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見えない牢獄

作者: 歓人

天井の星を眺めて

また今日をすぎてくを待つ

僕はまだ何も形にすることもないまま

消えるのだろう


Q.誰の詩でしょう。

A.まだ誰の詩でもありません


強いていえば、

作者にはいつでもなろうと思えばなってしまえる詩ですかね…

常人には理解し難い感覚だろうが、文章にすれば少し楽になる。だから物書きになった。

生真面目に働くことが世のため人のためと心を蝕む上司の言葉も、いつしか聞けば聞くほど僕の頭の中でひとつの答えに向かうのだ。

「結局、自分のためにはならない」ということに…だから沢山の悪口をひたすら文章に起こして、自分のすごさや自分に対する評価の薄さ、そういったことを自分の言葉にして、少しずつ心を吐き出した。そしてそれを発信した。

僕は評価された。

嬉しかったんだと思う。誰からも見られていない現実を知った僕が、現実を発信することで共感を得て、評価され崇められる。そんな世の中ならそれこそが世のため人のため、自分のためじゃないかと。

そしてそれは仕事になった。また自分のために書く。編集の人に仮で提出をして、添削を受け治す。どのようにすれば色んな人に共感を得られるのかを、また編集の人に教えてもらう。またその繰り返し…


もう誰も読んでくれなかった。握り潰して原稿用紙がグシャグシャになったまま、編集に持っていく、ダメ出しを受ける…

急にプツンと何かがちぎれた音がした。その込み上げた感情を書きまくった。何度も何度も何度も何度も…書いて書いて書いて書いた。


支えてくれる人が誰一人居なかった。もう怒る気力も、物書きになると決めた時に起こした火にくべる燃料も尽きた。そして火はみるみる小さくなり、

気づけば僕はさめていた。



何も出来ない、何も出来ない、何も出来ない…必要のない花占いをまた布団の上で想像している。動く訳でもなく、滞納した年金の通知を払ってティッシュを探す。また寝転んでは手をモノに擦り、無意味な右手の運動をする。ティッシュのゴミも増える。「前より左に曲がったか?」クソみたいな思考が独り言になって虚しく部屋に響く。そこまで気にならないくらいには目の前の映像に興奮している。この不必要な体力消費を行い、疲れてもう一度寝る。腹が減るとカップ麺を作るために3分はかって食べる。もうそんな余裕も時間もないのに。

頼れる人も愛する人すらいないのに、堕落していく。落ちていくだけ、誰も引き上げようとしてくれない感覚に陥った。内心自分に苛立っていた、でも同時に諦めていた。諦めると心は楽になった。いやもう心なんてどこかに落としてきてしまったのかもしれない。

最近はよく出版社から電話がかかってくるが、どうせまた提出の催促だろうと、ほとんどを出ず留守電も聞かずに閉じている。たまに大事そうな手続きだけを済ませ首の皮を下手に繋いでいる。しなければならないことはできるのだ。しっかりとした連載のようなものがある訳では無い僕は、期限のあまり見えないまま提出だけを催促され、今日も今日が終わる。天井を眺めて寝れないことをなんとも思えない。何も考えることが出来ない、まっさらな頭の中で「これをしないといけない」「したいとは何なのか」「しない理由」を時々言い訳のようにつぶやく。まだ逃げている。「何もしたくない」これが今の本心だと、そう思っている。まぶたを瞑っても、まだ自分の記憶に残っている元カノとやった時の動画だったり、物書きになって有名になった時に後先考えず先輩や後輩に送ってもらったエッチな画像をオカズにしながら、寝れるまで体力を使う。いつも苦しかった。忘れたかった。少しずつ部屋が明るくなる、逃げるように僕は眠った。


最低だな、ほんとに



きっと支えてくれる人がいたなら今の僕を見てそう言ってくれるだろうし、そこから励ましてもくれるだろう。そうやってまた他力本願になり、誰かのせいにして、自分の弱さを見えないようにまた国勢調査のマークシートを塗りつぶす。小説家という職業を語っていい立ち位置ではないが、ただ何となくカッコつけたくて「物書きをしてます」とか「小説家です」とか名前が少し出てきた時に、言いふらしてしまった。今更まだ何も生み出せていないなんて言っても誤魔化しが効かないし、逆に見栄を張っても仕様がない。

