ迫ってくる。
ざっと3人ほどだろうか。
「まずい! 追手が来てますよ! 俺、牢屋に戻りたくないんですけど!」
俺は必死にカティアさんへ視線を送る。
だが当の本人は、汗ひとつかかず、相変わらずクールな表情を浮かべていた。
その落ち着きぶりに、少しだけ安心する。
「カティアさん、その顔……何か秘策があるんですよね?」
「ないよ」
「え、いや魔法の力で――」
「ないよ」
「あ、転移魔法陣とか――」
「ないよ」
「えぇ……?」
そう言うとカティアさんは、ひょいと俺を肩に担ぎ上げた。
「え、ちょ、何を――」
そして、にこっと笑う。
――あ、かわいい。じゃねぇぇ。
「しゃべらないでね。舌、噛むよ」
「え、ちょ、え――」
次の瞬間、世界がぶっ飛んだ。
「うおおおおおおお!?」
地面が一気に遠ざかる。
いや、違う――俺たちがとんでもない速度で走っているんだ。
いや、走ってるってレベルじゃない。
もはや弾丸だ。
風が顔に叩きつけられ、目を開けていられない。
「ちょ、ちょっと待っ――」
言いかけた瞬間、本当に舌を噛みそうになり、俺は慌てて口を閉じた。
多分今の俺めっちゃ不細工。
そんなどうでもいい事を考えていると、背後から怒号が飛ぶ。
「いたぞ! 捕まえろ!!」
「速い!? なんだあの女は!」
振り返る余裕はないが、どうやら追手もただ者じゃないらしい。
地面を蹴る音が、まだ遠ざからない。
「カティアさん! これ逃げ切れるんですか!?」
風に負けないよう叫ぶ。
すると彼女は、相変わらず軽い調子で答えた。
「んー、半々かな」
「半々!?」
あー、なんか中華料理の代表みたいな?いや、それチャーハンやないかい!
、、、、、
えー、大変失礼いたしました。
あまりの動揺に映像が乱れてしまいました。
俺がそんなしょうもない思考を巡らせている間に、
もう追手は目と鼻の先まで迫っていた。
俺の異世界生活は、童貞のまま終わってしまうのか、
刹那、カティアさんが少し残念そうな表情を浮かべながら口を開く。
「仕方ない、できれば使いたくなかったんだけどな」
そういうとカティアさんの周りに花のように見えるオーラが現れる。
そして、体を逆方向に向けると
次の瞬間追手の一人が目にも止まらむ速さで吹っ飛んでいく。
吹っ飛ばされた追手の一人は、ドコっと爆音を立てながら地面と衝突した。
後から追ってきた二人もその場に立ち止まって話始める。
「なっ貴様まさか魔法を、」
「さぁ?警戒せずアホ丸出しで、向かってくるそっちが悪いんじゃない?」
「アホ、、だと、神からの寵愛を受ける我々を愚弄する気か」
「神神って、まー、君も被害者ってことだもんね」
「なっなにを」
「言っても聞かないと思うから言わなーい」
「っく」
その瞬間だった。
残っていた二人の白い人影が、音もなく消える。
「え?」
次の瞬間。
左右から、同時に殺気。
「うわっ!?」
俺が叫ぶより先に、カティアさんが地面を蹴った。
ドンッ!!
爆発みたいな音と共に、景色が跳ねる。
俺を担いだまま、真上へ跳躍したのだ。
「ちょっ、なんでこんな飛べるんですか!?」
「女の子の体重に触れる話はダメだよ?」
「そこじゃねぇ!!」
空中で、白い人影の斬撃が交差する。
ズガァァン!!
地面が十字に裂けた。
「怖っ!? 威力やばすぎじゃないですか!?」
「なるほど、斬撃をどうにかこうにかする系ともう一人は魔法なしかな。当たったら結構いたそうだね」
「結構で済むんですか!?」
カティアさんは空中でくるりと回転すると、そのまま俺を放り投げた。
「へ?」
空中に。
俺だけ。
「え?」
ちょ、待って。
「えええええええええええええええええええええ!?」
普通投げる!?
仲間を!?
するとカティアさんは、落下する俺を見ながらニコッと笑った。
「大丈夫大丈夫。死なない死なない」
「そのセリフ言うやつ信用できないんですけどぉぉぉぉぉ!?」
その直後。
――ドォン!!
カティアさんが白い人影の一人を蹴り飛ばす。
一人が吹き飛んだ。
そう思った瞬間――視界の端で、もう一人も倒れ込む。
「え?」
瞬きする間に、二人とも地面に転がっていた。
い、いつの間に?
二人同時に倒れたようにしか見えなかった。
でも、カティアさんは一人目を蹴った位置から、一歩も動いていないはず――。
……って、
「て、てかやばい落ちるーーーー!!」
風が耳元で暴れ狂い、地面がものすごい勢いで迫ってくる。
「あ、これ死んだわ」
異世界転生して早々に死亡。
死因・投げ捨て。
雑すぎるだろ俺の人生。
「うおおおおおおおーーー!!」
ぼふんっ。
「……へ?」
痛く、ない?
恐る恐る目を開ける。
すると、目の前にカティアさんの顔があった。
この体勢って、まさか――
「お姫様抱っこやないか!」
「うわっ、急に大声出してどうしたの、けがはない?」
「あ、大丈夫です。すいません、ちょっと興奮しちゃって」
「まー、こんな美少女と近づいたらドキドキしても仕方ないよね」
「いや、罰にそういう」
「ん?」
「可愛すぎて興奮してしまいました。」
「よし。」
カティアさんは満足げな表情を浮かべる。
いや、確かに顔はすげー整ってるんだけどな
なんか、残念な感じだ
「今、失礼なこと考えてない?」
「いえ、待ったく」
俺は屈託のない笑顔で異世界初めての嘘をついた。




