表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
209号室 ~ 告知事項なし  作者: 紬 蒼
3章 逃ゲル - 細田・眞島
11/12

終着

 俺は会社から帰宅すると、ノートパソコンを開いた。

 Wordにこの部屋に入居してから現在までの出来事を時系列に並べて書き出した。


 4月。入居間もなく、深夜の物音が騒音トラブルではなく、室内からすることに気づいた。

 5月。不動産屋に相談して注意喚起のビラを各部屋にポスト投函してもらって1カ月経っても音は続いた。

 6月。声を聞いて再び不動産屋を訪れる。担当の眞島さんから3年で6人入退去があったことを知る。

 一緒に調べ始めると、入居者のうち2人が死亡していたことに加えて、最終的に3人の死亡が発覚。

 このアパートが建つ前も木造アパートが建っていて、その時に同じ部屋番号の209号室で中学生が首吊り自殺していたことを知る。

 大家さんは不動産屋にも内緒でお祓いをしていたことが発覚。

 しかし、その後も短期間の入退去が続いていることから、お祓いの効果はなかったと思われる。

 図書館で過去の事件、事故を調べたが、最初の入居者の飛び降り自殺以外、見つからなかった。

 ネットカフェで霊能者を探すも、ほとんどがインチキだった。

 唯一口コミの良かった県内のお寺の住職を頼る。

 御守を買う。

 8月。住職の助言通り、お盆を実家で過ごす。椅子取りゲームをする夢を見た。眞島さんも同じ夢を見ていた。

 椅子の数が7だったこととクローゼットに彫られていた『7つのお祝いに』というフレーズが関係している?


 簡単に書き連ねてみると、大したことは起きていないように思えた。

 2と9の数字がやたら登場することも書いた。

 書きながら、これまでの住人の情報を時系列で並べてみたくなった。

 なので、眞島さんにメールした。

 明日、お寺に行く時に資料をお持ちします、と返事が来た。


 翌朝、眞島さんがレンタカーで近くの駅まで迎えに来てくれた。

 片道1時間の道中、俺達は住職に希望を見出していた。

 御守のお蔭か、全てが夢だったのではと思えるほど、平穏な日々を過ごせたからだ。


 だが、もうすぐ寺に着くというところで俺のスマホが鳴った。

 相手は住職だった。

「申し訳ありませんが、葬儀の予定が入ってしまいまして」

 お寺なので仕方ない。

 通夜と葬儀で今日明日は難しいとのことだった。

「タイミングが悪いですね」

 俺が住職との会話を伝えると、眞島さんは残念そうに言った。

「御守の効果は永遠ではないそうなので、近い内に新しい物に替えてくださいって言ってましたよ」

「効果がある気はしますが……こう頻繁に買い替えなければならないなら、霊感商法の壺に見えてきましたよ」

 眞島さんはそう言って笑った。


 俺達は日を改めてまた住職に会いに行くことにしたのだが、互いのスケジュールが合わないまま、8月も終わろうとしていた。

 俺は眞島さんから貰った資料をWordにまとめた。

 過去の入居者を入居した順に並べ、入居した日、退去した日、死亡したと分かっている人は死亡した日、そして、死亡した場所を入力した。


 1人目。4月入居。9月、死亡により退去。

 2人目。10月入居。11月退去。

 3人目。12月入居。翌年2月退去。12月の年末年始の帰省中、実家の902号室で死亡。

 4人目。3月入居。5月より音信不通のため、12月強制退去。5月に友人宅(別場所の209号室)で死亡が判明。

 5人目。翌年2月入居。12月退去。


 そして、このアパートが建つ前の木造アパートの209号室で中学生が首吊り自殺をしている。


 並べてみると、入退去のサイクルが異常だと分かる。

 それに5人のうち、3人が死亡しているのも異常だ。

 残り2人もどこか別の場所で既に死んでいるのかもしれない。


 でも。

 眞島さんは最初3年で6人と言ってなかったか?

