後日談(後編)
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竹原くんからの「俺は朱里の彼氏だぞ」という具体的なカップル誕生宣言があったことで、その後のクラスはざわざわとしていたけれど、これといってトラブルが起きるということはなかった。
男子メンツについてはともかくとして、いつも朱里ちゃんにゲロ甘でママっぽくなるギャル子さんたちはどうなのかなって観察していたけれど、彼女らも結局祝福しているようだ。その宣言があった後、竹原くんの肩をぽんぽんって触ってうんうん、って頷いていた。ただ、竹原くんはめちゃくちゃ怯えてた。なんで?
まあみんな、なんだかんだで朱里ちゃんの幼馴染であった竹原くんを冗談で攻撃っぽいことはするけれど、それでも結局は冗談なんだよね。物騒な文言が飛び出してくることもあるけれど、実際にそうなることもなかったわけだし。……そうだよね? 全部冗談で済ませてるよね? ともかくとしてみんながそれぞれに彼らの幸せを祝福しているんだと思う。
「いやー、彰人がみんなと仲良くなれてよかったぁ!」
「そうだねぇ」
休み時間、再び朱里ちゃんはニコニコと一連の流れを目撃した感想を呟いていく。
今度は心の底からの肯定の返事。……まあ、仲良くはしてるよね。ある意味で。だから、それでいいんだと私は思います。
〇
そうして騒がしかったクラスも帰りのホームルームによって解散することになった。じとっとした視線が竹原くんに集まっているような気もするけれど、それでも攻撃的な言葉が教室に飛び交うことはなく、文字通りの温かい目で見られる、という状況が出来上がっているようだった。
「それじゃあね友子ちゃん!」
「うん、竹原くんとのデート楽しんでね!」
朱里ちゃんはこれから竹原くんと放課後デートというものをするらしい。「制服で行くんだぁ」とニコニコしながら語っていた朱里ちゃんに(それっていつものことでは?)なんていう気持ちもあるにはあったが、野暮だから口にはしなかった。
私の言葉に「うんっ!」とめちゃくちゃ爽やか、というか朗らかな笑顔を見せた後、そのまま竹原くんの方へとトコトコと駆けていく。
うん、幸せそうでなによりだなぁ。本当にそう思いますよ私。
まさかあんないかがわしい漫画をきっかけに一つのカップルが爆誕するなんてね? いやあ、間接的に迷惑をかけてしまった竹原くんには申し訳ないような気もするけれど、でも結果として朱里ちゃんとお付き合いできているから、まあ大丈夫だよね?
そうして私も鞄を持って教室から出て行こうとする。まだ教室に残っている竹原くんと朱里ちゃんに視線を向けている数々のクラスメイト、そんな人たちの視界に映らないように、こそこそーっと後方から出ようとした。
「──あのさ」
そんな頃合いで、竹原くんから声がかかった。
「ん?」と私がそうして彼に目を合わせると、彼はこそばゆいような、もしくは照れくさそうな表情を浮かべる。その手には朱里ちゃんの手が握られていて……、──いやところかまわずイチャイチャしすぎじゃない? ……いいんだけどさ?
ともかく私は彼に目を合わせた。
「……ありがとうな」
彼はそう感謝の言葉を私に告げてくれる。
「どういたしまして……?」
正直、彼らが付き合うきっかけを作った自覚はあるけれど、それはそれとして今後の方が大変なんじゃないかな? という気持ちの方が強くある。
ほら、朱里ちゃんの性知識であったりとか、朱里ちゃんのシスコンすぎる妹ちゃんのことであったりとか、もしくはご近所さんの目とか、……さらにもしくは暗躍しているかもしれないリア充キラーとか。……最後は冗談だとして、それでも課題や問題は山積みだと思う。きっと竹原くんが想像している以上に。
「とりあえず、頑張ってね?」
そんな言葉を彼に向けて呟くと「おう!」と元気な返事がやってくる。
まあ、竹原くんなら大丈夫だろう。
なんていったって朱里ちゃんの幼馴染だし。
私はそんな幼馴染カップルに見送られながら、教室を後にすることにした。
●
いやあ、やっぱり漫画って面白いよね。
なんとなくラブコメが読みたくなったから、とりあえずそれ関連のものを見ているけれど、やっぱり面白い。ヒロインは可愛ければ可愛いほどいいし、そして男についてもイケメンであればイケメンであるほど助かるわ。……さっさと結ばれないことにはちょっとイライラしちゃうこともあるけれど、それが物語の味だもんね。もっと楽しまなきゃ。
そんな風に漫画を読みふけっている深夜時。
課題はもう既に片付け終わっていて、あとは眠るか否かの瀬戸際くらい。さっさと眠ってしまえばいいんだろうけれど、なんというのかなぁ、もったいなさみたいなやつを感じてなかなか眠れないんだよね。
だからそうして漫画を読んでいたわけだけれど──。
──ヴヴヴ……。
──そんな時間帯であるにも関わらず、唐突に私の携帯が震えだしていく。
なんだろう、電話? こんな時間に?
