表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
209号室 ~ 告知事項なし  作者: 紬 蒼
3章 逃ゲル - 細田・眞島
10/12

御守

 俺達はネットで『除霊』をキーワードに検索した。

 しかし、有名な霊媒師は最短でも1年待ち、他の霊媒師、霊能者にメールで連絡を取るも男性の幽霊が視えるとか戦国時代の武士の霊などと的外れだった。

 その上、出張費として高額な金額を提示され、詐欺紛いで信憑性に欠けるものばかりだった。

 もしくは廃業したのか、多忙すぎるのかメールを送っても返信が来ないというのもあった。

 

 眞島さんはお寺や神社は効果がないと思っているようだったが、県内、除霊で検索すると、妙に口コミの良い寺が一つだけあった。

 何より『相談無料』という言葉に惹かれ、俺は眞島さんを説得して、とりあえず話だけでも、と店の外で電話してみた。

 朝の9時過ぎだったが、日曜だったので営業時間外かも、とは思った。

 でもお寺の営業時間という概念がそもそもピンと来ないし、ネットにも特に書かれていなかった。

 ダメ元という気持ちで掛けてみると、年配の男性が出た。

 ネットで除霊をしているのを見て連絡した、と伝えると、すぐに来なさい、と言われて電話が切れた。

 眞島さんにそれを伝えると、レンタカーを借りて行こうということになり、2時間後には件のお寺に着いた。


 山の中の小さなお寺で、長い坂道の上にあった。

 とても静かで山の中のせいか吹き抜ける風も心地良く、ここ最近の鬱々とした空気が浄化されるようで、とても神聖な心持ちになった。


「率直に申し上げますと、土地が良くないのだと思います」

 俺達の話を聞き終えた住職は静かにそう言った。

 よく見るお寺の本堂ではなく、応接間のような普通の家の一室に通された。

 煎茶と羊羹が出されたが、俺も眞島さんも煎茶にだけ口をつけた。

「やっぱり……土地ですか。だとしたら、もうあのアパートには戻らない方が良いですよね?」

 眞島さんが問うと、住職は俺と眞島さんを交互にゆっくりと見、それから背後の飾り棚の引き出しから御守を取り出した。

 白いよく見る御守だったが、長い紐が付いている。

 それを俺と眞島さんに向けてテーブルの上に置いた。

「その部屋に住んでらっしゃるのはこちらの方とお見受けしますが、あなたも既に魅入られてしまったようです。現実的にすぐにお引越しは無理だと思いますので、とりあえずの予防として、こちらをお持ちください」

 俺達はどっちがその部屋に住んでいるかはあえて話していなかった。

 2分の1の確率とはいえ、それを当てられないようでは信頼性に欠ける。

 この住職が『本物』かどうか見極めるために、幾つか情報を伏せて話そうとここに来る道中、事前に話し合っていた。


「こちらの御守は首から下げて片時も肌身離さずお持ちください。お風呂に入る時もいかなる時も、です。濡れても汚れても構いません。あと、御守の基本として中身は出してはいけません。開けて見てもよろしいですが、できればそれも避けてください。気とか念といったものを込めておりますので、それらが逃げないようにお願いします」

 中を見てはいけないというのは尤もな話ではあるが、胡散臭さを感じた。

 何も入っていないか、紙切れ1枚が入っているだけとか。

 住職はどこにでもいる普通のオジサンで、柔和な顔をして物腰も柔らかい。

 詐欺っぽい、と俺は思った。

「こちら3000円になります」

 その一言で俺達は騙された、と思ったが、無料で御守を貰うというのも考えてみればおかしな話で、渋々財布を取り出す。

 が、眞島さんは「必要ありません」と突き返した。

「そうですか。そう仰るなら無理にはお勧めしませんが……これは簡単にお祓いできるような話ではないとお見受けします。古くから土地に根深くあるモノ故、1体が憑りついているといった単純な話ではございません。今聞かせて頂いたお話だけでは判断できませんが、これは土地を浄化しない限り、どこまでも付き纏う類のものです」

「なら、現地で浄化してください」

 眞島さんがそう言うと、住職は困惑したように視線を手元に落とした。

 その手にはいつの間にか数珠が握られていた。

「それは私1人では無理な話です。土地の持ち主や大家さんとご相談する必要があると思います。お祓いと言いますと、お経をあげてお終いと思っている方が多いですが、祭壇を作ったりいろいろと準備がいりますから、トラブルにならないよう事前に持ち主の許可が必要です。こういったことはデリケートな問題ですから。目に視えないものを信じない方はとても多いので。この御守もそうです。念を込めたと申し上げても、あなた方には視えません。本当に効果があるかどうか分からない物にお金を払うのは躊躇われるでしょう? 私からはこれがあなた方には必要だとしか言いようがございませんし、無理矢理買わせる訳にもいきません。でも、今私があなた方にして差し上げられることはこれが精一杯なんです」

