03 アンノウン・クラウン
毎日22時頃に投稿しています。
異世界に来てから、どれくらい経ったのだろうか。
薄暗い石の壁の隙間から差し込む太陽の光を、何度見ただろう。
あの後、聖騎士団に連れて行かれてからの日々は、まさに地獄だった。
「出身は? 魔法は? その服は何?」
「……」
こんな尋問が、毎日何十時間も続いた。
尋問が終わったあとも、牢屋の中でやることは何もなく、ただ座り込むだけ。
飯はたまにしか来ないし、衛生環境も最悪だ。
そもそも聖騎士団とは、神を信仰し、町の治安を管理したり、国のお偉いさんを護衛したりする、
この国――エヴァリオン王国の国家直属組織らしい。
――それはさておき、とにかく腹が減った。
最初は「異世界人だとバレたら解剖される!」と警戒していた。
でも今、もし「寿司食わせてやる」と言われたら、ペラペラしゃべってしまいそうだ。
正直、もう白状して楽になりたい。 だが、この中世っぽい価値観の世界だ。「異世界から来ました」なんて言えば、薬物中毒者として処理されるか、あるいは「悪魔の依代」として焚き火の燃料にされるのがオチだろう。
だから今のところ、自分に関する情報は一切話していない。
尋問官に爪を剥がされたり、暴行を受けたりしているわけではないので、まだマシなほうかもしれない。
それでも、尋問官とのやり取りの中で、この世界について少しずつ分かってきたことがある。
この世界には、魔法が存在する。
魔法は一人ひとつしか持てない。
魔法を持つ人と持たない人は、だいたい半々。
魔法の発現は四〜五歳で、生まれつき使える魔法は決まっている。
魔法は魔力を使って発動する。
魔力は全員が持っていて、身体能力の向上などにも使える。
魔力は鍛えれば増やせる。
まさに魔法ファンタジーの世界だ。
――だが、尋問官曰く、俺の魔力はほぼゼロに近いらしい。
なので、仮に俺に魔法があったとしても、実用レベルでは使えないとか。
もう、全部話して楽になろう。
そんなことを考えていたとき、分厚い檻の向こうに人の気配があることに気づいた。
また尋問か……もう、カツ丼とか持ってきてくれ。
「ねえ、君。助けてあげよっか?」
乾いているのに、どこか温かさを感じる声だ。
立ち姿からして、どうやら女性らしい。スタイルいいな……
女性はローブを短く切った、パーカーのような服を着ている。
俺はなぜか、その姿に懐かしさを覚えた。
「……助ける?」
「そう。私なら、あなたを檻の外に出してあげられるわ」
檻から出られる。
その一言は、地獄の底に垂らされた蜘蛛の糸のように聞こえた。
聖騎士団の人間じゃないのか…?
分からない。敵なのか、味方なのか。
――でも、そんなことは今どうでもいい。
今は、この檻から出られれば、それでいい。
「助けるかわりに、協力してほしいことがあるの。やってくれる?」
俺の答えは、もう決まっている。
最後の力を振り絞って、俺は小さくうなずく。
「じゃあ、契約成立ね」
そう言うと女は鍵を取り出し、牢屋の扉を開けた。
中に入ってきた彼女は、ゆっくりとこちらへ歩み寄り、手を差し出す。
俺はその手を取り、よろめきながら立ち上がった。
彼女は顔を近づけ、イタズラが成功した子供のような笑みを浮かべて囁く。
「ようこそ秘密結社――アンノウン・クラウンへ」
絶望の底に響いたのは、鈴を転がすような鈴鳴りの声だった。
「あと、君なんでずっと『ステータスオープン』って叫んでたの?見てるこっちが恥ずかしくなっちゃったよ」
俺は死にたいと思った。尋問の辛さではなく、羞恥心で。
今回は、物語の根幹に触れる部分を書いたので
自分も書いていてとても楽しかったです。
次回も頑張ります!




