表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄した元勇者、辺境でスローライフ…のはずが元魔王に押しかけられて慌ただしい!  作者: cfmoka


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/100

90話

シオルがゲオルグと何やら相談しているのを、私とゼノスが少し離れた所で見つめていると、袖を躊躇いがちにそっとひかれた。

振り向いた先に、カイルとリルの丁度中間ぐらいの身長の魔族の少年が、椅子を持って立っていた。


「あの、お妃様!よければ座ってください!お茶もお持ちします!」


続々と魔族の子供たちが現れ、背もたれ付きの椅子を運び、その後ろから別の子が二人用の小さなテーブルを抱えてやって来る。


「ありがと!ごめんね。急に来たのに……」

「とんでもないです!むしろ来てくれて凄く嬉しい!」

「私たち、ずっとお話したかったの!!」


目をまんまるにして、満面の笑顔を向けてくれる。

手をひかれ椅子に座ると、テーブルの上に茶器を用意して子供たちがお茶を用意してくれた。


「あのね、陛下が言ってたんだ」

最初に声をかけてくれた少年が口を開く。

「お妃様が僕たち魔族を助けてくれたって。──救おうとしてくれてたって」

私の目を見つめながら、少し言葉を選ぶように、

「あの時──ゲオルグさんは何も教えてくれなかったけど。戻ってきた陛下の服に……沢山の血が付いてて。お妃様の姿がなかったから、ずっと心配だった」

思い出してしまったのか、少しだけ目元を赤くする子供もいて、思わず頬を撫でた。

「無事だったって分かっても、ちゃんとお礼言えてなかった。だからずっと会えたら伝えたくて……」

向かいに座っているゼノスも、真剣に子供たちの様子を見ている。


「僕たちを信じてくれて、助けてくれて──……ありがとうございました!」

目の前の魔族の子供たちが、一声に頭をさげた。

リルより幼い子供まで。全員が。


ああ──

胸の奥で小さく息を吐き出す。

選択が間違いではなかったこと……何より、失わずに済んだという事実に。


「こちらこそ、ありがとう。私たちを信じて一緒に戦ってくれて」

そう言いながら全員の頭を、大切なものを触れるように撫でていく。


「お妃様は、僕たち魔族の『勇者さま』だって、皆で言ってるんだ!」


くすぐったそうに笑いあう魔族の子供たち。

その無邪気な笑顔に触れた瞬間、私の心にも心地良い温もりが広がった。こんなふうに笑ってくれることが、ただ嬉しかった。


子供たちの淹れてくれたお茶は、何と、日本の緑茶に似ていた。

飲んだ瞬間私は固まり、ゼノスは初めての味に戸惑っていた。

懐かしい味に、残りを一気飲みし、ついでにこれ美味しい、在庫があるなら買いたいとお願いした私に、大喜びする子供たちが沢山のお土産をくれて、皆でワイワイ、きゃっきゃと喜んでいたところ──


