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209号室 ~ 告知事項なし  作者: 紬 蒼
3章 逃ゲル - 細田・眞島
8/12

通りゃんせ

 床にブランケット1枚だからか、なかなか眠れず、スマホで時間を確認すると2時近かった。

 いつもなら物音がする時間だが、何の音もしない。

 歩き回る足音も、椅子などを動かす音も、壁を叩く音も。

 何1つ音がせず、とても静かな夜だった。

 自分が寝返りを打つ音と眞島さんの寝息が聞こえるだけだ。


 部屋に1人じゃないっていうのは心強いものがある。

 とはいえ、なんとなく部屋の電気を消す気にはなれなくて、眞島さんも明るい中でも起きないので、点けたままにしていた。


 が。

 突如、眞島さんが飛び起き、上半身を起こして肩で大きく息をしている。

「眞島さん……?」

 声を掛けるが、大きく目を見開いて誰かを探すように室内を見回している。

「眞島さん? どうか……しましたか?」

 再度、声を掛けると、やっと俺の方を見た。

 その顔は青ざめている。


「声が……」

 眞島さんはそう一言、呟くように言って片手を耳に当てた。

 その様子に俺はあの声を思い出す。

 眞島さんもあの声を聞いたのだ。

「……もしかして若い女性の声、でしたか?」

 俺の問いに眞島さんは小さく頷いた。

「もしかして……『見ぃつけた』っていう……?」

 俺の問いに眞島さんは再び大きく目を見開いた。

 あれはやっぱり夢じゃなかったんだ。

「最初の……住人がまだ……」

 この部屋にいるのか、と俺が眞島さんを見つめると、眞島さんは俯いて「違う」と短く呟いた。

「大人の女性の声じゃない。もっと若い……」

 それって、もしかして。

「多分、中学生くらいの……」

 焼鳥屋で眞島さんが言っていた話を思い出す。

 このアパートが建つ前に自宅で首吊り自殺をした中学生。

 この部屋にいるのは彼女なのか。


 俺と眞島さんは互いに視線で頷き合った。

 この部屋は『事故物件』だ。

 その定義に当て嵌まらなくとも、この部屋には確実に()()

 俺達はそう確信した。


 そして、再度俺達は頷き合って、何かに追い立てられるように無言で部屋を出た。

 そのまま無言で深夜の町を歩き、灯りと人のいる場所を求めて目についたファミレスに入った。

 とりあえずアイスコーヒーを頼んだところで、周囲を見回す。

 まばらに人がいた。

 24時間営業の店があって本当に良かった、と安堵する。


「私は今の会社に20年いて、事故物件もそれなりに扱って来ましたが……こんな体験をしたのは初めてです」

 眞島さんはテーブルに両肘をつき、頭を抱えてそう零した。

 そこに注文したコーヒーが運ばれて来る。

 それに俺はすぐ口をつけたが、眞島さんは見向きもせず、頭を抱えたままテーブルの一点を見つめていた。


「眞島さん、実はクローゼットの中に文字が彫ってあって……」

 俺はどうにも気になっていたことを切り出した。

「文字?」

 眞島さんが顔を上げ、眉間に皺を寄せる。

「それが『7つのお祝いに』って。どこかで聞いたことのあるフレーズなんですけど……思い出せなくて」

「それって多分『通りゃんせ』じゃないですか?」

「あ。通りゃんせ、通りゃんせっていう?」

「『この子の7つのお祝いに御札を納めに参ります』っていう歌詞があったと思います。なんだか怖い印象のある歌ですよね」

「行きはよいよい、帰りは怖いって……あれってどういう歌なんでしたっけ?」

 俺の問いに眞島さんはスマホを取り出して検索し始めた。

「……諸説出てきますが、七五三のお参りに行く様子が一般的な解釈ですが、口減らしに子供を捨てに行く説と神様の元へ置いて来るという生贄という説がありますね。帰りは子供を置いて母親が1人で帰るので、罪悪感とか殺めた子の霊がついてくる恐怖で『帰りは怖い』と歌っているようです」

『霊がついてくる』という言葉に俺は思わず周囲を見回す。

「2と9だけじゃなくて7にも気をつけろってことなんでしょうか……?」

 眞島さんは力なく俺を上目遣いに見た。

 数字が出たところで俺は答えを聞けなかった問いを再びしてみることにした。

「そういえば、死亡が確認できてるのは入居した6人のうち2人でしたよね? 実家で亡くなったっていう方はいつ亡くなったんですか?」

 俺のその何気ない問いに眞島さんの表情は曇った。

 そして、「違うんですよ」と眞島さんは再び視線を落とした。


「違うって……どういう意味ですか?」

「不動産屋として知り得たのは2人だけだったんですけどね……多分……全員亡くなっていると、私は思っています」

「え? それは……どういう……?」

「細田様が退店された後、別件で見た物件が209号室で……ふとその部屋の過去の資料を見たら住人の方のご友人がその部屋で亡くなっていたんですよ。普通はそのご友人に関する情報なんて私共は知り得ないことですが、資料の端に氏名が走り書きされてまして……そのお名前に見覚えがあったもので、あのアパートの契約書を探してみたら……」

「まさか……」

「ええ。あの部屋の過去の住人の方のお名前でした。同姓同名と言うことも有り得ますが、多分、他の方も……調べたら……」

 眞島さんの言葉に俺は思わず生唾を飲み込んだ。


「細田様。もうあの部屋には戻らない方が良いかもしれません。9月2日だけじゃないです。2月9日もですが2日や29日も危険です。亡くなった日は2か9のつく日でした。クローゼットの7という数字も前の住人が遺したものなら、きっと何か意味があると思います」

 眞島さんの言葉に俺も『通りゃんせ』の歌がこの状況を打破するヒントのような気がしてきた。


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