「いつからこんなに泣かなくなったんだろう。」とすこし思うことがある。そう思い悩んだように友人が相談してきた。もっと解決して欲しい悩みがこちとら大量にあるって言うのに…

彼が言うには、青年の頃は豊かだった感受性が年々薄く貧しくなってる気がするとのこと。僕には当たり前のことだった。映画を見て感動のあまり泣いてしまったのは、前の職場に入社したての初給料で行ったデートだ。まだ心に余裕があって幸せも感じていた時期だ。そんなことを思い出しながら話を聞くが、どれもこれも僕にとっては普通だ。しかし最後の単語だけ変に引っかかった。「こうやって無気力になっていつか『鬱』になったりするんだろうねぇ。」僕は否定したかった、彼の言っていることではなく今の僕の現状を…

確かにこうやって名前がある病気やそういった症状を理由にすれば諦めが早く辞めてしまえる。でも焦っている。僕が何もする気力が生まれなかったり、日々が進むのが辛く自分の老いを感じることで焦りが増すことを。

その友人と別れ、自分は少し急いで帰った。急ぎながら原稿用紙を束ね、思いついたことを書き写す。けれど何もできることはなかった。少しずつ悔しさと情けなさで胸が押し潰されそうになる感覚があった。神様にでも頼んで今を変えて欲しい。なんなら悪魔にだってこの寿命を売ってまた書けるようになりたいと願った。でも残るのは何一つ組み立てられない文字と、僕の心からこぼれた涙だけだった。

「なんだ、まだ泣けるんだな」

いつしか感情のない気持ちのない生活を続けていた僕にとっては、世にも珍しいことだった。まだ心があることにまた涙が込み上げてくる。悔しいんだな、今のこの僕が。


書いた。

この感情のまま書いた。この悔しさを、この滲んだ原稿用紙をもろともせずに。書き続けて描きあげた。

上手く書けなかった。今まで感じたことの無いような嫌悪感だけが残った。上手くできないことに何も感じないと思ってかき続けたが、すごく違和感があった。ブランクというものだろうかとごまかすが、理由がはっきりしていた。元から文章を作るのがきっと下手だったんだろう。誰かをバカにしては、自分を肯定させるだけのイマドキのアイドルに毒を混ぜて煮詰めたような、そんな感情をただ文字に起こしただけの汚い言葉の羅列。以前に売れた作品を天狗になって元職場に送ったが、それを見た上司はどう思ったのだろうか。人の気持ちも理解しようとしない人間に、文章を書く資格は無いのだろう。

だから人のことを書こうと思った。でもやっぱり出来なかった。誰かを自分と同等に見ることが出来なかった。もう既にどん底にいるのにずっと誰かを上から見下ろそうとして寝違えているように首がもつれている。それを今になってやっと理解した。ぼくはまた不貞る。

そうだな、僕は鬱だ。

誰にも見えない病気にいつしかなっていた。何がきっかけになったかは分からないが、この仕事が大きな原因なのは目に見えていた。でも辞めることすら怖い、考えるだけで胸に重りがのしかかる。学生の頃の恋愛に出るモヤモヤの不快感だけを感じているような無気力な焦りがある。心は確かにここにある、でもこの心も誰かに握られているような感覚だ。これは見えない牢獄なのだ。

結局、名前をつける他に方法が僕は見つけられなかった。今更誰かに助けを求めようにも、自分の地位が危うくなるようで怖い。また焦る。どうにかしてこの嫌な循環を抜け出さないときっと前には進めない、そう思ってどうにか策を考える。でも苦しい。早く逃げてしまいたい。

「自分には何ができるのだろうか」今更僕は僕に対して詰る。鏡越しの僕は何も言わないまま、悔し涙をうかべている。僕はまだ何も生み出せていないのに何を悔しがっているのだろうか。また疑問が生まれる。常に暗い部屋が前よりも澱んでいる。息が苦しい。いっそここで終わってしまおうか。そんな考えが巡っても行動に移せずまた苦しくなる。

