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婚約破棄した元勇者、辺境でスローライフ…のはずが元魔王に押しかけられて慌ただしい!  作者: cfmoka


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73話

私たちは魔王城の地下へと続く階段を下りていた。

下へ降りるほど、空気は静まり返り、靴音が吸い込まれていく。


シオルの片腕には、魔王ベオルがぐったりとぶら下がっていた。

閉じたままの瞳は微動だにせず、力の抜けた身体が階段の段差に合わせて小さく揺れる。

その様子は、まるで壊れた人形のようだった。


階段を下りきり、天井の高い通路をまっすぐ進む。

その通路の奥から、巨大な扉が姿を現した。

柱に支えられた扉の上部にある竜のレリーフに、シオルが手を翳す。


『オルディム様?』

「ガーディアン、少し預けたい」

『そちらは?』

石の身体がゆっくりと震え、竜の目がシオルの傍らに立つ私に向かう。

「私の番だ」

『!!』

石造りのはずの竜の身体が跳ねた――ように見えた。

『な、なんと……そのような……』

「一緒に入る。鍵を」

『はいはいはい。承知いたしました。すぐに』

竜は一度瞼を閉じてパッと開くと、瞬時に瞳孔を青く光らせ、扉を内側から勢いよく開けた。

『さ。お入りください』

「……」

シオルが何か言いたげな顔をしながら、私を引きつれて中に足を踏み入れる。


「ここは?」

横のシオルを見上げながら辺りを伺う。

「あのガーディアンに守護させている、一族の宝物庫だ。普段はあんなに軽い性格ではないのだが…」

「??どうしたの?」

「いや……」

高い天井に、幾重も連なるアーチが奥へ奥へと続いていた。

小窓からこぼれる光が、無造作に積まれている宝物の表面を照らす。


「ここにベオルを封印する」

「うん。角……折っちゃって大丈夫だったかな?」

手元で黒光りする長い角を見つめる。

「全く問題ない。意識を刈り取る程度だ」

「……かなり痛がってた気がしたけど」


シオルが魔方陣を展開し、その中央にベオルをフワリと浮遊させた。

額から後ろに伸びていた黒い角が片方、欠けている。


「魔族の角は急所で、神経が通っているからな。まあ痛いだろうが。些細なことだ。気にしないで良い」


――急所?神経が通ってる?


思わず手元の角を見たあと、眠っているように瞼を閉じているベオルを眺める。


めちゃくちゃ痛いんじゃないの……?

気を失うぐらい痛かったんじゃないの?もしかして。


「では封印する。これでベオルはヤツの支配から一時的に逃れられるはずだ」


シオルが静かに息を吸う。

ベオルの足元に浮かび上がっている魔方陣の周囲に、新たな魔方陣が出現した。

幾重にも重なりながら回転し、複雑な幾何学模様を描く。

やがて、静かに眠るベオルの足元に、光がまとわり始めた。

透明な薄い光の膜がゆっくりと立ち上がりながら、封印対象の身体を包むように。

膜はその姿を硬質な結晶へと変え、異質な音を響かせながらベオルの全てを覆い尽くした。


「外部からの接触を断てる、ガーディアンの体内が一番安全だろう」


そう告げると、シオルは水晶体に封印されたベオルをそっと見上げていた。




◇◇◇




村へと戻った、その直後――

背後から、私の名を呼ぶ声がした。


「ナギねぇ、ナギ姉ちゃん!」


リルが足元をもつれさせながら駆け寄り、私の足にしがみつく。

初めてこの村に来た時のように両腕でしっかりと。

「まっ待ってたよ!!」大粒の涙を零しながら。


「……ごめん。……遅くなってごめんね」


膝をついて、しっかりとリルを抱きしめる。


その向こうに、目を大きく見開いたまま、固まっているカイルの姿が見えた。

ああ――。

二人にとても怖い想いをさせてしまった……


「カイル。……もう大丈夫だよ?」

そう言ってもう片方の手を大きく広げた。

出来るだけ私の無事が見えるように。


ゆっくりとカイルが足を踏み出して、でも躊躇って。

一歩、一歩。確かめるのを恐れているのかのように……。

そのカイルの背中を、シオルが優しく押した。


一瞬、驚いたようにシオルを見上げて、カイルは顔をくしゃりと歪めた。

そして一言二言何かを告げると、こちらを振り返った。

あふれ出た涙を拭いながら、私に必死に駆け寄るカイル。


「ナギ姉ちゃん!!!」


腕の中に飛び込んで来たカイルを、固く抱きしめた。


「ナギ姉ちゃん!ナギ姉ちゃん!」


大声で私の名を呼びながら、私の首にしがみついてくる。


「ひ、紐が切れて……ッもう、もう」

「うん」

「ナギ姉ちゃんも、死んじゃうって」

「うん、うん」

「死んじゃうってッ!こ、怖かった!!」


腕の中のリルはしゃっくりを上げ、カイルは私が生きていることを確かめるように、泣きながら首元に顔を埋めた。


「ごめんね。二人とも……心配かけて。怖い想いさせて、ごめん」


何度も二人の背中を撫でる。


「待っててくれて、ありがとう」


初めてこの村に来た時。

寂しくて苦しくて、凍りついていた私の心に、温かく灯をともしてくれたのは、この二人だった。


そして再びこの村に帰ってきて、ここで暮らすようになって。

元の世界に帰れない私にとって

この村は、村の皆は、私の故郷のような帰る場所になった。


だからこそ。

スタンピードで失うわけにはいかなかった。

絶対守り切るつもりだった。


何に代えても。


私の身体にしがみついている二つの温もり。

それを実感して。


私は改めて決意していた。



あの声を覚えている。

――わたしの世界の二柱の願い。


『狂った管理者と…滅びに向かう世界と、戦ってほしい』

『歪んでしまったあちらの世界を、本来の優しい世界へ導いてほしいの』



もし創造主がこの世界を滅ぼそうとしているのなら――



絶対に許さない。




「ナギ姉ちゃん」

首元に顔を埋めていたカイルが、顔をあげて覗き込んできた。


「ん?」


「あのね、シオル兄ちゃんにお願いされて」

「うん?」

「新しく紐、編んだんだよ」


そう言って、カイルが振り返った。

そこには泣きながら両手を握り締めているエリカが立っていた。


「エリカちゃん?」


「ゆ、勇者さま!」


リルとカイルの後ろから、エリカがゆっくりと近づいて来る。


「お、お姉ちゃんが殺されて」

「……うん」

「もう一人のお姉ちゃんもっ」

「うん」

「私の知らない所で死んじゃうかもって!」

「うん、うん」


私はゆっくり立ち上がって、エリカの頭を優しく撫でた。


「わーーーーん!!!」


堪えていたものが弾けた様に、大声で泣き続けるエリカ。

その頭をそっと何度も撫でる。


「これ、これちゃんと」

そう言いながら、預けていたソラスを両手で掬い上げるように、それを私の前へと静かに差し出した。


「ちゃんと、か、返さなきゃってっ」


淡く金色に煌めくソラスに、新しく通された白と黒の飾り紐。


「うん」


私はそれを、大切なものをしっかりと握り締める。



「……ありがとう、みんな」



リルは弾ける笑顔で

カイルは嬉しそうに目を細めて

エリカはまだ泣きながら



「ただいま」



その一言は、帰ってこられたことへの感謝と。

ここからもう一度歩き出すという、自分自身への誓いだった。

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