最後の部屋 主人公VSえっちしないと出られない部屋⑤
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「な、な、な、なっ──」
──な、なにをしているんですかこの人はぁー!?
え、今投げた?! 今この部屋を閉じ込めている原因となっている鍵を、というかボタンを投げた?! 窓の外に?!
えッ!? なんで?! なんで投げたの?!
「こ、ここ二階だよ?! な、なんで外に投げたの?!」
「あー、まあ大丈夫! 一応うちの敷地内に落とすように加減したから!」
「そっちの心配はしてないよっ! いや大事だけどそうじゃないよ! だ、だってあれがないとお部屋から出られなくなっちゃうんだよ?!」
「え、うん。そうだけど?」
「そうだけど、じゃないって!!」
私が彰人の行動にびっくりしながら声を出すけれど、それを当然のような顔で頷いて、ずっと落ち着いている彰人の姿。えっ、この人状況がわかってないのかな。やっぱり私よりもアホの子だから、あの鍵がないと脱出できないってことをご存じでないっ?! いや、そうだよね! ご存じだったらそんなバカすぎる真似普通はやらないもんねぇ!
「ど、どうするの?! わ、私たち、お部屋から出られないよ!? と、と、といれ……とかもいけなくなっちゃうよ?!」
「まあ、その時はその時だよな! なんとかなるっしょ!」
「なんとかならないよ?!」
わ、私がトイレしたくなったらどこに行けばいいのさ! というかこの状況だと行くところがそもそもないじゃん!
彰人の部屋で、しかも彰人がいる状況でトイレなんてできないけど?! そんな想像、一瞬でもしたくないし!!
私より冷静にしている彰人の様子を見ていると、なんでこんなに私だけパニックになっているのか訳わかんなくて、だんだんと、本当にちょっとだけイライラしちゃう。だ、だって冗談じゃすまないんだよ?! いや、別に外にいる誰かを呼べば何とかなるかもしれないけれど──。
──あ、そうだ! 誰かを呼べばいいんだ!!
私はそうしていつものように携帯電話をポケットから……、ええと、その、ポケットから──。
「……水着を擦ってどうしたんだ?」
「エ、イヤ、ソノ……、ケ、ケイタイヲ……」
「……わかんないけど、朱里の携帯なら風呂前の洗面台とか、朱里の家とかにあるんじゃないか?」
──そうだったぁー!!
お風呂に電気の入るものを持ってきちゃいけないってお母さんに何度も言われたことがあるから、きちんと自分の部屋に置いて水着に着替えてから彰人のお風呂に突入したんだった……。
……くっ! なんたる不覚ッ! 流石に天才である私でもここまでのことは予想できなかった……。いや、予想しようもないよそんなの!! だって彰人がスマートロックの鍵のやつを外に投げるなんていう意味わかんない行動するなんて思わないじゃん!!
あっ、でも私が携帯なくっても、彰人なら携帯はあるよね……?
「あ、彰人! 携帯貸して!! 藍里に連絡するから!!」
「……藍里ちゃんは旅行中なんじゃなかったっけ? ……いや、旅行中じゃなくても連絡はできないんだけどな……」
藍里の名前を出した瞬間、彰人の顔は途端にすごく悲しそうな顔になる。 えっ! なんか私傷つけるようなこと言っちゃったのかな!?
あっ、でもそうだった! 藍里は今お母さんとお父さんと旅行中だった! なんかデカい荷物を持って出かけてた!! く、くっ!! なんたる不覚ッ!(これ言ってるとなんか格好いいよね)
いや、そんなこと考えている場合じゃない! 私、この部屋から脱出しなきゃいけないんだ! なんか出れないってことが分かった瞬間、すっごくトイレ行きたくなったし!! すっごく疲れが出てきてめちゃくちゃ眠いし!!
「ほ、ほかに連絡できる人は、あっ! 友子ちゃんに連絡をすれば!」
「……申し訳ないけど、俺、中原さんの連絡先知らないんだ」
「────」
そ、そうだったぁー!! 私が友子ちゃんの連絡先を知っているから、勝手に彰人も知っているもんだと勘違いしてたぁ!!
そもそも彰人、そんなに友達いないんだった!! それで私がいろいろ計画を練っていたこと、今になって思い出した!!
