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婚約破棄した元勇者、辺境でスローライフ…のはずが元魔王に押しかけられて慌ただしい!  作者: cfmoka


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80話

村の空気は、復興の気配と土の匂いが混じっていた。


晴れ渡る空の下、村長の家に私とシオルは訪れていた。あの魔導義手の初めてのテストが行われるのだ。

緊張した顔のレオンハルトが椅子に座り、シオルが向いからテスト義手を装着している。

私は、その光景を少し離れた場所から見守っていた。


義手の内部には、淡い青色の魔力が脈打つように流れていた。


「魔力の流れは安定しているが――ゆっくりと指を動かすイメージはできるか?」

シオルの問いにレオンハルトは深く息を吸い、右腕に意識を集中させた。

が、何の反応も示さない。

「……っ」

レオンハルトのこめかみに汗が流れる。

様子を見守っていたゼノスが、ひっそりと息を吐いた。


「シオル、もしかすると動かすというイメージが難しいのかも」

私の思い付きにシオルがやや考えて、

「なるほど⋯⋯。ではこちらから補助信号を流してみよう」

義手側から、幻肢感覚を呼び起こすための刺激をする。

「まず温度だ」

シオルが温かいか冷たいか、温度の変化を感じられるか試験を繰り返す。


「親指側だろうか?何となく分かる気がする」

レオンハルトの呟きに、ゼノスが息を呑んだ。

シオルは頷くとテストを繰り返した。


やがてレオンハルトは目を瞑って、シオルの声に集中して耳を傾け始めた。

「今、小指側に温かいという感触はあるか?」

「手の甲に冷たいという感触は?」

部分を区切って、細かい反応を試す。


毎日少しづつ。私たちはそれをじっと見守った。


ある日、村長の家に行くと、ゼノスと一緒にカイルとリルがいた。

「あれ?二人ともどうしたの?」

私が聞くと、ゼノスが経緯を説明した。暫く二人を村長が預かることにしたと。


ララベルが北部辺境の代官代理業務を本格的に開始するにあたって、その護衛にライエルが抜擢されたらしい。

王領予定の地域の整理と、該当貴族家の資産・記録の確認に加え、スタンピード後、右陣の魔族はそのままそこで集落を形成し始めており、ララベルは定期的な視察も行っていた。

かなり時間をかけて各地を移動するため、家を留守にすることをライエルが心配し、二人を一番安全そうな勇者一行の滞在している村長の家に預けたと。

そして、カイルとリルに魔法としての才能があると見抜いたゼノスが、二人に手ほどきを始めた所だという。


驚いた。


「うちでも良いのに……」

私が呟くと、カイルとリルがびっくりした顔で私を見る。

「ん?」

「ナギ姉ちゃん……さすがにそれは無理だよ」

「何で?」

「なんでって、シオル兄ちゃんが可哀そうだよ。あんなに二人っきりになりたいって、いっつも言ってるのに」

「!!」


私が赤面したのは言うまでもない。


ゼノスの指導で、カイルとリルが簡単な風魔法が使えるようになった日。

レオンハルトの右腕にも変化が訪れた。


「少しだけ、手のひらに板のような物体が触れた感じがある……」

レオンハルトは自分の腕ではない『それ』に、確かに感触があったことに驚いていた。


そしてそれからは、魔力の流れが指先へ伸びるような感覚を掴むため、その指先に刺激を与える信号を流し、ゆっくりと動かす訓練に入った。脳に「この動きは自分のものだ」と錯覚させるのが目的らしい。


