明日では遅すぎるんじゃ
掌編「明日では遅すぎるんじゃ」
研究室の床を、博士が落ち着きなく行ったり来たりしていた。
「立野くん、時は待ってはくれん!明日では遅すぎるんじゃ!」
立野くんはノートを取りながら顔を上げる。
「博士、そんなに大げさに……いったい何が遅すぎるんですか?」
博士は大仰にスイッチの並ぶ装置を指差した。
「この機械があれば、時間を一日だけ巻き戻せる。今日中に起動しなければならんのじゃ!」
ゴゴゴ……と唸りを上げる装置。
ついに博士が赤いボタンを押した。
目を開けると、世界は昨日に戻っていた。
「成功した!やはり今日中に起動して正解じゃ!」博士は勝ち誇った顔で叫ぶ。
立野くんは辺りを見回し、肩を落とした。
「博士……確かに昨日ですけど、何が変わったんです?」
博士はにやりと笑い、ポケットからチラシを取り出す。
「昨日はスーパーの卵が特売日だったのじゃ! 見よ、十個入り98円!」
立野くんは思わず天を仰いだ。
「……博士、それ、世界の危機じゃなくて晩ごはんの話ですよね」
博士は両手に卵パックを掲げ、誇らしげに言った。
「いや、立野くん! 今夜はオムライスの未来が救われたのじゃ!」