「──な? もう打つ手はないんだ」
「い、いや打つ手はないんだ、って言われても!!」
そもそもこの出れない部屋にしたのは彰人が原因だし!! 打つ手を失くした人が言っても説得力ないよ!!
「じゃ、じゃあどうするの?! もうこうなったら警察とか救急車に電話しなきゃいけないよ?!」
「あー、それは嫌だなー」
「私だって嫌だよ?!」
こんなイタズラみたいなことで警察さんとか救急車さんにご迷惑をおかけしたくないよ! でも、このままだと二階からお外に飛び降りていくしかないし、そうなったら絶対救急車案件だし! いや、ギリギリなら救急車を呼ばなくてもいいくらいの怪我で済むかもしれないけれど、そうじゃなくって──。
「──でも、ひとつだけ出られる方法はあるんだ」
「えっ?」
そうして私がどうすればいいのかを考えていると、彰人はいきなりそんなことを言う。そんな発言に私は目を疑った。
完全に閉じ込められているこの状況、鍵のかかっている状況で、その鍵は外に放り投げられている。
それで完全に詰みっていう感じだと思っていたけれど、実はまだ出られる方法があるのっ?!
「お、教えて! 私、すぐにこの部屋から出ないといけないの!!」
部屋から出れない、ってことを意識する度に、だんだんとトイレ行きたくなる気持ちが強くなる。だから、本当にすぐにでもこの部屋から出られるのなら出てしまいたい。
私がお願いする気持ちで彰人を見上げてみると、彰人は再びドアの上の方と、そして天井の方へと指をさす。
『ここはえっちしないと出れない部屋です』
そう書かれている、というか私が書いた書き初め用紙。
「──だって、ここはえっちしないと出られない部屋なんだ」
「──」
「──俺たちは、まだえっちをしていない。だから、えっちをしたら出られるんだよ」
「────」
──いやそんな訳あるかぁ!!
えっちしたら出られる部屋ってなに!! そんな都合のいいことが起きるわけないじゃん!!
私は、あまりにもアホすぎる彰人の発言に面食らった(面食らった、ってこういう使い方で合ってるよね?)。
でも、そんな面を食らっている、……麺を喰らっている? わかんない、どっちだっけ? いや、まあどっちでもいいけど! それはそれとして、そんな私に彰人はすごく余裕の表情で見つめてくる。
「だから、だからな朱里。今からえっちをしよう」
「で、でもえっちしたからって部屋から出られるわけじゃないじゃんっ!」
「いいや、出れる。俺たちがえっちをしたら、きちんとえっちができたらこの部屋からは出られるんだよ」
そんなことある?! それ、誰が判定しているの?! 鍵、そもそも外だけど?! 誰かがこの状況を見ているってこと?!
いや、も、もうそんなことはどうでもいい! こうなったら彰人の言葉を信じるしかない……。
「でも、でもでも、もうえっちはたくさんしたよっ!?」
「いや、俺たちはまだえっちをしてないんだ。朱里の言う、第三のえっちを俺はまだ出来ていないんだよ」
第一のえっちでハグ、そして第二のえっちでお風呂、そして第三のえっちで殴り合い──、いや、第三のえっちが殴り合いじゃないことはもうわかっているんですけど、でも、それでもやれることはやったはず。
だから、私にこれ以上打てる手はもうない、悔しいけど、ないものはない……。
天才の私でも、第三のえっちがなんなのか、それがずっとわからないから。
「じゃ、じゃあ彰人はできるの?! 第三のえっち! というか、第三のえっちって何をしなきゃいけないの?!」
私はこれ以上なく真剣に彰人の目を見つめる。恥ずかしさとかはもうなくて、真剣に、この部屋から出るためだけに彰人と向き合う。
彰人はそれに頷いて答える。ふう、と深く息を吐き出すようにして。
「第三のえっち、……いや、本当のえっちとは──」
「第三の、ほ、本当のえっちとは……?」
「──気持ちを、きちんと伝えることだ」
「────」
彰人は、頬を赤く染めながら、照れるようにそう言った。
いよいよ次回、この話のラストスパート! はてさて、彰人くんは、そして朱里ちゃんは気持ちを伝えることができるのでしょうか!! お楽しみに!!