 俺は眞島さんに5人分しか資料がないですけど、とメールを送ってみた。

 眞島さんからは間違えたみたいです、と返信があった。


 でも。

 あの椅子取りゲームの夢を思い出す。

 椅子は7つあった。

 その6つが過去の住人なら、あと1つは中学生なのか。


 いや、違う。

 あの夢は俺と眞島さんが見た。

 7つ目に俺か眞島さんが座るのではなく、2つ空いていた?


 この部屋に住んでいない眞島さんがなぜ……?

 それは俺の中でずっと引っかかっていた。

 この部屋であの声を聞いてしまったから?


 そんな疑問を抱えたまま、互いに仕事がの忙しさなどで事故物件についての調査も保留になり、このまま平穏な日々を過ごせると思っていた。


 日曜日。

 俺は学生時代の友達に呼び出され、久し振りに街中の居酒屋に集まって飲んでいた。

 明日は月曜だから仕事がある奴がほとんどだったのに、1軒目の居酒屋だけでは飲み足りず、2軒目はバーに行くことになった。

 バーはビルの中にあると聞いて、ビルの前で立ち止まった。

 ふとスマホで時間を確認して、画面を2度見した。

 今日は9月1日だった。

 現在22時。

 このままバーにいる間に日付が変われば9月2日になる。

 その日付に俺はバーが何階にあるのか友達の1人に確認した。

 5階だという答えに安堵する。

 皆と一緒にいれば転落することも首を吊ることもない、はずだ。

 1人でいるより安心できる。

 そう思った。


 バーで飲んでいると、不意にスマホが振動した。

 眞島さんからだった。

 店内だと聞こえにくいので、ひとまず店の外へ出る。


「細田さん、今どこにいます?」

 眞島さんの声は僅かに震えていた。

「今、外なんですよ。友達と飲んでて」

「どこのお店ですか?」

 眞島さんはどこか切羽詰まったような声音だったので、店の名前と場所を伝えた。

 すると眞島さんは「今からそちらに伺ってもよろしいですか?」と訊いて来た。

 なので理由を問う。

「……御守を失くしてしまったんです」

 その一言に俺は眞島さんの心情を察した。

 幾ら現状何も起こっていないとはいえ、御守の無い状態で9月2日を迎えることは避けたいはずだ。

 なので、俺は30分後にビルの前で会う約束をした。


 電話を切った後で時間を確認すると、既に日付が変わっていて9月2日の午前1時前だった。

 30分後となると、1時半頃か。

 嫌な時間だな、と思った。

 俺はすっかり酔いが醒め、席に戻ったもののスマホを握り締め、酒もあまり口にせず、ただただ眞島さんからの連絡を待った。

 しかし、30分を過ぎても眞島さんから連絡はなく、40分過ぎたところで俺は店の外に出た。

 ビルの前で眞島さんを待ったが、通りを見渡せど来る気配はなく、迷っているのかと思い、電話を掛けようとしたその時だった。


 背後で大きな物音がした。

 次いで周囲から悲鳴が上がった。

 ゆっくりと振り返ると、繁華街の明るい照明がまるでスポットライトのように道に倒れた人に当たっていて、血がゆっくりと流れて広がっていた。

 うつ伏せに倒れていたが、俺はすぐにそれが眞島さんだと分かった。

 でも、一縷の望みをかけて電話を掛けた。

 倒れた人の傍らに落ちていたスマホが鳴る。

 やっぱり、眞島さんだ。


 ビルの屋上を見上げる。

 そして、気付いた。

 このビルは8階建てだ。

 屋上は9階だ、と。


 あんなに2と9を恐れていた眞島さんが自ら屋上に行くとは思えない。

 自殺する理由もない。

 死にたくないから御守を失くしたことで怯えていた訳だし。

 なら、なんで……?


 そこでふと俺は自分の胸を掴んだ。


 無い。


 俺の御守も無い。

 服の上から胸元を抑えて探す。

 どこにも御守の厚みが感じられない。

 首に手を当てると紐の感触はあった。

 引っ張り出すと、紐の先が切れている。

 紐は普通の御守とは違って組紐が使われていた。

 何本もの糸が縒り合わさったもので頑丈だった。

 それが切れるなんて。


 慌てていると、眩しい光が近づいて来て、振り返ると目前に車が。

 耳には車のエンジン音に混じって女の子の笑い声が聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