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婚約破棄した元勇者、辺境でスローライフ…のはずが元魔王に押しかけられて慌ただしい!  作者: cfmoka


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54話

「おいおい……」

「もう一体!オークジェネラルだと!?」

ドルガンとレオンハルトの声にゼノスが振り向いた。


「なんと……!」


ドルガンが素早く迎撃態勢に入るも、レオンハルトは今剣技を撃ったばかりだ。すぐにもう一発は放てない。


「ティモ達には申し訳ないが……もう少し踏ん張ってもらいましょう」

ゼノスが残りの一体の結界も解除すると、詠唱を開始する。


氷華、咲き狂え(クリオナ・ペタルス)!」


足元に展開された魔法陣から、無数の氷の刃が一斉に飛び出す。

風を切り裂き、凄まじい数の美しい氷の柱が、新たに現れたオーガジェネラルに降り注いだ。


「グオオオオ!!!!!」


その咆哮が地面を震わせ、空気を振るわせる。

たった今、一体のオーガを仕留めた冒険者たちの体に振動が突き刺さり、全員がその威圧に息を呑んだ。


「もう一体、オーガジェネラルを倒すぞ!!」

「「応!!!」」

腹の底から力を込めて叫ぶレオンハルトの声に、仲間たちは思わず震え、気迫を込めて応える。

「全力で行く!」

全員の身体が一瞬緊張で張り詰めたその時、上空から軽やかな足音が響いた。


「「ん?」」

思わず全員が空を見上げる。


そこには空中を走りながら、こちらに近づくナギが居た。


「「は?」」


「おーーーーい!みんなーーー!」


オーガジェネラルまで釣られて空を見上げている。

何度見ても、空を飛ぶのではなく、走っている。


「ナギ?」

いや、良く見ると、空間に正六面体を構築し、その間を飛ぶように走りながら迫っていた。


「ナギ!!!!それも特殊スキルですか!!!?」

ゼノス大興奮である。


「ゴブリンとオークは殆ど終わってるから、こっちに来たよー」

「あの量を、もうか!?」

ドルガンが空を見上げながら目を剥いた。


「あとは多重結界が勝手に押しつぶしてくれるから」

そう言うと上から下を覗き込む。

「そこのオーガとオーガジェネラルだけだよ!」

その言葉に、ティモは安心して息を吐いた。

「またもう一体出てくるとか無くて良かった……」


ナギは静かに真下のオーガジェネラルを捉えると、

「まず一体」

小さく呟いてその足場から跳躍した。

上空から一直線に巨体へ向かって飛び降りる。


オーガジェネラルは突然の動きに目を見開き、黄色い瞳で対象を捉え、咄嗟に巨大な左腕を頭上に翳した。


一閃。

勇者の剣が綺麗な放物線を描き、その巨体を天から垂直に切り裂く。

鋭い衝撃が地面に伝わり、砂や土埃が一斉に上空に舞い上がる。光の速さで両断されたオーガジェネラルが、激しい地響きをたてて倒れていった。

その一瞬の出来事を、冒険者達は何が起こったのか、はっきりと目で追うことが出来なかった。


ナギは静かに着地すると、残っていたオーガに向きを変え、ゆるやかに腰を低く落としていく。

十分な圧を両足にかけると、残像しか残らない程の俊足で近づき、袈裟懸けに一刀。空気を鋭く裂く音が一瞬響く。

オーガはその速さについて行けず、ただ自分が斬られた事だけに気が付くと静かに絶命していた。




「相変わらず人間離れした脚力と腕力だな……」

レオンハルトが思わず肩を落として嘆息する。

「まぁ……終わってよかったがな」

盾を地面から持ち上げながら陣地へ戻ろうとしているのはドルガン。

その一方で、ティモが泣きそうな顔をしながら剣をしまっていた。

「勇者さまって本当に凄すぎませんか?」

他の冒険者も、時間のかかったオーガを一瞬で倒されたことに若干涙目である。

「??どうしたの?」

ナギは剣をしまいながら全員の様子がおかしい事に気が付いた。


「ナギは気にしなくて大丈夫ですよ。それより、どうやって空中に上がったのですか?あれも特殊スキルですか?できれば再現してほしいのですが」

ゼノスは柔らかな笑みを浮かべながら、どうしても知りたいと、好奇心を全開にしてその方法を尋ねてきた。


「え?あれ?」そう言って上空を指さすナギ。

それを見て何度も頷くゼノス。

そのままナギが「まず立方体を何個も階段状に上に伸ばして……」と説明を始めたので、レオンハルトが「おいおい。とりあえず陣地へ帰るぞ。ゼノス、戻ってからにしてくれ」と注意するまで、ゼノスはナギに食いついていた。




