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婚約破棄した元勇者、辺境でスローライフ…のはずが元魔王に押しかけられて慌ただしい!  作者: cfmoka


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72話

「貴様⋯⋯」

ベオルは容赦なく地面に叩きつけられた。


「今なんと言った?」

ドシャァッ!


後頭部にめり込んだ指が猛烈に痛い。


「……っ、が……」

声にならない音が喉で潰れた。

ガッチリ掴まれている。後頭部を、いや――頭そのものを。


ドゴォッ!

地面が砕ける音が、遅れて耳に届く。


「……おい!……ちょ!何をッ……」

最後まで言葉にならなかった。握る力が、異常だった。


「いきなり何すんだ!てめえ!」

無理やり顔を上げ、振り返る。


「あ?」

青い目の男の低い声が、すぐ耳元で落ちた。


その顔。

その目。

白金色の髪でなく、角もなく。その姿は人間そのものだったが――

「お?し、しおる?」

ベオルはこれでもかと金色の目を見開いて呟いた。


「よりによって我が妻に懸想するとは」

空気が震えるほどの静かな怒り。

「へ?」

ベオルは思考回路が止まってしまったかのように、シオルから目を逸らさない。

「万死に値する」

「え。いや、ちょっと待て!知らんかったし!お前の嫁さん?マジ?そうなの?!」

「消し炭にしてくれる」

「………マジ嫁?」


シオルの物騒な言葉は、彼には届いていないかのようだった。

……やがて。

「……そっかぁ~~シオル結魂(けっこん)できたのかぁ。良かったなぁ」

泣きそうな顔で祝福するベオル。


「……何故ここにいる?」

「おぉ?」

ちょっと鼻をすすりながら地面に座り込む。

そのままシオルの顔を見つめ、ニヤリと笑った。

「ヤツに命じられててな~。俺はヤツの『操り人形』だぜ」

「どういう事だ」

シオルの問いに、おもむろにシャツをはだけさすと、

「こことォ」

胸の中央に蠢く黒い塊。それはまるで心臓のように脈動し、血管のように細かい管を伸ばし張り付いている。

「ここにな」

そう言って頭を指さした。

「動かないこの身体を動かすために、この気色悪い異物を仕込まれてる。頭の中には、魂とこの身体を紐づけるピンを差し込まれててな。このピンにはヤツの言葉が刻まれてて、俺は『最北端の人間の村を滅ぼせ』と繰り返し命令されてるってわけだ」

「!」

シオルの眉間がわずかに曇る。


ベオルはやっと目の前のシオルから、『妻』と告げられたナギへ視線を移した。

「お前、シオルの嫁だったのかぁ。……ちょっと強すぎねえか?」

呆れたような声で、ナギの右手に握られている剣を見つめる。

「その剣の男は、知り合いなのかぁ?」


この魔王もヤツに支配されている――

その状況が分かり、ナギは少しだけ息を吐いた。

「……私の剣の師匠だよ」

「なるほどなぁ。あの中で一番強そうだったからな」

ベオルはフッとその金色の目を細めた。

「真っ先に潰させてもらった。……すまなかったな」


申し訳なさを隠そうともしないベオルの様子に、ナギはゆっくりと剣を持つ手から力を抜いた。

そしてこの状況があまり良くない、ということに気がついた。


「残された数少ない魔族たちが、私たちと共闘していることは知ってる?」

「おぉ?」

ベオルが驚きの色をそのまま顔に浮かべた。

「あなたのせいで、彼らの立場が微妙になってしまった」

味方のはずの魔族が襲ってきた――と。

「王都の兵もあなたに襲われているから、あなたの存在を無かったことには出来ない」

そこでベオルは一度シオルの顔を見つめると、ゆったりと笑いながら

「なら、400年前の魔王が復活して、単独で襲ってきたことにしたらいい」

そう言って自分の角を指さした。





ナギがシオルと、リュミエルと一緒に中央の陣に戻ってきた時。

ダンジョンコアを壊した後で、苦戦する状況ではなかったはずなのに、異様な空気が流れていた。


シオルにある程度聞いてはいたので、カイルとリルを探そうと視線を巡らせた瞬間――

陣幕の布の間から、寝かされているゼノスとレオンハルトが見える。

ゼノスの魔力量はあり得ないほど、それこそ命を脅かすほど減っており。

レオンハルトには右腕が存在しなかった。


「……え?」


私の声に反応するように、陣幕からドルガンが飛び出してきた。

「ナギ!良かった!無事に帰ってきたんだな!」

そのドルガンも、顔を半分覆うほどの包帯が巻かれていた。

「……なにが、何があったの?」

そっと陣幕の中に足を踏み入れる。


「ナギ?」

薄っすらと目を開けたレオンハルトの顔色は悪い。

「何だナギ。そんなに髪伸びて。出会った頃みたいだな」

そう言って、眉を下げて仄かに笑う。

「……腕……が」

「バカに強い魔族が来た。しくじったな」

「……魔族?」

静かに問うと、レオンハルトの眉間に皺がよった。

「俺たちを逃がすために、メイドとウェブスターさんがあの場に残った」

その言葉に、まっすぐ顔を上げる。

「レオンハルトさん、剣借りていい?」

「なんだ?ナギの剣はどうした?」

レオンハルトとドルガンが不思議そうな顔をしている。

「ダンジョンで折れちゃったの」

「「……」」二人が何とも言えない顔で沈黙した。

「私悪くないよ!多分……」

「まあ、いい。持っていけ。ちゃんと返せよ」

「うん!」


立てかけてあったレオンハルトの剣を握ると、後ろで静かに立っていたシオルに一言告げる。

「シオル、先に行ってるね」

「分かった」

シオルが、周囲の状況を確認しに行く気配を背後に感じながら、私は前線に疾走していった。





そして今。

400年前の『魔王』ベオルは、創造主の支配を受けている事がわかった。

創造主の執着は、勇者だけだと今までは思っていたけど。


一体創造主は何を企んでいるのか――

ベオルがシオルの知り合いなら、このままには出来ない。


「ナギ、ロウランとバルトをこちらに呼び寄せた」

シオルが剣を鞘に戻した私に告げる。

「ウェブスターとイグナ、トリアはこのまま村人たちの前に出すわけにはいかない。二人に屋敷に運ばせる」

「そうだね……色々刺激強いもんね」

四肢がないのに、元気なトリア。斬られた右足を抱えているイグナ。何ならまだ腕は追加で出せると豪語するウェブスター。

人間なら死んでもおかしくないケガなのだ。

「マーニャはフェリアと一緒に、陣内にいるリュミエルと合流して、中の怪我人のケアと復興を手伝うように」

「承知いたしました」

「私たちはこのベオルを『封印』してくる」


シオルと私は、私の剣を受けて気を失っているベオルと一緒に転移した。


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