┗第三部屋 後日談(幼馴染妹視点)
〇
──目が覚めたら、そこは見慣れた自分の部屋でした。
「……」
何が起こったのか、いつの間にか眠っていたのか、私はそれを思い出すことができなかった。ただ、それでも自分が自室にいることに対しての違和感があって、どうしてそんなことを感じているのかがわからない。別に、自室にいてもおかしなことではないはずなのに。
「……」
なんとなく頭がすっきりしないような感覚。昼寝でもしたっけ? ……いやいや、学校から帰ってすぐに昼寝するなんて、私はあんまりするタイプじゃない。よほど疲れている状況に立たされていなければ、その限りでもないけれど、それでも別に疲れている感覚はないし、なんだかよくわからない。
とりあえず体を起こしてみた。違和感の正体を探るために、眠る前の記憶を探してみる。
体を起こして感じたのは、ベッドの近くに携帯がないこと。「あれ?」と声に出してみて、それから携帯を探すようにする。でも、失くしたとかそういうわけじゃなくて、いつも通りというべきか、制服のスカート、そのポケットのなかに携帯は入れていた。安心安心。
時間はもう夜の時間帯。夕飯時だなぁ、とぼんやり空腹を感じる身体に、そろそろ母から声がかかるんじゃないかなぁ、という予感を覚える。
そんな予感を覚えながら、とりあえず思い出せるだけ今日のことを思い出してみる。ええと、今日は学校があったな。給食が苦手なプチトマトだったな、国語の先生が面白かったな。友達は今日遊べなかったな、とか、そんな感じの記憶はある。
……ええと、それでなんだっけ? その後のこと、放課後のことが思い出せない。
「うーん、なんかあったっけなぁ」
ぼそっと独り言を呟いてみるけれど、呟いたからって、それで記憶を思い出せるわけじゃない。
私は私の体温に染められているシーツの温もりを感じながら、そんなくだらないことを──、ん?
──なんで私、制服着たまま寝転がってたんだろう。
よくお母さんに、制服は帰ったらすぐ脱いでね、って言われている。それはもう口を酸っぱくするくらい、耳にタコができるくらい言われているから、なんとなく身体に習慣が染みついて、毎日言われた通りにしているんだけれど。
せめてベッドの上で寝転がるのであれば、制服は脱いでいるはずだ。……でも、なんで着たまま寝転がってたんだろう? そこまで疲れた記憶もないし、よくわかんない。
「ま、思い出せないことはしょうがないよねぇ……」
私はそんな諦めを胸に抱いてから、再びゆっくりとベッドに寝そべって、少しだらしがない体勢で携帯を見つめてみる。
うーん、昼寝しちゃっただろうから、今日も夜更かししちゃうんだろうなぁ。……確か、昨日もお姉ちゃんを監視するために夜更かしした記憶がある。
まあ、どうでもいいことだけれど。
(さーて、今日もお姉ちゃんのお宝ビデオでも見ることにします、か……。……)
……。
…………。
………………あ。
●
『どうして!? なんで開かないのぉぉ!』
『へ、へへ、と、閉じ込められちゃったねぇ……』
『ひぇっ!?』
『それもこれも、藍里ちゃんがいけないんだよぉ……?』
『そ、そんな……』
『じゃ、じゃあ、これからどうしようか……、へ、へへへ、へへへへへへへ──』
〇
「──ぁぁぁあああああ!!」
そうして思い出してしまった記憶。
わ、私が彰人さんの部屋に行って、お姉ちゃんのことを注意して、そ、それから彰人さんに閉じ込められて……。そ、それでその部屋が『絶対にえっちしないと出れない部屋』で、お姉ちゃんが彰人さんに利用されてて……。
「そ、そんな、そんなぁ!!」
最初こそは彰人さんの悪戯とか、もしくはお姉ちゃんの可愛い悪戯だと思ってたけど、なんか本当にドアが開かなくて、それで彰人さんが私に迫ってきて──。
──そして、今は自室。
────えっちしないと出られない部屋に閉じ込められたのに、なぜか今は自室。彰人さんの部屋ではなく、完全に見覚えのある自室。
──────それが、意味することは──。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「──ちょ、ちょっと藍里ちゃん! 大丈夫?! す、すっごく大きな声だけど?!」
私の叫び声に、お姉ちゃんは驚いたのか、私の部屋のドアを開いて、その可愛い顔を見せてくる。
いつもなら嬉しいことであるはずなのに、それでも事実だけを羅列したうえで気づいてしまったことに、私は絶望を隠すことができない。
「そんな、そんなやだよぉ!! やだぁぁぁ!!」
「だ、だからどうしたの?! お、お姉ちゃんでよければ相談に──」
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」
──彰人さん、……いや、あのロリコン鬼畜変態変質者で色情魔、お姉ちゃんを誑かす男、彰人に──。
────お姉ちゃんに捧げるはずだった、私の────。
「──処女、奪われちゃったぁぁぁ……!!」
朱里「へ? ショジョ……? あの奇妙な冒険するやつ?」
そんな無知な姉の言葉に、藍里ちゃんは何も言えませんでしたとさ……。
次回はいつも通りメインで朱里ちゃんが出てきます! お楽しみに!




