最後の部屋 主人公VSえっちしないと出られない部屋④
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「……」
「……」
それからしばらく第三のえっちとはなにか、という哲学的すぎる超難問に一人で向き合ってみたはいいものの、結局その答えがわかることはなかった。その間、二人でずっと見つめ合いながら静かに過ごしていたけれど、なんか恥ずかしくなって彰人の目を見ることがだんだんと出来なくなっちゃった。
……っていうか、第三のえっち、難しすぎない?! これ以上やれることなくない?!
私が思いついた第三のえっちが正しいのかはわからないけれど、それでも私と彰人はなんとかお互いに殴り合ったわけで、それでいちゃいちゃ……? したのかはわからないけれど、それでもなんとかそれっぽい空気は作れたような気がする。確かにお風呂以上に過激なことをしたような気もするけれど、その内心、本当にこれで合っているのかな? という気持ちも生まれてくる。
でも、これ以上に過激なことなんて思いつかないんだよなぁ……。第三のえっちが終着点、っていう風に友子ちゃんは語っていたけれど、合っているのかわからないこの方法で、それで終着点? という風に言われても納得なんかできないような気がする。なんかもっとこう、彰人とたくさんえっちしたいけれど、それも思いつかないし、すっごく難しい。
……というか、あれだ。だんだん眠くなってきたかも。
今日は朝から早めに起きて、彰人のご飯を作っていたし、それでいろいろ心の準備をして一緒にお風呂へ入ったわけだし、結構やることはやってきたような気がする。
なんとなく第三のえっちが殴り合いではない、という気持ちは拭えないけれど、それでももうやることは正直見つからない。だから、とりあえず今日のところは切り替えて、さっさと眠って、明日の朝に友子ちゃんの家に直行して第三のえっちの正体について聞いた方が早い、かも? ……うん、なんかそうしてきたほうがいいような気がしてきた。
「……ええと、その」
ちょっと気まずい感じ。私はそんな空気を覚えながら、それでも声を出してみる。
「ん?」と彰人は私の目を見つめながら声を返してくれるけれど、なんだか恥ずかしさはまだ続いていて、その目に合わせることができない。私は扉の方へと視線を逸らしながら、こほん、と咳払いをしてみたい。なんか咳ばらいをするとあれだよね、偉い人、みたいな感じがして格好いいもんね。
「そ、それじゃあ今日はこのくらいで……」
「……え?」
私の言葉に彰人は意外そうな声を返してくる。え、でもこれ以上にやることなくないすか? そんな意外そうな声を出されても、私はもう正直打つ手がないですよ!
まあ、そんな気持ちは心の内側にだけ閉じ込めておく。じゃないとあれだもんね、私が第三のえっちについて知らないことがバレてしまうから。ぶっちゃけそれがバレても支障はないような気もするけれど、それでもね、一応彰人に私が知らないこと、バレたくないし。……あと眠いし。うん。
私は座っていたベッドから立ち上がる。立ち上がると一瞬ふらふらする、というかなんとなくダルい感じ。あれかな。やっぱり疲れてるんだろうなぁ。今日はいろいろ頑張ったもんね、仕方ないよね。
それから彰人が向けてくる視線の気まずさを意識しないようにしながら、ゆっくりとドアの方へと向かっていく。ドアの方へと向かって、そしていつものようにドアノブを持ち上げるようにしながら開こうとして──。
──ガタッ。
「──え?」
──ガタッ、ガタガタガタッ!!
──え、あれ?! おかしい、おかしいよ?!
いつもだったら持ち上げるようにすればこのドアも簡単に開いてくれるのに! 建付けは悪いけれど、それでも簡単に開くのに!
そう思いながら、何度もドアを持ち上げるようにしながら開けようとして見ても、それでもドアはうんともすんとも言わない。どちらかというと、ガタガタとガダガダとしか言いませんねこれ。
「──何、帰ろうとしてるんだよ?」
「ふぇっ?」
私が彰人の声にびっくりしながら返事をすると、彰人は笑顔を浮かべながら私の顔を見つめてくる。
そして、言った。
「──まだ、第三のえっち、してないだろ?」
──えっ!? やっぱり第三のえっちって殴り合いじゃないんだ?!
私はそれに声を飲み込むことしかできなかった。
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「で、でも、な、なんでドア開かないの?!」
いや、まあ知ってましたし! 私天才だから、第三のえっちが殴り合いじゃないことはなんとなくわかってましたよ!
でも、でもさぁ! それとこれとは別じゃない?! 第三のえっちをしてないからと言って、それがドアを開けられないこととどういう関係が?!
そんな気持ちで彰人の顔を、……少し恥ずかしいけれど、それでも彰人の顔を見つめてみれば、彼はその答えを教えるように指をさす。天井の方と、そしてドアの方──。
「──あっ」
そういえば、そうだった。
ここ、えっちしないと出れない部屋、なんでしたね。そうでしたね……。
いやあ、第三のえっちとは何か、ということに頭を悩ませ続けていたせいで忘れていたけれど、ここはえっちしないと出れない部屋でした。そうでしたそうでした。ふむふむ、それでドアが開かないのは納得納得──。
「──いやいやいや! でも、あれはいつも私が仕掛けているだけで!」
「ん? 仕掛けてる?──」
「──あっ、イヤベツニナンデモナイデス……」
あ、あぶない。あともう少しで私が仕掛けたことを自白しちゃうところだった……。
なんとか発言をやり過ごしながら、私は口笛を吹いてみる。上手く吹けはしないけれど、私が奏でた華麗なるメロディーに彰人は、はあ、と息をついた。……よし、上手くいったな! よく漫画のキャラクターが誤魔化すときに口笛を吹いていたのはこれが理由だったんだ!
「で、でもなんでドア開かないの?!」
それはそれとして、ドアが開かない理由については心当たりがなさすぎるんですけど?!
ええと、私がいつも仕掛けるときは、事前に彰人に起こしてもらって、それでなんとか私が開けられない演技をして──。
そこで私がいろいろと思考を巡らせていると、その私の疑問に返すように彰人はじゃらじゃら、と何か音を立てて私に見せてくる。その音に視線を合わせると──。
「──あっ」
「──これ、なーんだ?」
──そこには、私がいつか勝手に取り付けたスマートロックの鍵。
……なるほど! ドアが開かなかったのはそのせいだったんだ!
そうして私がドアが開かない理由に納得していると──。
──がらがらっ、と彰人は窓を開けて──。
「──ぽいっと」
「──へっ?」
──そうして、持っていたスマートロックの鍵を、彰人は窓の外に放り投げた。……放り投げてしまった。




