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婚約破棄した元勇者、辺境でスローライフ…のはずが元魔王に押しかけられて慌ただしい!  作者: cfmoka


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97話

最初に踏み込んだのは、騎士服を着ていない方の男だった。

空気を押し分けるように検圧が迫る。

半歩だけ身をずらし、刀を横に滑らせて受け流す。

火花が散り、剣の軌道がわずかに逸れた。


「ちっ……!女のくせに!!」


その声に反応して、騎士服の男の剣が横から迫る。

天井が低く、振りかぶりが甘い――

私は半歩だけ身を沈め、刀を滑らせて弾き返した。


キインッ!!


その男の背後から、左手にナイフを持ち換えて、男が壁沿いに滑り込むように近づいてきた。

ナイフの男は痛む腕をかばいながら、私の死角を取ろうとしている。

刀を低く構え、壁の位置を感じながら足を滑らせるように動いた。

床板がわずかに鳴る。

その音に反応して騎士服の男が再び踏み込んできた。


ガキンッ!!


その剣を掬い上げるように振り上げ、そのまま叩きつける。


「ぐあっ!!!」

男がくぐもった声をあげ、崩れ落ちると、対角上にこちらに近づこうとしていたナイフの男へと視線を移す。


男の目を見つめながら、身体をひねり、壁を蹴った。

足裏に伝わる壁の感触とともに身体が浮く。


一瞬でナイフの男の前へ滑り込むと、男が驚きに目を見開いていた。

ナイフの男は必死に左手だけで刃を突き出す。

その腕の内側に入り込み、一気に斬り上げた。


最後の男が後ずさる。


「さて。もう一度聞くね?だれがそれを言ってたの?」


私が微笑みながら切っ先を男に向けると同時に、入り口と窓から第一部隊がなだれ込んできた。


「「!?」」


騎士たちがポカンとした顔をしている。


「あ。レグさん。子供たちは全員無事だよ。それからこの人たち、尋問したいんだけど」

刃を下ろさないまま、窓から覗き込んでいるレグに声をかけると、

「……また、あなたは……」

レグがポツリと呟いた。



「子供たちのこの腕輪は?」

「それがね、問題なんだけど。魔力封じなんだって。無理に外すと魔力回路を痛めるって言ってた」

「!?」

「子供たちを誘拐して、何をするつもりだったのか、上とは誰なのか、色々聞きださないといけない」

「わかりました」


セインの頭を撫でると、やっと安心したのか少しだけ涙が滲んだ目で見上げてきた。

「……お妃様……」

「必ずこの腕輪外してあげるから。ちょっとだけ待ってて」

目を合わせ微笑む。

「あの、僕なんどもナイフで刺されたはずなんだけど」

「怖かったよね。ごめんね」

「大丈夫です。だって目の前にお妃様いたから。助けてくれるって分かってた」

必死に涙をこらえながら、赤身を帯びた頬がふわりと緩んでいく。


「「お妃様!!」」

第一部隊が布に隠されていた子供たちの拘束を解くと、全員が泣きながら駆け寄って来た。

幼い子供にまで手首に腕輪を嵌められている。


魔力を封じて、魔族の子供たちをどうするつもりだったのか――


怒りを押し殺すように、ゆっくりと息を吐いた。


身体の底から膨れ上がる嫌悪感を、これほど必死に抑え込むのは久しぶりだった。




◇◇◇




村の外郭、東側の門の近くに、第三部隊の屯所が造られていた。

石造りのそれは、有事の際の拠点でもあり、検問所を兼ねている。

その地下室は、灯の揺れに合わせて影が伸び縮みし、少しだけ湿った空気が肌に纏わりついてはいたが、まだ造られたばかりもあって、比較的綺麗な状態だった。


囚われた男たちは、別々に牢に入れられ、順番に尋問を受けていた。

その様子を、第三部隊の隊長が厳しい目でみつめている。


レグは、魔族の子供を攫った男が着ていた隊服が第一部隊の物であったため、まず隊内の調査からしなくてはいけなかった。

調べを重ねる中で、一人の騎士の行方が知れないことが分かる。

捜索した結果、スタンピードの際に空いた大穴の中から、不明だった騎士の遺体が見つかった。




◇◇◇




子供たちを魔族の女性と一緒に集落に連れて戻った時、母親たちは涙を流して我が子を抱きしめた。

スタンピードの時は全員死ぬ覚悟ではあったものの、それを乗り越え、新しい生活の兆しが見え始めた今、突然の事件は相当恐怖だっただろう。


その場にはゲオルグと一緒にシオルが居た。


「腕輪の解析をお願い」

私が二人に告げると、シオルはセインの前に腰を屈め、腕輪に手を翳す。

