第八部屋 ただただ普通に出たくない部屋④
◇
「ひゅ、ひゅうう、こひゅうぅ……」
そうしてお風呂に入ってきた朱里は、いつまでも過呼吸みたいな息遣いを繰り返しながら頬を赤く染めている。それは確実に恥ずかしさを反芻したことによる赤面でしかなく、いつまでも視線を泳がせ──、いや、もう視線を飛散させながらお風呂場の前にいた。俺はそんな彼女に対してすかさずに股間を隠すことしかできなかった。
「な、な、な、なんでぇ?!」
なんで!? いきなり?! 唐突に?! なぜにどうして朱里がそこにいるんですかねぇ?! 何がどうしてこんな展開になっているんでしょうか?!
え、どゆこと?! 俺が風呂入っているって知ってるはずだよね?! それとも男のお風呂は短いだろう、って勝手に予測して入ってきたってコト?! いや朱里ならそれくらいはありそうな気もするけれど、それにしたってどうして?! 俺がいてもいつまでも扉を閉めない理由はWhy!?
いや、だめ、だめだよ朱里。これは朱里にとって刺激が強すぎる光景だよ。いいかい、こういうのは大人になってから、十八歳になってからようやく見ることを許される光景なんだよ。男の裸なんて、そんなのだめですよ。朱里は健全なままでいてもらわないと困るんですよ! それなのにいつまでもお風呂の扉を閉めないで対面しているこの状況はやばい、やばいですよ!!
「ま、まずは扉閉めよ?! な?!」
「ひゃ、ひゃいぃ……」
とりあえず刺激が強すぎる光景を彼女から切り離すように、俺は懇願した声を彼女に浴びせる。それに朱里は震えた声で返事をしながら、そうして戸を閉めた。
……お風呂場に入って、後ろ手に。
「なぜぇ?!」
「ひゅ、ひゅうう、ひゅううぅ……」
そうして入ってきた朱里は俺の疑問に返事をすることはないまま、シャワーの前にある風呂用の椅子に座り込む。一瞬、俺の方に視線を合わせはするけれど、おそらく1フレームもないくらいの素早さでしかなく、またそんな素早さでしかないのにも関わらず、朱里は更に頬を赤く染めていた。
これ、あれだ。きっと恥ずかしさが天元突破してしまったが故に思考回路が回っていないタイプのやつだ。だから風呂場にいきなり突貫してきているし、そしてそのままシャワーを浴びようとしてきているんだ……。
もし、朱里がそういった事情で動けない、というのであれば──。
「恥ずかしいならさっさと上がりなさいよ!! というかあれだ! そんなにお風呂入りたいなら俺さっさと上がるから──」
うん、ここは男として、日本男児として、朱里の貞操と価値観を保護するために早急に風呂場から出て行かなければならない。言うて朱里は水着姿だから、別にそのまま俺がいても世界は許してくれそうな気はするけれど、俺が嫌だからさっさと逃げるに限る。そうしないと俺も恥ずかしくて頬の熱に焼かれて死んでしまう。
俺は浴槽に手をかけて、そこから身体を起こそうとする。片手は股間の大事な部分を隠すようにしながら──
「──しょ、しょれはりゃめー!!」
「なんでぇ!?」
──ぱしぃ、と勢いのまま朱里に手を弾かれた。そうして体重の拠り所を失った体は再び湯船の方へ沈まされていく。
「あっ」という声が耳に届く。その声はもちろん朱里から聞こえてくるものであり、俺はその声がなぜ紡がれたのか、視界で確認する──やっぱこいつのスクール水着いいな、めちゃくちゃお似合いで可愛いです。いやあ、こういったスクール水着愛好家がいることは知っているけれど、まさか自分もそれに同じ志を持つことになるとは──じゃなくって。
そして、なんとなくスローモーションに見える景色の中で、それぞれ起こったことを確認していく。
──どうやら、俺の手を弾く、というよりかは押し込もうとした朱里。椅子に座りながらも、身長の低い朱里ではその場で押し込むということができなかったみたいで、中腰になりながら俺の手を押し込んだらしい。それによって俺の手が押し出され、更に体重の拠り所となっていたらしい俺の手がなくなったことにより連鎖的に彼女の身体もなだれ込むように──。
──ヤバイ、マジデヤバイ。
一応、股間は片手で隠してはいるけれど、このままでは俺の秘匿されし大事な部分が朱里の眼前に参られてしまう。そ、それはだめ、マジでダメ。本当にこれ以上いかがわしいことになったらアカン。なりふり構ってらんないとは言ったけれどそうじゃない。俺はそう言う意味で考えていたわけじゃないの。
──意識が、加速する。
なんとか俺は朱里の貞操を守ることを死守しようと、そのままお風呂に飛び込んでくる朱里を躱すように、反対側の方へと移動していく。幸い、浴槽が広いおかげか、容易く移動することは可能で、俺は水の抵抗を無視するようにして、朱里になんとしてもお粗末さんを見せないように瞬時に移動をする。
おおよそ、コンマ三秒もないだろう。
それくらい短い時間ですべての過程を終わらせて、俺は先ほどいた場所とは反対側に位置して、朱里が浴槽に飛び込む姿を見て──、いやこれもこれでマズくね?!
このままだと水の中、浴槽の床に顔面着地することになるのでは?! 勢いのありすぎるそのダイビングでは確実に大けがするのではないだろうか──。
「──危ないッ」
──もうお粗末さんだとか貞操だとか言っていられない。まずは目の前にいる大事な人の命が優先だ。それで誰かに怒られても知らない。朱里に怒られても軽蔑されてもいい。
俺は目の前に飛び込むように身体を前進させながら、そうしていよいよ頭を突っ込みそうになる朱里の身体を、抱きかかえるように掴んでいく──。
──あ、やわらかい。にのうでみたいなかんしょくだぁ。
──じゃなくって、そうして俺は彼女を抱きかかえた後、それから勢いを殺すように俺の身体へと寄せるように力を入れる。幸い、朱里の体重はめちゃくちゃ軽かったから容易く引っ張ることはできて、俺と朱里を膝に子供を座らせるような体勢に持っていくことができた。
──もにゅ、もにゅ。
──あ、やっぱりやわらかい。にのうでみたいなかんしょくさいこー。
混乱している頭と理性が暴れる頭、その両方が格闘しながらも、俺はなんとか朱里を窮地から救うことができたようだった。
彰人くん、なんか異能系バトルみたいに素早くて草なんよw
それはさておきスクール水着は正義です。肌の露出面積が多い水着もそれはそれでいいけど、やっぱり至高はスクール水着なんすよ……。