私は漫画を閉じて、それからスマートフォンを開いてみる。するとそこに表示されていたのは朱里ちゃんの名前だった。
朱里ちゃんならもう寝てそうな時間だと思うけど、なんだろ? そう思いながら私はその電話に出てみた。
「もしもし?」
『……』
そうして聞こえるノイズのような音、というか無音。
「……あれ? 朱里ちゃん?」
『……あ、アア! と、トモコチャン! キグウダネ!!』
「……奇遇も何も朱里ちゃんから電話をかけてきたんだけどね?」
『……ふぁい……』
なんか、この上なく様子がおかしくない?
「ど、どうしたの? なんかあったの?」
私は電話先にいる彼女を不安に思って声をかける、けれど──。
『──え、えぇぇぇ、えあっ、いやぁ?? な、なななな、ナニモシテナイシナニモサレテナイヨッ?!』
──嘘が下手すぎるよ!! 絶対に何かあったんじゃん!!
「な、なにがあったのか教えて! 私、助けになるから!」
『と、友子ちゃん……』
ここまで混乱している朱里ちゃんも珍しいから、私はちゃんと彼女が向き合っているであろう問題に真摯に取り組む気持ちでそう声をかけていく。朱里ちゃんもそんな私の気持ちを理解してくれたのか、絆されたような声を返してくれた。
『え、ええと、ええとね? あの、えっとね?』
「うん、大丈夫だよ。ゆっくり、ゆっくり話してみて?」
『あの、その、ね? あ、彰人とね? お、お城に行ってるんだけどね?』
「……お城?」
『……うん』
お城……? 外国とかに旅行に行ってる、とかではないよね?
ちゃんと現実的にその単語を捉えるとするのなら、そうだなぁ……。お城、ってことは某有名なあの遊園地でデートをしているってことなのかな? まあ、デートとしては最適なポイントだもんね。きっとそうに違いない。……友達としか行ったことないから知らんけど。
「それで? そのお城でなんかあったのかな?」
『エ、アイ、イヤ?! ナニモナカッタデスガ?!』
「それはもういいから……」
呆れながら返すと、電話先の朱里ちゃんは『うぅ……』と何かに悶えているような声を出す。なんだろう、今更になって二人でイチャイチャしている事実を誰かに話すことが恥ずかしくなったとか? ……いや、今更過ぎるな。
『え、ええと、エエト……。お、お城で、……い、いや、と、とりあえずお城に入ったんだけどね? い、今彰人がお風呂に入っているうちにドアを確認したら──』
「──お風呂?」
『──ドア、ドアがね、鍵がかかっててね? で、出れなくなっちゃって』
「……」
私は無言のまま、今の朱里ちゃんにどんな言葉を選ぶべきかを考えてみる。というか正直もう切ってしまいたい。
お城、ドアが開かない、そしてお風呂。
それだけの情報で察せてしまう私のむっつりした脳にも呆れてしまうけれど、それはそれとしてなんとも言葉がまとまらない。
それはそういうアトラクションなんだよ! とかそういう風に言えば納得してくれるだろうか。……いや、行ったことないからわかんないけど、そういう風に言えば朱里ちゃんは落ち着いてくれるのかな。
『ど、どうしたらいいかな……。明日学校に行けないかも──あっ、彰人戻ってきた』
そうして電話先から聞こえてくるごたごたとした音。どうやら言葉通りに竹原くんが戻ってきたらしく、一瞬朱里ちゃんの声が遠くなる。
『どうしたぁ、……ってもしかして誰かに電話かけてます?!』
「……」
『──ち、違うの彰人! あ、あのね! お城のドアが開かなくっててね?! それで友子ちゃんに相談してて──』
「……」
『──お、おばかさん!! さっさとその電話を切りなさ──』
──そうして、ぷつんとその電話は切れた。
「……」
……うん。なんだろうね。ある意味、ある意味で『えっちしないと出られない部屋』に行った、ってことなのかな。……まあ、お金を払えば出られるタイプの、そういうお部屋に行ってるってことなのかな。行ったことないから知らんし、別に興味もないんだけど。
「…………」
とりあえず、明日彼らに会ったときには「ゆうべはおたのしみでしたね」とか声をかけてあげよ。うん、そうしよう。
なんかもういろいろ叫びだしてしまいたい気持ちがあるけれど、深夜だからいったん抑えて、心のうちだけで済ませることにする。
ぶっちゃけ一言で収まる気はしないけれど、とりあえず、とりあえず一言だけ。
……せーのっ。
──リア充爆発しろーっ!!
あの後にラブコメなんて読んでらんないよ! もう寝る!
私は心の中で叫びながら、読んでいた漫画をしまうことにした。
これにて『主人公VSえっちしないと出られない部屋(with幼馴染)』は完結となります!
楽しんで読んでいただけたのなら幸いです! また違うお話でお会いできればうれしいです!
本当にありがとうございました!




