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主人公VSえっちしないと出られない部屋(with幼馴染)  作者:


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第四部屋 まさかの……脱出?(後編)


「あきと、だいじょうぶ……?」


 俺がどうしようもない喪失感を覚えて泣きそうになっていると、眠たげな雰囲気を含んだ朱里が声をかけてくれる。俺と同様にというべきなのだろうか、少し目を潤ませながら俺を見つめてくれるその表情は、本当に俺のことを心配しているようだった。


「うん、うん……、大丈夫だ。ありがとうな……」


 やっぱり持つべきものは幼馴染だわ。うん。……まあ、その幼馴染の妹にブロックされているという事実は辛いものがあるけれど、もう朱里が俺のそばにいてくれるだけでいいかな、もう。


 え、もうこのまま添い遂げちまえばいいんじゃねぇかな。だって部屋から出られないもんね? えっちをすることでこの状況が打破できる、というのであれば、えっちをするのはもう必要な過程なのでは?


 うん、そうだよ。世界はそれを望んでいるに違いない。社会が俺と朱里のえっちを求めているからこそ、俺たちを閉じ込めているわけであり、そのお望みを叶えてあげれば自由になれるのだ。え、なんだよ、めちゃくちゃ簡単なことじゃないか。俺はなんでこんな簡単なことにも気がつかなかったんだろう。


「……あかり」と俺は彼女の名前を呼んだ。


「んー?」と、やはり眠たげな声を発して、それから潤んでいる瞳をこちらに向けてくる。


「どしたのあきとぉ?」


「……ええと、だな。今、俺たちって部屋から出られないよな?」


「……そだねぇ。出られないねぇ」


「そうだ、そうなんだよ。……そ、それでなんだけどさ」


「……うん」


「あ、あ、あ、あの、ドアの上に書いてある張り紙──、ってちょいちょい、眠るな眠るなっ」


 よほど眠たいのだろう、俺と会話をしている最中でも彼女はうつらうつらと頭を揺らしながら、そうして瞼を閉じようとしている。俺が彼女に声をかけると「はっ!」と目を覚ましたらしい声を再びあげて、それからまた俺の顔を見つめてくる。




「……おはよぉ、あきとぉ」


「……ああ、うん。おはよう」


「……へ、へへ。あきとのかお、すっごくちかいねぇ」


「……そう、だな?」


「……ふふ、ふふふふ」




 ──え、俺こんなかわいい純粋な子とえっちなんてできないよ?!




 なにこの生物。ずっと可愛いんだけど。最近可愛さを忘れて面倒くささしか覚えていなかったんだけど、改めて可愛さしか感じないが? どういうこと? そりゃあクラスのギャルさん達もこの子を可愛がりますわ。これは性的興奮とか向けちゃいけない生物ですよ、絶対、ダメだよこんなの。


 ただでさえ寝ぼけていて、その上で寝ぼけていなかったとしても『えっち』という意味合いを理解していない彼女に、俺はそんな鬼畜としか言えない行為ができるのだろうか。もし、それで本当に致してしまったら、俺はガチで鬼畜なロリコンということになるのではないか? ……いや、誕生日だけなら朱里の方が早いからロリコンではないのだけれど、それは別問題。こんな幼児体型の幼馴染を言葉巧みに誘導して、その上で欲望をそのまま向けることが許されるのか?


「……あきとぉ?」


 ……うん、ダメだ。絶対だめだ。何開き直ろうとしているんだ俺は。馬鹿、うんち、クソ野郎、鬼畜、ロリコン、色情魔。


 これじゃあ藍里ちゃんの言う通りじゃないか。俺はそのまま言われたままに成り下がるつもりか? 世界がどうとか知るかよ。ここはせめて彼女が正しい知識を身に着けていなければいけない。その上で彼女が俺と結ばれることを選んでくれる、せめてそういう状況じゃないと、彼女の体に触れることは神や世界が許しても、俺が許すことはできない。


「なんでもないよ、朱里。大丈夫、大丈夫だから」


 俺はようやく真に目が覚めて、幼馴染である朱里にそう声をかける。


 俺の言葉の意味をあまり理解していないのだろう。「んんー?」と何ともわからない声音を出しながら、朱里はきょとんと首を傾ける。


 やっぱり手を出しちゃいけない。これは絶対。俺はこの世界の誘惑にはのせられない。


 俺は改めてそう誓いながら、この部屋を脱出することを胸に誓った。





「……それはさておき」


 状況については一切変わっていない。


 男と女の子、そんな男女が部屋に閉じ込められているこの状況。俺については状況を理解しているつもりではあるけれど、目の前にいる朱里についてはやはり何も理解していないかのように、俺の顔を見てはニコニコと微笑むことを繰り返している。時折聞こえてくる「あきと、あきとぉ」という寝言にも近いかもしれない呼び声に俺は「ああ」と反応しながら、それでもこの状況を打開するための策をいろいろ考えてみる。


 もうこの際、朱里のご両親に怒られることを承知で連絡してもいいのだけれど、その前にこの貼られている紙をなんとかしなければいけない気がする。……もしかしたら、もうご両親方が出かけている可能性もあるから、迅速に行動しなきゃいけないっちゃいけないんだけれど、なかなかそれに対する勇気が出てこない。