 住職はそう言って申し訳なさそうな表情で俺達を見た。

 詐欺かもしれない。

 でも、その表情と口調は俺の心には誠実に響いた。

 それは眞島さんも同じだったようで、突き返した御守を手前に引き寄せ、それから財布を取り出した。


 住職は合掌し、短いお経を唱えてくれた。

「もう1つだけ。お盆は実家でお過ごしください。ご先祖様のご加護がありますから、お墓参りをされて仏壇の側で寝起きされることをお勧めします。お盆の時期だけはあの土地を離れてください」

 レンタカーに乗り込む俺達に住職はそう言って見送った。


 帰りの車中、俺達はしばらく無言でいた。

 行きは眞島さんが運転し、帰りは俺が運転を申し出た。

 山を抜けて、民家が点在する道路に出たところで、助手席の眞島さんが「さっきの、本当だと思いますか?」と訊いて来た。

 眞島さんも御守を買ったものの、半信半疑のようだ。


「ネットで見た霊能者達に比べたら遥かに信憑性はある気はしましたけど……正直分かりません。ただ、誠実な印象は受けました」

 俺は正直な感想を伝えた。

「確かに悪い印象はなかったですが……ここまで来てお祓いできないって言われたのは残念でしたね」

 それは俺もショックだった。

 これで解決すると思っていたからだ。

「お経をあげるだけじゃないって住職も仰ってましたし、現実はテレビや映画で見るよりずっと大変なんですかね?」

「そうみたいですね。でも、私には言い訳のようにも聞こえました」

「言い訳、ですか?」

「霊力と言いますか、そういった力がないから、できないことを尤もらしく言っているような。そんな印象を受けたんですが。でも、せっかく買ったので御守は身に付けようと思います。鰯の頭も信心からって言いますし」

 眞島さんは言いながら早速御守を首に下げていた。

 俺は貰った時に既に付けている。

 地元でも聞いたことのないお寺で、あんな山奥にお寺があることすら知らなかった俺達だったが、それでも御守のお蔭であの部屋に帰る勇気は持てた。


 言われた通り、お風呂に入る時も仕事へ行く時も常に御守を身に付けていた。

 そのお蔭か、お寺に行った日から深夜の物音も止み、声を聞くこともなく、穏やかな日常を取り戻した。

 いつまで付けていればいいのか、そこを聞き忘れたが、9月2日までは身に付けておこうと思った。

 眞島さんとはあの後、一度だけ連絡を取った。

 互いに何も起きていないことを確認し合い、無事を確認し合った。


 再び眞島さんに連絡したのはお盆明けの平日。

 昼休みに会社の外で電話してみた。

 妙な夢を見たからだ。


 お盆は実家でお墓参りをして仏壇のある部屋で寝起きするよう言われていたのを俺は忠実に守った。

 それは眞島さんもだった。

 実家で過ごすのは久し振りだったと言っていた。


「変な夢を見たんですよ」

 俺がそう言うと眞島さんが「椅子取りゲームをする夢ですか?」と訊いて来た。

「眞島さんも……見たんですか?」

「ということは細田さんも?」

「はい。強制的に座らされそうになって、誰かに突き飛ばされて目が覚めました」

「同じですっ。私も両肩を強く押さえつけられて……あの、細田さん。椅子の数、覚えてますか?」

「椅子の数、ですか? 多分……7つ、だったと思います」

「やっぱり……覚えてますか? 7つのお祝いってあったの。あれは椅子の数だったんじゃないですか? お祝いって良いことじゃないのかもしれません」

「あの椅子に座ってたら……どうなっていたんですかね?」

「背中を突き飛ばしてくれたのがご先祖様だったとしたら、椅子には絶対に座ってはいけないってことですよ。座ったら……やっぱり死ぬんじゃないですかね?」

 眞島さんのその言葉に俺はゾッとした。

 無意識にシャツの上から御守に触れる。

「あの住職は……インチキじゃなかったってことですね。もう一度、会いに行きませんか?」

 俺の提案に眞島さんも同意したので、俺達は翌日有休を取ることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