「これは魔力波形を読み取り、逆に干渉させ流れを乱し、体内の魔力をこの腕輪に吸わせている。無理に外せば傷つき魔力回路が変質してしまうだろう」

「外せそう?」

「大丈夫だ」


シオルの言葉に、周囲の魔族から明るい声が漏れる。


「ただ慎重にする必要がある。体力の少ない幼い子供から先に解除しよう」


隣のゲオルグに説明しながら、順番に子供たちの様子を確認していくシオル。

ここはもう大丈夫だと、魔族の村の入り口まで戻ると、険しい顔のレグが待っていた。


「申し訳ございません。この度は、私の不手際です」

頭を下げるレグ。その様子に私は手を振った。

「第三部隊の屯所に行こう?尋問の状況を聞かなきゃ」

「はい」

顔を上げたレグの瞳は、静かな怒りに燃えていた。




尋問は五日続いた。

第三部隊は容赦しなかった。異なる部隊とは言え、仲間が犠牲になっていたこともある。

だが、それ以上に今回の誘拐が幼い子供たちを狙っていた事に全員が憤っていた。


彼らは数日前に外壁造りの雑役として村に入り、定期的に子供たちや女性が外出することを掴んでいた。

その上で、魔族と第一部隊の関係を観察し、騎士服を奪い、第一部隊を装う事を思いついたという。

朝の見回りをしていた騎士の一人に、子供たちと同じように道を聞くふりをしながら近づき、仲間が後ろから毒を塗ったナイフで首を切り裂き、騎士を殺害したと自供した。


また今回の誘拐は、魔族の子供だけを攫うよう指示を受けていたことも判明した。

男たちが、誘拐した後向かう予定だったと、地図上で示した場所は、とある侯爵家の別邸だった。

だが、その供述を持って侯爵家に向かった王都騎士団に対して、侯爵家当主は全く無関係だと笑い飛ばし、それ以上の話は全く聞き出せなかった。


子供たちにつけられた腕輪は、依頼人にあたる男から受け取ったと白状したが、その依頼人とはいつも自分たちの上役と同席した状態でしか会っておらず、王都にある冒険者ギルドで依頼を受けていたことが分かった。

その上役に当たる人物を王都で騎士団が探した所、三日前から行方不明になっており、数日後、用水路に浮かんでいる所を発見された。


「魔族は敵じゃないか!人間を沢山殺してきた。子供だろうが何だろうが始末して何が悪い!!」


彼らは憤怒の形相で、尋問していた騎士たちに息巻いていたという。



「男たちと、誘拐を指示した者は思想が違ったようですね」

第三部隊の隊長のその一言に、レグと私は顔をあげた。

「言葉の端々から彼らの魔族に対する執念を感じます。だが、依頼者の目的はあくまで誘拐だったようです」

彼らの態度、吐き出される言葉、そして睨みながら挟まれる沈黙――。


「男たちは小屋で追いつかれ、子供を人質としました。ナイフを何度も刺そうとした所から躊躇いがありません。騎士を殺害したことも同じく」

レグの言葉に眉間がわずかに寄る。

「成人している魔族には人間はかないません。依頼人は捕獲するために、魔力がまだ安定していない子供を、わざわざ攫うよう指示をだしたと考えるのが自然でしょう」

「その依頼人は、魔族を攫ってどうするつもりだったんだろう」

「彼らは何も知らないようです。引き続き王都で依頼人を探す予定です」

その声の奥には、抑えきれない怒りの温度がはっきりと見えていた。

「犠牲者が出ました。我々は統制を見直し、人の出入りの規制を厳格化しなくてはいけません」

第三部隊の隊長の言葉に、レグが静かに頷くのが見えた。

「……気になることがあるの」

厳しい視線のまま、魔族の集落を眺め慎重に口を開く。

「無計画な突発的な行動ではなかった。腕輪の用意といい、集落の工事を狙ったタイミングといい。意図的な計画で、子供たちを誘拐した風に見える。もしかするとこの犯人たちは過去にも魔族の子供たちを攫ってるかもしれない……」

「「!?」」

「腕輪は全員に付けられてた。それはつまり」

「効果を十分にもう知っているから、とう事ですね?」

三人の間に重い沈黙が落ちた。


「レグさん、魔族の人たちに聞き込みをお願いしても良いかな?幼い頃に行方不明になってしまった子供がいないか」

「わかりました」

「王都側では引き続き依頼人を探して欲しいけど」

「はい」

「例の侯爵が気になるよね」

「今現在では何も証拠がありませんが……」

「ちょっとこっちで動けるか聞いてみるよ」

「こっち?ですか?」

二人の騎士がキョトンとしている。


「うん。王都に優秀なメイドが一人いるからね。執事長に聞いてみる」


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