「……あっ」


 そこで、なんとなく思いついたこと。


 俺の携帯のアカウントは藍里ちゃんにブロックされているけれど、朱里がブロックされている、なんてことは確実にないよな。あの重度のシスコン妹ちゃんのことだ、何があっても姉である朱里からの連絡にはすぐに馳せ参じてくれるだろうし、とりあえずブロック云々は置いておいて朱里の携帯で連絡する、っていうのが最善手ではないだろうか。


 なんで気づかなかったんだろう。よほど藍里ちゃんにブロックされているという事実がショックで、視野が狭くなっていた可能性もある。


「なあ朱里。ちょっと申し訳ないんだけれど、携帯貸してくれないかな?」


 ともかくとして、俺は早速行動に移すことにした。


 いつまでも眠たげにしている朱里は俺の言葉に「けーたい?」と一瞬、何もかもがわからないような声を出したけれど「あ、うん、けーたい、けーたい」と単語を繰り返しながら、そうしてスマートフォンを出してくれる。


 ……この幼馴染であれば、不埒な情報が表示されるとか、プライバシーの侵害のようなことはないとは思うけれど、それでも自分のものでは無い携帯に触れることには少し抵抗感がある。けれど、迷っている時間もない。


 学校に行かなければいけない時間はとうに差し迫ってきている。皆勤賞を目指している朱里のためにも、ここは迅速に行動を──。




 ──ごとっ。




 そうして俺が彼女から携帯を受け取ろうとしたとき、重く鈍い音が耳に届いた。


 どうやら朱里が携帯をポケットから取り出す際、一緒にポケットから何かが落ちてしまったようで、寝ぼけた朱里が「んー?」と息を吐く。


 いや、まあ、どうでもいい。何かスイッチらしきものが見えたのはわかるけれど、ともかくとしてさっさと藍里ちゃんに連絡をしなければ──。




「────あっ」


「……? どうした……、って──」


 


 唐突に朱里が何かに気づいたような声をあげる。なんのことかわからないから、素直に疑問符を浮かべてみると、彼女はそそくさと落としたものを拾い上げてから、ぴゅー、ぴゅー、と鳴っていない下手くそな口笛を吹き始めた。


 ……こいつ、何を隠しやがった?


 そんな疑問が思い浮かんだ直後である。 




「ワ、ワー、で、出られないねー?」




 ──突然、いつもの下手な演技が彼女の口から発せられる。




「……おい今隠したスイッチはなんだ」


「へ?! すいっち?! な、ナンノコトダカワカラナイナー?」


「……」


 朱里は後ろ手にそのスイッチを隠しながら、再び誤魔化すように下手な口笛を吹き始める。視線は宙を泳いでいて、先ほどとは異なってとろんと蕩けた瞳をこちらに向けることはない。




「……あっ、朝なのに流れ星──」


「──えっ、本当?! どこ──」


「──噴ッ!」


「──あっ!! 待って! 返してぇ!」




 彼女ならつられるだろうと思った文言を吐いてみれば、朱里はそのままベッド近くの窓を覗き込む。俺はその隙を逃さず、彼女が後ろ手に隠したそれを瞬間手に取り、そのスイッチの存在を確かめる。




「……スマートロック?」


「あ、ああぁ……」




 俺の読み上げた言葉に、朱里は呆然としながら視線を泳がせていく。


 とりあえず、適当に奪ったスイッチのボタンを押してみれば、ドアの方からウィーンと機械音が聞こえてくる。


「ま、待って──」


「──待たない」


 その音に導かれるように、俺はドアの方へと近づいて、それからドアを開けようとしてみれば──。


 ──開いた。うん、いつも通りに、すんなりと。


 そうして開けたドアの後ろ側を覗いてみれば、このスマートロックと連動しているらしい物体がドアのすぐ横に取り付けられているのが視界に入る。


 ……試しにカチッ、とボタンを押してみれば、ウィーンとまた機械音をあげて、その連動しているらしい物体がゆっくりと鉄製の棒をはみ出していくのが見えた。




 ──こいつ、もしかして寝ぼけまくったせいで、自分が仕掛けたトラップを忘れていたのか?




「……なあ、朱里」


「……ふぁい」


「これは、なんだい?」




「…………ナ、ナンダロウナァ!! アカリ、ナニモワカンナイ!」




「……そっかぁ」




 俺は相槌を打ちながら、部屋の外に立ってからドアを閉めていく。


「えっ」という朱里の声を聞かなかったことにして、それから俺は奪い取ったボタンを何度か押してみた。


 すると、なるほど。こういう風にドアが閉まるのか、という実演ができてしまう。悪気なく彼女を閉じ込めてしまうような状況が完成してしまった。




 うん、悪気はないです。




「ちょ、ちょっとぉ! あ、彰人さぁん?!」


「……」


「ね、ねぇ! 彰人ぉ!」


「……」


 がたがた、と揺れるドアの物音。


 おっと、音にびっくりしちゃって、うっかりスイッチを落としてしまったぜ☆ いやあ、うっかりうっかり。


「さて、急いで朝の支度でもするかなっ!」


 俺はドアの向こう側に対して独り言を呟きながら、とりあえず階下に落ちていく。


「あきとぉぉぉぉ!!」という断末魔が聞こえてくるけど知らん。


 これも俺の純情を弄んだ報いである。朝食を平らげたら開けてやるから少し反省してなさい。


 俺はそう心の中で呟きながら、急いで朝の支度をすることにしましたとさ。

※その後、なんだかんだ可哀そうになったため、一分くらいで朱里さんを出してあげたとさ。

次回は内訳になります。この回だけ異様に長くなってごめんなさい!

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