毎日レオンハルトの義手訓練に向かうシオルに付き合って、私も村長の家に通い続ける。

ある日ふと気づいた。

ドルガンとあまり会わない――

ゼノスとレオンハルトに尋ねたけど、二人もあまりよく分からないらしい。首をひねっていた。


その内、村の周囲にあった防御壁と堀の修復が完成したと村長が告げてきた。

以前は土と石で作られていた防御壁だったが、今は丁寧に切り出された石材で積み直され、表面には魔術式が刻まれている。

これはゼノスがシオルに相談して作った、防御魔法を表面に施したものだ。

そして堀は、ただの溝ではなく。

堀の外縁には、木製の杭が掘の内側に向かって新たに打ち込まれ、はね上げ式の橋が設置された。

このはね上げ式の橋は、一部に魔力を流すことで軽く動かせるよう、シオルの重力魔法が基礎に組み込まれていた。


「後は村の中をもう少し強固な物にしたほうが良い、とララベルさまはお考えでして。ただそれは王都からの判断を待ってからでも良いだろうと」


これらの資金は、モンテ家からの慰謝料の半分が充てられたそうだ。


「あとは魔物に踏み潰されて、畑や森などの土地が弱っておりまして。何とか 土壌再生と苗木の成長速度を数倍にあげる魔法がないか賢者さまに相談しております」


なるほど。それはシオルにも相談が来そうだな。




シオルが義手の本体製作のために、屋敷に戻ったその日。

私は第三部隊のメンバーと、右陣の様子を見に行った。

魔王に接触し、瀕死の状態になった第三部隊は、今まで右陣の復興に直接関わってこなかった。

魔族と魔王を同一視していた場合、魔族との対面は危険だったからだ。

しかし。

同じ騎士団所属でありながら、普段何かと反りがあわない第一部隊の様子が気になったらしい。


あの第一部隊が魔族の集落復興を手伝っている――平民をいつも見下して、貴族意識が強いあいつらが?

魔族の集落を?

ちょっと見るだけ、ちょっとだけでいいから、見に行きたい。と相談されて。

私は第三部隊の隊長と複数のメンバーで、こっそり魔族の集落を覗きに行った。


そこにいたのは、みな騎士服を脱ぎ、軽装で魔族と一緒に木材や石を運ぶ第一部隊のメンバーの姿だった。

魔族の子供と親し気に話している者もいる。


驚いた。


「凄いね。魔族相手に武装を完全に解いてる」

私の呟きに、第三部隊の隊長が静かに頷いた。

「はい。ブルーノ副官のお考えは当たりましたな」

「ブルーノさん?」

「直接その目で見たことを彼らは無駄にはしないだろう、との事でした」


私がこの世界に来たばかりの頃に出会った第一部隊とは、もう違う。

だから安心して任せて大丈夫だよ……遠い王都にいるブルーノにそう言われた気がした。



ケガ人の治療経過も良好で、野山に小さい雑草の目が出始めた頃。


「勇者さま、それじゃあ私たち村に帰るね」

「エリカちゃん」

「何か色々あって。思いのほか、ずっとここに居ちゃったけど」

荷馬車の前でエリカとティモが並んでいた。


「剣聖さまの腕、宜しくお願いします」

ティモがシオルに頭を下げた。ティモにとってもレオンハルトは師匠なのだ。

心配で仕方ないのだろう。


「大丈夫だ!ティモ。今度会うときは世界発のこの腕で、バキバキしごいてやるからな!」

「剣聖さまもしごくんですね……」

私にしばかれたのを思い出したんだろう。ちょっと遠い目をしている。


「帰りは私たちがいませんからね。二人だけですから充分に気を付けて」

ゼノスが告げると、

「ティモもあれだけのケガをしたんだからな。無理はするなよ」

久々に見たドルガンがティモを小突いた。


「エリカちゃん、これ」

そう言ってスノードロップのミニブーケを渡す。

もちろん『枯れない花束』だ。

以前シオルが魔法で出してくれた花畑から、この花を探して切り取っておいた。


「スノードロップ?でも花は全部、スタンピードで魔物に踏み潰されて……」

エリカが目を見開いている。

「うん。シオルが魔法でね、咲かせてくれたから。エリカちゃんに渡したくて」


ミニブーケを受け取ったエリカの目の奥が潤み、

「これはずっと枯れないから。一生エリカちゃんの側にあるよ」

「!」

目尻から涙が柔らかく零れ落ちた。


「エリンがずっとエリカちゃんを守ってくれますように……」


私は泣き止むまでエリカを抱きしめていた。


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