◇◇◇




その頃、左陣では至急の報告が辺境伯へ届けられていた。


「逃げ出した……?」


それは幽閉していたミレーナを、城に忍び込んだ元子爵婦人たちが勝手に連れ出し、領内から逃げ出したという、ライヒベルクにとって歓迎できない報せだった。


「連れてきていた侍女を身代わりに仕立てており、発見が遅れました。おそらく閣下が出陣された直後に入れ替わり、連れ出したものと思われます。申し訳ございません」

第五部隊の兵士が、片膝をつき頭を下げたまま続ける。

「急ぎ部隊の者たちで探索いたしました。領外の東側の断崖にて打ち捨てられた馬車を発見、その側に子爵婦人と従僕の遺体を発見いたしました。遺体には切られた後があり、おそらく盗賊に襲われたものと…」


「そうか……ミレーナは?」

「ご令嬢の遺体は見つかっておりません。引き裂かれたドレスを現場から発見いたしました。連れ去られたと推測されます」


貴族の令嬢が盗賊に襲われて、そのまま無事でいるとは思えなかった。

ライヒベルクは一瞬だけ目を伏せた。


「分かった。おそらく城内に手引きした者がいるはずだ。見つけ出せ」

「はっ」

「ミレーナの探索も二名だけで良い。今はスタンピードに集中しなくてはならん」

「承知いたしました」


その傲慢な態度から学園で疎まれ、勇者に対する無礼から王家にも睨まれ……貴族籍をはく奪し、修道院へ行くことが何より平穏に過ごせるだろうと、姪に対して仏心を出したのが間違いだったのかもしれない。

ライヒベルクは嘆息すると、椅子から立ち上がり陣幕の外に出て行った。




◇◇◇




スタンピード発生から三日目――



「魔王陛下」

ゲオルグとおそらくその配下と思われる魔族がシオルの足元に跪く。

「ダンジョンコアですが、こちらがマッピングになります」

そう言ってダンジョン内の地図を差し出す。


シオルは黙って受け取ると、

「ではお前は不要だな」冷たく告げた。


その言葉にゲオルグとその周囲の魔族は息を呑む。

何とか役に立ちたいと、必死で「いえ、わたくしもお供させてください」「もしかすると変わっているかもしれませんので」等と売り込むも返ってくるのは沈黙だった。


((冷たすぎる……))

従者三人はその光景を見つめつつ、相変わらず魔物を淡々と狩る。


((奥様……ご主人様はもう限界かもしれません))


シオルはもう三日もナギに会っていなかった。

ナギと居るときはあんなに豊かだった表情も、今はすっかり消え失せていた。


「ウェブスター」

シオルが端的に自分の執事を呼ぶ。

「はい」

「ここの采配を任せる。状況によっては第三形態までは許可する」

「承知いたしました」

その向こうではロウランが久しぶりに進化の許可を貰えて、「ひゃっはーー」と喜んでいる。


「私はナギを迎えに」

「シーオールーーー!!!!」


その時上空から自分を呼ぶ声を聞いて、シオルは思わず首を勢いよく上に向けた。

何故ならそれは自分が待ち焦がれた唯一の声。

ナギが自分を呼ぶ声――


「ナギ!!!……?ん?」

「「奥様??」」

シオルと三人の従者がポカンと上空を見上げる。


そこには、オーガジェネラル戦のときと同じく、上空を凄まじい速さで駆けるナギの姿があった。


「ナギ?いつから天を走れるようになったんだ?凄いな!ナギは!!」

満面の笑みで両手を広げて、自分の”妻”(正確にはまだ妻ではない)を抱き留める体勢になるシオル。

そのシオルに向かって、ナギは勢いよく飛び込んだ。

シオルは受け止める瞬間に重力魔法を発動、ナギに負担がかからないように調整し、その身体を優しく抱きかかえた。


「シオル!久しぶり!」

「ナギ!ケガはないか?」

「ないよ。大丈夫!シオルは?みんなは大丈夫?」

ナギが周りを見渡そうとするので、その顔をシオルは両手で捕まえる。

「シオル?」

「ナギ、もっと顔をよく見せてくれ」

そのままかなりの至近距離で、瞬きもせずに顔を覗きこむシオル。

「え。」

「淋しかった。ずっと会えなくて辛かった」

「ずっとって……三日だよ?」

「何度この辺り全て、焼き払おうと思ったか」

「えぇ。」

ちょっとずつ、シオルの様子がおかしいと気が付くナギ。

「焼き払えばナギに会いにいけるだろう?」

「えぇぇ。」

シオルは両手をそっと離すと、腰にゆっくりと腕を回しナギを力強く抱きしめる。


「はーーーーナギだ」

そう言って首の所に顔を埋められてしまった。

「ちょっと!ちょっとシオル!私ずっとお風呂入ってないから!!」

慌ててシオルから離れようとするナギに、

「”洗浄(クリーン)”、”洗浄(クリーン)”、”洗浄(クリーン)”」

高速で、立て続けに二人一緒に洗浄魔法を幾重にもかけて、絶対にその腕を解くまいと力を込めるシオル。

「嘘でしょ?」

最早諦めて、なすがままの境地になったナギと、色々壊れてしまったかのように、ぎゅうぎゅうと抱きしめたまま感極まっているシオルを、従者三人は安堵の表情で、魔族達は唖然とした表情で見つめていた。


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