第5話
俺が謎の本を拾い、治癒魔法を覚えてから一日が経ち、硬い床の上に敷いた藁のマットの上で俺は謎の本を枕にしながら、目を覚ました。
「……夢じゃないんだな」
あれから色々と考えた結果、俺は昨日最後に開いて、読もうとしていた本のページを再び開いた。
そこには【簡単に強くなる方法】と書かれていた。
治癒魔法を覚えたんだから、俺は早速ナナミって子を助けるためのお金を稼ぎたかったんだけど、やっぱり簡単なお金の稼ぎ方というページの最初の項目に書かれていた【誘拐】という言葉がどうにも心に引っかかり、一応時間はまだ一日くらいなら余裕がある……と思うし、多少は強くなっておくことにしたんだよ。
もちろん、この簡単って言葉が詐欺だってことはもう分かっているし、あまりにも難しかった場合は危険を承知で一旦強くなることは諦め、治癒魔法でお金を稼ぐつもりだ。
自分で言うのもなんだが、俺はまぁまぁのお人好しの馬鹿なんだと思う。
確かに、助けようとする理由の大部分は母さんや父さんに顔向けできないからという理由からではあるが、知らない子とはいえ、理不尽な不幸に襲われるのが嫌だという理由があるのも確かだし、そんな子の為にスライムを食べたり……い、いや、これは思い出さなくていいな。……うん。余計なことなんて考えずに、さっさと読もう。
【色々と考えて検証をした結果、僕はこの世界が現実になったことで最も輝くスキルを発見した。それが、一番簡単で、一番手っ取り早く強くなる方法の第一歩だと僕は判断している】
……スキルっていうのが何なのかは分からないが、文字なんだから、勿体ぶらないで早く結論を書いて欲しいんだけど。
【そのスキルの名前は時間転移といって、名前の通り時間を転移するスキルだ】
そこまで読み進めた瞬間、俺が真っ先に思い浮かべたのは父さんと母さんが死ぬ前の日に時間を戻せる……転移することが出来るんじゃないのか? という事だった……んだが、そんな希望は次の瞬間にはあっさりと打ち砕かれた。
【時間を転移すると言っても、正確には1秒先の未来や過去に自分の体だけを無理やり飛ばせるだけの能力さ。ゲームでは回避率っていうのが数%だけ上がるみたいな使えないスキルだったんだけど、現実になったことによってかなり強いスキルに変貌してるんだよ。もちろん使いこなせれば、だけど、期待値が高いのは間違いないよ】
まぁ、そうか。死人の復活なんて、無理、だよな。
……はぁ。……正直、何度読み返しても全くその時間転移とかいうスキル? の想像がつかないし、本当にそれを覚えたら強くなれるのか? という疑問はあるが、この本を疑い始めたらナナミって子の存在すらも疑わなくちゃならなくなるし、早くそのスキルっていうものの習得方法を見るか。
【ゲームではハズレスキルだったから、習得方法は本当に簡単! 逆行草を10秒間力いっぱい思いっきり握り締める。たったそれだけで、時間転移スキルを獲得することができるよ。追伸:なんで未来にも飛べるのに、逆行草なんて名前なの? なんて聞かないでね。そんなのは僕だって知らないし、気になるのなら運営側の人間だった人に聞いてね。……この世界に存在するのかは知らないけど】
そんな文章と共に、逆行草の絵? が下の方に書いてあった。
「……これ、どこかで──」
そんなことを呟きつつ、俺は【逆行草の生息場所】と書かれた欄に目を落とす。
【──見つけるのが大変かもだけど、そこは頑張ってね】
「ッ、ここ……あそこ、じゃないか」
俺がこの本を拾った場所……母さんと父さんとの思い出の場所だ。
それに気がついた瞬間、俺はすぐさま家を飛び出し、あの場所に向かって走り出していた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……あ、あった……これだ」
逆行草というものを手に取りつつ、俺は祈った。
母さんや父さんへの感謝の言葉を。
……本当は偶然なんてことくらい分かってるが、それでも、母さんや父さんの最後の贈り物だと思うことを止められなかったんだ。




