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婚約破棄した元勇者、辺境でスローライフ…のはずが元魔王に押しかけられて慌ただしい!  作者: cfmoka


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71話

ナギは、目の前の光景を見た瞬間、世界の時間が止まったように感じた。


視界の先――

右足を失ったイグナが、片膝を地面につけたままバスタードソードを構えている。

そのすぐ脇には、四肢を失ったトリアが横たえられていた。


二人を守るように、マーニャとフェリアが立ち塞がり、紫色の、形容しがたい気色の悪い物体と、地面から激しく噴き上がるツタを相手に、応戦している。


風の音が、一瞬だけ遠のいた。


そして――

紫色の魔力を放つ剣に胴を貫かれたウェブスターの姿が、視界に入る。

彼には、すでに両腕がなかった。


ナギは静かに、ただ静かに標的を見つめた。




突然戦場に現れたその女に、ベオルは目を見張った。

――気配を、まるで感じられなかったからだ。


女は、先ほど片腕を斬り落とした男の剣を右手に携えている。

その姿を見た瞬間、ベオルの片眉がわずかに上がった。


黒いアームカバーが手元から肩までを覆い、首元まで隙のない黒のインナーに、白金色の胸当て。

腰からは白を基調とした装飾布が垂れ、前面には花弁のような文様が刻まれている。

その隙間から覗く脚は、太腿までを覆う黒のロングブーツに包まれていた。

黒水晶のような瞳と、腰まで届く光を吸い込むような黒髪。

その黒髪の、風に揺れる毛先は純白に染まり、光を受けて輝いていた。



――どことなく神聖な……。

その佇まいは、戦場に立つ者のそれではなかった。



目の前の女は微動だにしていない。

だが。

直感が全身を刺すように走り、ベオルは剣で突き刺していたウェブスターを振り飛ばし、反射的に後方へ跳び退いた。


突然のベオルの予想外な動きに、メイドたちがこちらへ注意を向けた。

女をあきらかに視界にいれた、その瞬間。

一斉に喜色を浮かべたのだ。



――⋯⋯なるほどぉ?

メイドや執事……ヤツらはあくまで防波堤。

この女が到着するまでの。

つなぎか?



女は飛ばされたウェブスターを左手だけでキャッチすると、何か語り掛けていた。

そのままメイドたちの方へ歩みだす。

この魔王ベオルに背を向けて。


『アルファタイプ』のアバミネーションで四肢を奪ったメイドの頭を優しく撫で、他のメイドたちと何か話している様子だった。

執事をその中に横たえると、またこちらに顔をむけた。


その目は静かにベオルを捉えていた。

あきらかな標的として。


女の背後では、まだ『プロトタイプ』と『アルファタイプ』がメイドたちを囲んでいる。

それを動かそうと、ベオルが左手の指に力を入れた瞬間。


女が軽く瞬きをした。

――刹那。

自分が作ったアバミネーション全てが消えた。


「……あ?」

静かにベオルの背中に何かが伝う。

意味が分からなかった。

女は動いていない。瞬きなんて誰でもする。


そこに理由はなかった。

ただ直感で分かった。

女が――何かをしたのだと。






「申し訳ございません。ナギ様」

少しだけウェブスターが眉を下げる。

両腕を失い、胴に穴が開いたウェブスターは、思ったよりも軽かった。


「ごめんね。遅くなって」

私はウェブスターを左腕に抱きかかえて歩き出す。

四肢を失ったトリアがこちらを見て笑顔を浮かべた。

そっとその頭を優しく撫でる。

「ごめんね……」

思わず声が詰まる私に、トリアとイグナが声を揃えた。

「私たちは大丈夫です!」

「またご主人さまに作ってもらうから~」

二人の元気な様子に思わず微笑むと、マーニャが何があったのか教えてくれた。


あの魔族が魔剣士であること。

二種類のアバミネーションを召喚してきたこと。


トリアがツタのアバミネーションに絡め取られ、四肢をもがれた直後――

胴体を、もう一種の紫色の壁へと放り込まれそうになったこと。

それを止めるために、ウェブスターが糸を放ったこと。


その隙を狙われ、右腕を、続いて左腕を斬られ、胴を貫かれたこと。


レオンハルトたちが負った傷も、すべてこの男のせいであること。


そして――

この男が、400年前の魔王であること。




アバミネーションという聞きなれない単語に、周囲を見渡して気づく。

……ツタ?

ダンジョンコアに現れたミレーナの下半身に生えていたソレと酷似していた。


この男もヤツと繋がっている?


