第8話
街が見えてき──ッ!?
「ガゥゥゥゥ」
あと少しで街に辿り着いたというのに、とうとう俺は村を出て初めての敵に遭遇した。……してしまった。
相手は狼だ。……ただの、狼だ。魔物でもなんでもない、狼が一匹だけ、俺の前に立ち塞がっていた。
……魔物じゃないことを喜ぶべきか、ギリギリのところで無事に街に辿り着けなかったことを嘆くべきか。……そもそも群れで現れなかったこと自体に感謝をするべきなのか──
「アォォォォンッ!」
今はどっちでもないな!
(時間転移!)
覚悟を決めた俺は、どうせ戦闘経験なんて全くない俺じゃあどんな小細工をしようとしたって無駄になるだろうと思い、もしも敵が現れたら最初からこうしようと決めていた行動……ただ全力で持っていたクワを両手で振りかぶり、力いっぱいに、まだ様子見をしていた狼に向かって行きながら振るった。
「アォンッ!?」
すると、簡単に不意打ち? を食らわせることに成功した。
多分……というか、確実に時間転移のスキルが無ければ、こんなに簡単に攻撃を当てることは出来なかったはずだ。
……だって、覚悟を決めたとはいえ、ただでさえ素人の俺だ。緊張状態ということもあり、自分でも分かるくらいに動きが遅くて、相手の狼に動きを目で追われていることが分かってたくらいなんだ。
この本に感謝だな。
「ガァァァァァァ」
「ッ」
怒気を宿した声に攻撃が当たったということで逸れていた俺の意識は引き戻され、まだ狼を倒していないことを嫌でも理解させられた。
……考えてみれば、当たり前だ。
いくら頭に思いっきり当てたとはいえ、戦闘経験の無い子供の攻撃一発で倒せるほど狼は甘くは無いことくらい、当たり前の事だったろうに、完全に油断していた。
四足歩行を最大限に生かし、咆哮を上げながら俺に向かってくる狼。
早い……!
まずは、避けないと!
反射的に横に体を移動させつつ、時間転移を発動……しようとして、失敗した。
さっき使ったばかりだから、まだ、スキルを使えるようになってなかったんだ。
「グァッ」
その結果、あっさりと左腕を狼に思いっきり噛みつかれてしまった。
「は、なせ!」
痛みからか、がっちりと左腕に噛み付いてきていて距離が近いからか、必死に俺の唯一の武器であるクワを狼に向かって振り回すが、全然殺せる気配がしなかった。
それでも、俺はクワを狼に向かって振るい続けた。
さっき与えた渾身の一撃によって、一応頭から血は出てるし、本当に効いてない、なんてことは無いはずだからだ。……俺がそう信じたいだけなのかもしれないが、がっちりと腕に噛みつかれている以上、どの道俺にはこれ以外に選択肢なんてねぇんだよ!
「早く、死ね!」
どれくらいそうしていたのか分からない。
ただ、とうとう狼の噛み付いてきている力が弱くなってきたかと思うと、そのまま俺の左腕に刺さっていた狼の歯が俺の腕から外れた。
それでも、俺はもう力がほとんど入っていない腕でクワを狼に向かって振るうのをやめなかった。
「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……死ん、でる、のか?」
無我夢中でクワを振るい続けた俺は、やっと狼がもう動いていないことに気がつき、思わず呟くようにそう言った。
それと同時に、俺は狼に噛みつかれていた左腕を反射的に抑えた。
「痛っ、てぇ……」
さっきまでは戦闘中ということもあってか、まだ痛みを我慢できたが、戦闘が終わったという安心感からか、さっきより痛みが酷い気がするし、冷や汗が酷かった。
(ヒール、ヒール、ヒール!)
連続で覚えたばかりの治癒魔法……ヒールを自分に向かって使う。
傷口は塞がらないが、血は止まったし、痛みも少しはマシになってきた。
だが、それでも、初めての激痛にまだ冷や汗が止まる気がしなかった。