「ナギ姉ちゃん?」

カイルと、何故かむくれたリルが後ろに立っていた。

「ん?あれ?もうシオルたちの方は良いの?」

リルが無言で私の膝の上によじ登った。

そのまま、私の側に居た最初に声をかけた少年をじっと見据えている。

「リル?」

名前を呼びながら、その柔らかい髪の毛を撫でると、一度こちらをチラっと見上げてから、また少年たちの方に目をやってしまった。

「んん?リル?」

「くく……」

そのリルの様子を見たカイルが笑っている。

「カイル?」

「気にしないで、ナギ姉ちゃん。それより魔族の子供たちと何話してたの?」

「あ!あのね、このお茶が美味しくて。そしたらお土産沢山くれたの」

「お茶?」

魔族の少年がカイルとリルのために、新しいお茶を淹れてくれた。


四人で、魔族の子供たちに囲まれながらお茶をしていると、ゲオルグの背後に美しい魔族の女性が数人、近寄って行くのが見えた。

遠慮がちな仕草を装いながら。だが、対面のシオルを見つめるその視線や手の動かし方には、意図的な何かが混じっていて。

話しかけながら、シオルの腕に手をかけた。


その瞬間──


爆ぜた。


ゼノスとカイルとリルがびっくりして振り返る。



私は見ていた。

シオルの魔法に弾かれて、魔族の女性たちが吹き飛ぶ所を。


あまりの激しい衝撃音に、周囲の魔族たちが一斉にこちらに集まって来た。

その中には駐留中の第一部隊のメンバーもいて。


思わず頭を抱えてしまった。


「シオル兄ちゃん……また?」

ちょっとだけ、すんっとしたカイルの声が静かに響いていた。




「陛下……!申し訳ございません!」

ゲオルグが跪きながら必死に叫んでいたので、周囲の温度が一気に下がった。シオルの逆鱗に触れた者がいる、と皆が悟ったらしい。

そして地面に倒れ込んでいる同胞の女性たちを見ると、何を起こしたのか気づいた魔族たちは、一斉にシオルの周囲に跪いてしまった。


「「大変申し訳ございませんでした!!!」」


事態を飲み込めず戸惑っているのは、直立不動の第一部隊のメンバーだけだ。

その第一部隊を率いている副隊長と、バチッと目があった。


私が意味深に笑うと、周囲を警戒しつつこちらに近寄ってくる。

「お久しぶりです。いらっしゃっているとは気付かず。ご挨拶が遅れ申し訳ございません」

律儀に礼をしながら、子供たちに囲まれている私に声をかけた。

「気にしないで。いきなり来たんだから」

「事前に予定を教えて頂けたらお迎えにあがったのですが……。本日は集落の進捗状況確認でしょうか?」

「ううん。魔族にお願い、というか相談があってね。来たんだけど」

「魔族にですか?」


シオルの背中を遠い目で見つめる私に気づいたのか、その視線を辿るように振り返る副隊長。


「先ほどの激しい音は?」

辺りを見渡しながら、いぶかし気に質問をする。


「ああ~多分ね。多分なんだけど、私の夫に触れた女性たちを、夫が自分で排除したんだと思う」

「夫!?」


副隊長が珍しく目を剥いた。あれ?知らなかった?


「うん。皆がひれ伏してるでしょう?あそこで立ってる人」


目を剥いたまま、その衝撃を受け止められないのか、わずかに震えながらもう一度振り返っている。

シオルの後ろ姿を確認したのか、またゆっくりこちらに顔を向けた。


「ご結婚……されたのですか?」

「うん」

「それは……それは、その、おめでとうございます……」


何だろうか、ちょっと険しい顔をしている。

この副隊長は私が第一部隊に放り込まれた頃、一兵卒だった人物だ。

あの時も、私の事をこんな目でよく見ていた。

でも恐らく、いじめを受けていた私の事を、ブルーノに注進したのはこの……


「レグさん、副隊長昇進おめでとう」

「!」

「それから、……ありがとう」


あの時の事だと、懐かしむように微笑む私に、レグが少しだけ手を握り締めた。


「私はずっと、謝らなければいけないと、思い続けてきました」

やわらかな金の髪が陽に透け、整ったその顔は相変わらず理知的なのに、伏せられた琥珀色の瞳だけが僅かに揺れている。


「我々のしたことは……許されるべきではありません」

「レグさん、もうあれは」

「だからこそ、スタンピードの応援に我々は志願しました」

「!」

「ずっと長い間、悔やみ続けて……この身を捧げられる機会を願っていました。それが叶った。やっと贖罪が出来ると思っていた。命を削る勢いで移動し、辺境へ駆けつけました。ですが鎮圧は終わった後で」


少しだけ恨めしげな目を向けられてる気がする……。


「たった三日で終わってました──」


“少し”、だけの恨めしげな目じゃないな。この感じ。


「あなたは、……あなたは相変わらず」


……あれ?これ本気で恨んでない?


「……まあ、良いです。結果スタンピードの制圧による死者は出なかった、とブルーノ副官から聞いております。我々は全く役に立てませんでしたが」


「うん。何かごめんね。あの、」

「あなたがご無事でよかった」

「レグさん」

「ところで」

「ん?」

「この後ろからの殺気は……。どうにかなりますか?」


レグを猛烈な勢いで睨みつけているシオルがいた。


「シオル兄ちゃん、ぶれないね。本当に」

再び遠い目になる私の横で、魔族の少年とすっかり打ち解けたカイルが、ボソっと呟くのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