私は静かにその魔王を見つめた。

黒い外套に闇の色に近い紫色の髪を靡かせ、金色の目でじっとこちらを伺っている。

シオルとはまるで対極のような色をもつ魔族。


男がわずかに動いた気がした。


迷わず《千里眼》と《界域(エーテル・バウンダリ)》を構築。

そして二柱の優しい神様たちが言っていた《時間停止能力》を少しだけ動かす。

多重結界で、マーキングしたあの男が召喚した全てのアバミネーションを圧殺する。

ほんの瞬きの間に。


「……あ?」

男の声が聞こえた。


そのまま両足に静かに力を込める。

地を踏む感覚が、足裏から脛、腰へとまっすぐ通っていく。

もう一度軽く、ほんのわずかな《時間停止能力》を発動する。

下半身を深く沈めた瞬間、世界の音が遠のいた気がした。


呼吸をひとつ。


相手の魔力が見える。

余計な動きを挟まず前傾姿勢のまま前へ――。


視界の中心に、男の驚いた瞳が映った。

レオンハルトから借りたその剣を、左肩に添え、下ろす勢いそのままに一気に振り抜いた。

空気が裂ける。

魔王の表情がわずかに強張ったのが見えた。


ガキィンッ!

金属がぶつかる鈍い衝撃。

受け止めた男の腕がわずかに沈む。


刀身に力を押しつけたまま足を横へ流し、刃を弾くように角度を変えて横へ払う。

火花が散る。間髪入れず踏み込み、剣を振り上げた。


男が剣を構え直すのが見えた。

迷わず鋭く振り下ろす。

相手の剣から伝わる重さで、魔王の握りが甘くなったのがわかった。

足裏で地を払うように踏み込み、重心を低く保ったまま、相手の懐へ潜り込む。

魔王の剣身がこちらに向かってくるのが見えた。

その甘い刃を、横へ弾く。


キィンッ!


魔王の剣先が大きく流れる。

すかさず肩をわずかにひねり、刃を最短距離で振り抜く。

相手の剣が戻るより早く、こちらの刃が魔王に迫る。

少しずつ魔王が後退していくのを視界の端で捉えながら。


「ッツ!!女ぁ!!おまえ何なんだ!!!」

交差する剣の合間から、男が吠えた。


「くっそ重いんだよッ!!!そんではえぇッ!!!!」

ギリギリと競り負けていく感覚に、魔王の眉間には深い皺が寄っている。


「可愛い顔してふざけんなよォ!!!!」

魔力を最大火力で放出しながら、魔王が力任せに刃を弾き返した。


「ほんっとお前ら!後から後から次々と沸いて出やがってぇッ!!」

金色の瞳が白く光り、魔力をまとった斬撃が、雷のような勢いで迫った。


ガァンッ!


片足に重心を落とし、男の剣を軽く受け流す。

続けて、腰をひねり空いた側の足で魔剣士の膝裏を払うように蹴り込んだ。


バキッッ!!


「おおぉ?!!!!」


――蹴られたにしてはあり得ない衝撃音が響く。

魔王がよろめいた瞬間、剣を一閃。


ガキィンッ!


受け止められたが、衝撃で男の体勢が完全に傾く。

その重みを利用し、剣を押しつけたまま身体を回転させる。

間髪入れず、今度は逆の足を魔剣士の脇腹へ蹴り込んだ。


ズドンッ !!


「ぐぇっっ」


振り抜いた足を軽やかに着地させ、屈みこんだままの魔王を静かに見つめた。


「ゴホっ!おま、おまえ。女のくせにッ…ゴホ!蹴るか!そこで!」


何かブツブツ言っているが、気にせず剣を高く上げる。

そのまま魔王の頭めがけて、容赦なく振り下ろした。


「いってェェッツ!!!」


結構力を込めたつもりが、まだ元気そうだ。

それならと、

ガンッ!ガンッ!ガンッ!

皆が傷ついた分、と続けて思いっきり叩いてみる。


「ま、まて、まておい!女!!」

ガンッ!ガンッ!ガンッ!

「身体が沈んでるッ!!!おい!!!」

ガンッ!ガンッ!ガンッ!

「ちょ、本当にまてッ!」

ガンッ!ガンッ!ガンッ!

鈍い音が地面に響く。

「……やめろ!これは洒落にならねぇ!!」


こんなに斬り付けているのに、何で喋れるんだ?


「お、女!!そうだお前、俺の女にならねえかッ?!」

あり得ない事を喋ってきた。


「俺と対等にやりあうヤツなんて、アルヴェル以来だぜッ!!」

魔王の目が……金色の目が異様に輝いている。

――気持ち悪い……。


「強いお前に、惚れた!!!」

「は?」

「俺の嫁になってくれ!!!」



その瞬間、魔王の顔が地面にめり込んだ。

憤怒の顔をしたシオルの右手で後頭部を掴まれて。


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