また一日が終わる。


友人数名が誕生日を祝ってくれた。純粋に喜ぶことが出来た。妙に焦りも忘れていた。騒ぐ僕と友人たち。友人にトイレの場所を聞かれたので案内した。その時に作業部屋が少し見えた。そこには放置されたペンと原稿用紙。なんとも言えない声とともにため息をこぼした。昔の馬鹿な話だとか、酒の入った勢いで色んな話が飛び交う場所でも、僕の頭にはあの部屋の景色がずっと残っていた。少し経って、友人が帰った。部屋が少し見えないようにトイレに向かう…


インターホンと扉を叩く音で起きた。余程騒いだ罰だろうかトイレで一夜を過ごしてしまった。急いで扉を開けて見ると、昨日来ていた友人だ。忘れ物をしたそうだ。「なんだそのトイレで起きたみたいな顔は」と言われ、少し二日酔いもあったせいか気分が悪くなるのがわかった。

「そうそう、これ忘れてたんだよ〜」そう言って携帯を拾う。

「それとこれ」そう言って季節には似合わない冷たい缶コーヒーを手渡された。「無理すんなよ」

何となくだが、救われた気がした。生まれてからきっと自分勝手に生きてきたからだろうか、周りの人間のありがたさを知る。


学生時代、仲のいい友達が僕以外で旅行に行っている写真をSNSに投稿していた。何となく孤立した気分で、休みが空けてもその友人とは目を合わせないようにしていた。「なぜ誘ってくれなかったのか」そんなことも簡単に聞けず、結局嫌な感じだけが残りそのうち話すことがなくなっていった。今思えば彼らなりの気の使い方だったのかもしれないし、単純に仲がいいと思っていなかったのかもしれない。僕がもっと人を見ることが出来たなら、少しは感じ方が変わったのかもしれない。まだ子供のままなのかもしれない。


何となくヒントになる気がした。小説家になった時にいると思い、買っておいたメモ帳を初めて開く。「人を見る」たった四文字に希望を抱いた。きっと気づかなかっただけで僕を支えている人はいつでもいたのだと思う。僕がモタモタしてるうちに見えないくらい遠くに行ってしまったが…

牢獄はとても寂しい。孤独で周りは見えず、とても窮屈だ。それが今は少し明るく感じた。


久々に出版社に行く機会があった。やっと書くことのできた作品を持っていったのが、また編集部の人にダメ出しを食らった。でも前より優しく感じた。気を使ってくれているのだろうか。その人の表情を少しだけ観察していた。初めて顔をはっきりと確認したせいで前例もなく何も分からなかったが、なにか一歩前進できた。

この編集の人もなにかに悩むことがあるのだろうか、誰かを憎むということをしたことがあるのだろうか、普通のことのようなのに疑問があたまを巡る。きっと周りは色々と感じながら生きている、その感じているものを知りたいと感じるようになった。顔を見ても分からない、ただきっとみんなにも牢はあるのだろうと思った。僕の牢獄は少し窮屈だが、いつも1人で作業ができる。焦ることがなければいつも周りは澄んで見える。連なった景色を見て感じる、まだまだ広いと。



それに比べれば僕のいる場所はすこし、狭いな。

お読み頂きありがとうございます。


自分にあったことをだいぶんとアレンジして、今回この作品を作りました。

結局僕には僕の話しか上手く書けませんが、この主人公がいつか誰かに認められる日が来ると信じようと思います。


みなさんも追い込みすぎず、無理をせず。大丈夫だと励ましてくれる大事な人に頼ってください。僕には暖かい心があるかは不明ですが、努力したいと思います。

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― 新着の感想 ―
タイトル、すごくずしっときました。 人の心はもしかしたらそれぞれにとっての見えない牢獄に囚われているのかも知れません。 見えない壁が私たちの周りには立ちはだかっていて、その高さを日々痛感しながらも、誰…
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