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婚約破棄した元勇者、辺境でスローライフ…のはずが元魔王に押しかけられて慌ただしい!  作者: cfmoka


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79話

窓辺には、アエテルナリスの花束と、スノードロップで編まれた小さな花冠が寄り添うように飾られている。

窓から差し込む柔らかな月光が、二つの花を包み込み、白い花束は柔らかく、花冠は淡く、それぞれ違う白さで輝いていた。


私はその二つの宝物を見つめながら、またしてもだらしない顔をしてしまった。

ちょっと口に力を入れて、帰る道すがらブルーノに手渡された手紙を開封する。


それは私にしかできない事だと、託されたもの。

元勇者から国王陛下へ依頼してほしいと。


「ナギ?それは?」

シオルが私の横から覗き込んできた。


「ブルーノさんがね、この内容で手紙を書いてほしいって言ってて」




敬愛なる国王陛下


お元気でいらっしゃいますか。

勇者を引退し、辺境に身を置く私が、このように筆を取ることを、どうかお許しください。


この地で起きたスタンピードにつきましては、王国騎士団・騎士団長を通じて、第一王子エドワード殿下、グレイヴンホルム公爵家リラノーラ様へもそれぞれ報告が届いている頃です。


ここで、陛下に一つお願いがございます。


聖王国大神殿に下ろされる神託の玉は、「魔王と認定された存在の姿と名」が投影されており、それをもって世界は『魔王』を認識しております。


四百年前、神託により示された魔王ベオルの、その「姿」の記録が、現在も保管されているのであれば――

今回襲撃してきた魔王の『角』と、その形状が一致するかどうか。

聖王国側に、極秘裏に照会していただくことは可能でしょうか。


どうか、一考いただけましたら幸いです。


『角』の実物は殿下へお渡ししております。


最後に、陛下がこれからもお元気で、王国がずっと平和でありますように……心から願っております。



ナギ・メグロ




「なるほど?角の証明か」

「うん。ベオルが400年前の魔王だって、私たちは分かってるけど。中央では、あの角が400年前の魔王のだって判断はつかないから。大神殿となると、聖王国の教皇さまにお願いするしかなくて、そうなると聖王国の王様に依頼して、って段取りになるみたい。だから陛下に頼んだ方が良いって言ってた」

