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209号室 ~ 告知事項なし  作者: 紬 蒼
3章 逃ゲル - 細田・眞島
9/12

方法

 俺達は夜中の2時半頃から6時頃までファミレスにいた。

 人の少ない時間帯にコーヒーとモーニングだけで長時間滞在していたので、かなり目立っていたと思う。

 だが、こんな時間帯に他に行く場所もなかったし、俺は勿論、眞島さんも家に戻る気はなかった。

 俺の為に一緒にいてくれた訳じゃない、と思う。

 あの部屋の住人ではない眞島さんは例え自分の部屋が902号室であっても、なんとなく大丈夫な気がしていた。

 けれど、眞島さんは『通りゃんせ』の歌の7という数字の意味を解き明かすまでは部屋に帰りたくない、と一緒にネットカフェへ行くことにした。


 この辺りにはネットカフェがない為、俺達は電車に乗って繁華街へ向かった。

 日曜の朝7時過ぎ。

 人はまばらで繁華街はまだ閑散としていた。


「何から調べましょうか?」

 パソコンを前に俺は隣に座る眞島さんに訊いた。

「あの場所で亡くなっているのは今のアパートが建つ前、古いアパートで亡くなった中学生だけです。だとすると、部屋ではなく土地が『事故物件』なのではないでしょうか?」

「じゃあ、土地の歴史を調べてみますか?」

「そうですね。墓地だったとか……何か曰くがあるはずです」

 眞島さんの提案で過去の地図を幾つかネットで検索してみた。

 遡れたのは明治時代までだったが、そこまで遡っても周辺を含めて墓地や処刑場など事故物件になり得そうなものはなかった。

 人が亡くなる場所としては病院なども挙げられるが、死と結びつくような施設が建っていた形跡は見当たらなかった。

「それにしてもあの土地に何かがあったとして、特定の数字に執着する原因は何でしょうか? 建物が変わっても同じ部屋番号の住人だけが死亡している、というのはまるである種の呪いのような不気味さを感じます」 

 眞島さんはそう言って両腕を組んだ。


「2と9に関する呪い、ですか?」

 そう言いながら俺はネットで2と9、そして呪いというキーワードで検索する。

 しかし、関連のありそうなものは見当たらなかった。

 7という数字を含めてみてもそれらしいものはない。

「2と9と7……9から2を引くと7になりますね」

 ふと思いついたことを口にする。

 すると、「確かに」と眞島さんが組んでいた腕を解いて身を乗り出した。

「クローゼットの7はヒントのような気がするんですよね。今のところ7という数字が出て来てないですし」

 眞島さんの言葉に今度は俺が「確かに」と頷いた。

 2と9の呪いを解くキーワードが7なのかもしれない。

 だって『お祝い』って言葉が使われていた。

 まだ入居者全員が死んでるとは決まっていない。

 生き残った人がいて、その人が残したメッセージかもしれない。

 そう考えると希望が見えた気がした。


「細田様、調べる方向を変えませんか?」


 ふと眞島さんが神妙な顔になる。

 俺がどの方向へ? という表情で振り返ると、「専門家を探しませんか?」と眞島さんが提案した。

「専門家って……お寺とかですか?」

「大家さんが既に一度お祓いしたとお話しましたよね? 誰に頼んだのかも一応聞いておいたのですが、近くのお寺の住職に頼んだそうです。別のお寺や神社に頼んでも良いですが、もっと専門的な方、例えば霊能者的な方にお願いした方が効果があるんじゃないでしょうか?」

「そうでしょうが……そういう方達って遠方にいるイメージがあるので、すぐには来て頂けない気もしますし、料金も高そうじゃないですか?」

「お金より命でしょうっ」

 眞島さんが興奮気味に言うので、シィッと人差し指を立てる。

 眞島さんは周囲を見回して「この呪いから逃れる方法を考える方が先決です」と声を抑え気味ではあったが、苛立った様子で言った。


 当事者のはずの俺よりも眞島さんの方があの部屋を怖がっている。

 声を聞いたから?

 住んでいる部屋が902号室だから?

 他にも何か……あるのか?

 自分よりも怖がっている人を目の前にすると、人は冷静になるようで、俺の中の恐怖心は少し薄らいでいた。

 だから、冷静になって改めて考える。


 パソコンの画面の右下を見る。

 表示されているのは6月9日。

 時刻は7時55分。

 今日は9のつく日だ。


 2と9を避けるべきだと眞島さんは言う。

 けれど。


「逆なんじゃないでしょうか」と俺は切り出してみた。

 何が? という表情の眞島さんに俺は続ける。

「この3年間、あの部屋で亡くなった人が1人もいないというなら、むしろ2と9のつく日はあの部屋にいるべきなんじゃ……?」

 俺の言葉に眞島さんは僅かに目を見開き、「そうか」と青ざめていた顔に生気が戻った。

「皆、あの部屋の外で亡くなっています。あの部屋から逃げるのではなく、あの部屋はシェルターだった。そういうことですね?」

「ただの憶測なんで、当たっているかどうかは分かりませんが」

「いやっ。間違ってないですよ、きっと。逃げたから死んでしまったと考える方が合理的です」

 眞島さんはそう言って大きく息を吸った。

 深呼吸をして落ち着きを取り戻した眞島さんは再びカウンターで会った時の顔つきに戻っていた。


「でも、お祓いはしましょう。俺の考えが間違っていたら、今日は危険な日ですから。命の方が大事ですしね」

 俺はそう言って、ネットで霊能者を探し始めた。


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