第3話
「治癒魔法の簡単な覚え方」
俺は本に向かって口を近づけ、ゆっくりと呟くようにそう言った。
た、多分、これでそのページが勝手に開いてくれるはずだ。
実際、お金の簡単な稼ぎ方とかいうページは俺が呟いた言葉に反応して、勝手に開いたからな。
……もしも違ったら、地道に探すしかなくなるんだが──
「ッ」
予想通りと言うべきか、やっぱり本は勝手にパラパラと捲れだし、また突然止まった。
そのページに目を落とすと、俺が言葉にした通りの【治癒魔法、ヒールの簡単な覚え方】と書かれたページが開かれていた。
正直、お金の簡単な稼ぎ方っていうのはかなり怪しかったし、こっちには期待したい。
【誰でも簡単に治癒魔法のヒールを覚える方法は圧倒的に一択! 言ってしまうと、スライムを食べること!】
「???」
一瞬頭が真っ白になり、思考が出来なくなった。
それくらい、意味が分からなかった。
この本は……この本を書いた人は一体何を言っているんだ?
スライムを食べる……? そんなこと、出来るわけ無いじゃないか。
魔物を食べるなんて、考えただけでも気持ち悪い。頭がおかしいとしか思えない。
悪い冗談だと思い、俺はそのまま続きを読み進めた。どうせ最初から割とふざけた文章だったし【なーんてね!】みたいな感じのことが書いてあるんだろうと思って。
【多分、この本を拾った人が誰であれ、現地人であるのであらば、魔物を食べるなんていう行為は僕が元いたところでいうGを食べるような行為だ。想像するだけで気持ちは嫌悪感に塗りつぶされているであろうことは想像に容易いことではあるが、何か目的があるんだろう? なら、頑張れ、としか僕は言えないよ】
所々何を言っているのかは分からないが、これだけは分かる。
「これのどこが簡単な方法なんだよ!」
【その目的がヒロインを助けることなのなら、僕は嬉しいし、本当に、心の底から応援するよ】
……あんたに応援されたって、出来ないことは出来ないよ。……なんだよ、スライムを食べるって。
【もしも3年以上時間が掛かってもいいと言うのなら、他の方法もあるんだけどね。そこは君次第さ】
「ッ……何度も言うが、他人、なんだ。……他人のために、俺がそこまでする義理なんて──」
無いはずだ。
無い、はずなんだ。
「本当に、知りさえ、しなければ……俺は、こんな感情を抱くことなんて無かったのに……」
目から涙が流れ出てくる。
本に涙の雫が落ちてしまうも、涙は完全に弾かれ、本が濡れることは無かった。
「……母さん……父さん……なんで、なんで、なんで……なんで、死んじゃうんだよ……」
今更ながらに、俺は顔をぐちゃぐちゃにして、涙を流し始めた。
抑えていたはずの感情が溢れ出してしまったんだ。
☆ ☆ ☆
「……分かったよ。食べて、やるよ。……知ってしまった以上、放ってはおけない、しな」
なんてものは綺麗事で、ただ、俺が死んだ時、母さんや父さんに顔向けできないのが嫌だから、助けるんだ。
そもそも、さっき絶対に助けるって決意したばかりだからっていうのもある。いくらなんでも、こんなに早く決意を揺るがす訳にはいかないだろ。情けなさすぎる。
「スライムがいる所に行くか」
涙を必死に腕で拭きつつ、俺はそのままその場を離れた。
そして、村の近くに寄り、スライムを探し始めた。
その結果、スライムなんてどこにでもいるから、直ぐに見つけることに成功した。……成功してしまった。