「神託の玉か……」

「これって『世界の理』が、玉座を通して見た『魔王』を玉に映像として残して、聖王国に下ろしてる、ってことだよね?」


この世界の映像記録――それは大神殿にある玉のみ。貴重なそれは、一般には公開されていない。

それこそ教皇や聖女、大神殿に訪れた各国の代表者や勇者など、限られた者だけが目にすることができた。


「私もシオルの姿は聖王国で見たけど……」

そう言いながら、まだこの世界の書簡の作法に慣れない私の為に、ブルーノが用意した下書きを見ながら、一生懸命清書していく。

これだって、かなりくだけた文面だ。


「かなり昔に『討伐が完了した』と神託が下ろされてたのに、今回400年前の魔王とされる魔族が現れたから。復活した証明に使いたいって言ってた」

「討伐したはずの魔王が復活するなど、前代未聞だからな。事実が公になれば、周辺国も含めて大変な騒ぎになるのではないか?」


シオルと会話しながら、何度か書き直して出せる手紙が完成した。


「レオンハルトさんの腕はどう?」

「魔力因子のデータと、断端の型取りはとった。テストタイプが出来たら一度調整したい」

「じゃあ、もう暫く村にいてもらった方が良いよね?」

「そうだな。屋敷の使用人たちと同じ、筋肉の信号で手先を動かすタイプで検討している。上手くいけばそのあと本体制作に入る」

「凄いね。私の世界にも義手はあったけど。私は全然分からないから」

「そうなのか?」

「うん。専門家とかお医者様とかじゃないと分からないと思う」


シオルは凄いな、という目で見つめていると、シオルが少しだけ青い目を和らげた。


「ナギ、このスタンピードが終わったら、欲しいものを贈り合おうと言っていたのを覚えているか?」


もちろん覚えている。でもすでに、私は凄く色々貰っている気がするんだけど。

命を助けてもらったし。今回の義手も、スノードロップの花冠も。

それに今身に着けているこれ。

黒のボディースーツに、白地に花弁の刺繍が施された、まるで儀礼衣装のような装具。

屋敷から村に戻る前、リュミエルが渡してくれた衣装がこれだった。

アエテルナリスをイメージして作ってくれていたらしい。

シオルも同じ白を基調にした装具を着ている。


「シオルは何が欲しい?」


私が下から見つめると、シオルがテーブルの上に長方形の箱を一つ置いた。


「開けていいの?」


嬉しそうに頷くので、その蓋をそっと開く。

そこには白く、淡く、まるであの花々のように輝く二つの玉――


「……これ、もしかして」

「指輪に使おうと思っている魔石だ」

「きれい……」

「これに刻む魔術なんだが。魔石の相互位置認識と、その座標に転移する魔術展開を構築する回路を入れたい」

「ん?」

「つまり、この指輪をはめた者同士であれば互いの側に転移できる、という魔術だ」

「え!私もシオルの側に転移できるようになるってこと?」

「そうだ。これを魔石に付与させてほしい」


もしかして、何度も私が居なくなっていたから、だろうか。

いつもシオルは私を探していたし……。


私から、いつでもシオルの側に行くことが出来るというのも、凄くワクワクした。


「うん!わかった!」


笑顔で頷くと、シオルは少しほっとした顔をしていた。

でも。それだと私も嬉しいし、私から『贈るもの』になるのかな?他に何か私にあげられるものあるかな?そう考えていると。


「それと、もう一つあるのだが」

「うん?指輪に?」

「そうだ。装具一式の即時展開、切替ができるように」

「んん?」

「つまり、いつでも着脱可能なように、指輪に仕込む。例えば冒険者の服を着ていても、望むタイミングで装具を装着できる」

「え」


それは魔法少女みたいな変身では?


私が固まっているので、シオルが不安になったらしい。

こちらを覗き込んできた。


「……ちょっと待って。私もう23歳いや、もう24歳?魔法少女とか良いの?色々失くさない?」


ブツブツ呟きだしたので、さらに不安になったらしい。若干顔が青ざめている。


「ナギ?嫌か?そんなに抵抗があるとは思わなかった。すまない」


謝られてしまった。

いや。全くシオルは悪くない。

私の思い込みなんだ。これは。


「ウェブスターもこの魔術紋を仕込んでいて、燕尾服を瞬時に装備できるようにしている。使い勝手が良いと思っていたのだが」


ん?


「ウェブスターさんも使ってるの?」

「ああ。あれば手を増やす度にすぐ破くからな……。それに他の使用人たちも、身体のいずれかにこの魔術紋を刻んでいて、武器を手元に出せるようにしている」


なるほど。だからあんな大きな武器を皆振り回せていたのか。どこから出しているのか不明だったけど納得した。


私のアイテムボックスも装具はしまえるけど、一瞬で着替えることはできない。


「ごめん。大丈夫。私もそれが欲しい」


私が頭を下げてお願いしても、それでもシオルは不安げな様子を消せないようだった。

ちょっとだけ、しまったな?と思いつつ。


「シオルが欲しいのは魔石に刻む魔術の許可?それ以外は?」


あえて他にないか聞いてみる。


「……」

「シオル?」

「私は充分もらった」


テーブルの上に置かれていた私の手を、シオルがそっと握った。


「ナギという番を。それだけで……本当に」


シオルは一瞬だけ目を伏せ、すぐに柔らかく微笑んだ。

その声は穏やかだったけれど、瞳の奥に、かすかな揺れが見えた気がした。

満たされているようでいて、その奥に、固く押し込めた願いが沈んでいる。


……私たちはもっと色々話さなきゃいけない。お互いが唯一だとしっかり分かっていても。

あの《魂のゆりかご》で吐き出した言葉がシオルの本音なんだと、私はもう知っているから。


シオルの孤独を癒すにはどうしたら良いだろうか――


「じゃあ。今度は私の欲しいものだね。今度屋敷に戻って、ゆっくりする時間があったらシオルにお願いがあるの」


私がシオルの手を握り返すと、やっと彼は影が晴れたように、穏やかな笑みを浮かべた。


「ああ。分かった。」

「ふふ。覚悟しててね」


シオルが軽く首を傾げた。


「ナギの願いなら何でも聞くが……」


目の前の夫が珍しく「?」を浮かべているのを、私は微笑みながら見つめていた。




◇◇◇



数日後――


雲ひとつない青空が広がる中、王国騎士団一行は辺境から王都へと帰還していった。

復興支援に一部の第一部隊を残し、辺境伯と代官代理、私からの書簡を携えて。



ブルーノは、「くれぐれもこれ以上無理しないように」とレオンハルトに釘をさしていた。

シオルには「ナギちゃんをよろしく」と無理やり握手をし、私には、「第三部隊に放り込んだり、レオンの弟子として修業したりで。ナギちゃん、どんどん女の子らしさから遠ざかっていっちゃってたから。結婚相手を見れて本当に安心したよ」……容赦ない言葉に、思わず苦笑いをする。


「次会えるのは殿下の立太子の時かな?」

「うん。シオルと一緒に行くよ」


清々しい空気の中で、騎士団長と副官は馬に跨がった。

心なしか、騎士団長が一回り小さくなってしまったような気もするが……。


二人は微笑みながら軽く手を振ると、一行と共に王都へ報告を届けるための帰還の途へ着いたのであった。


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