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婚約破棄した元勇者、辺境でスローライフ…のはずが元魔王に押しかけられて慌ただしい!  作者: cfmoka


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48話

森の細い小路を早足で進んだライエルたちは、ようやく村へ戻ってきた。

ウェブスターは周囲の気配をひととおり確かめると、警戒を保ったまま村長宅の両開きの扉を静かに叩いた。



「ただいま戻りました」

ライエルがやや緊張した面持ちで村長に告げる。


「良かった!無事だったか!」

無事な姿を確認した村長は、思わず椅子に座り込み、安堵の溜息を漏らした。


「ご心配をおかけしました。私たちに怪我はありません」

ライエルが眉を下げ申し訳なさそうに答え、リルも小さく手を振った。


後ろに控えていたウェブスターが、

「森での事案について報告します。魔族三体とライエルさんたちが接触していました」

わずかに視線を落としながら、淡々と村長に告げる。

「なんと!」


「魔族ですか!?」

一緒に聞いていたララベルも、思わず驚きの声を上げた。


「その魔族ですが……」

ライエルがリルを床に下ろしながら、思案しつつ

「重大な情報をもたらしました」


「情報?」

同席していたレオンハルトが、いぶかし気な表情を見せる。


「魔族領の東側に広がる山岳地帯にダンジョンだあるそうなのですが、そこの様子がおかしいと」

「!」

「20年前のスタンピードと同じ気配がすると」

「何ですって!」

ララベルが思わず立ち上がる。


「今ナギさんとシオルさんが、東側の森の狩猟小屋に魔族を連れていって、話を聞きだしています」

ライエルとカイルが長老の斜め向かいに座る。


「魔族の人たち、最初から話があるような感じだったよ?」

長老の差し出したお茶を飲みながら、カイルが口を開いた。

「ナギ姉ちゃんの攻撃も避けたりしなかったんだ」


「それは……」

魔族らしからぬ様子にレオンハルト達も気づく。


ララベルがライエルに向き合うと、

「私もその小屋に行き、話を聞きたいのですが……。駄目でしょうか?」

「ララベルさま?」

長老が驚いてララベルを止めるも、ララベルは決意したように両手を握る。

「魔族の方々の言葉を、直接確かめたいのです」


「我々がララベルさんに同行しよう」

思わぬレオンハルトからの言葉に、ララベルと村長は目を見開く。

「宜しいのですか?」

「ああ。我々もその魔族が気になる。もう一度その場所に案内してもらうことは出来るだろうか?」


ライエルの後ろに控えていたウェブスターは、その言葉にゆっくりと一礼した。




◇◇◇




雪の白がまだ地表に点々と残る森を、ウェブスターは再び辺りを警戒しつつ、ララベル、レオンハルト、ドルガン、ゼノスたちを先導し小屋へと歩を進めた。


小屋に着く前に、シオルには”念”で経緯を伝えている。


「ご主人様」

小屋の外からウェブスターが声をかけると、ゆっくりと扉が内側から開かれた。



魔族の流した血の匂いが狭い室内に広がる中、二人掛けのテーブルにララベルが座り、その向かいに1体の魔族が、残りの魔族はその背後に立つ。



「スタンピードの気配があると、その情報があると伺いました」

静かなララベルからの問いかけに、魔族はさっき私たちに話したのと同じ説明を繰り返した。


ララベルが魔族を見つめながら更に尋ねる。

「ダンジョンコアの気配は?」

「確認しようと、調べに行った者が戻って来なかった」

「二十年前の事をご存じの方は、今どれぐらいいらっしゃいますか?」

「三名いる」

「その方々が皆、危ないと?」

「そうだ」


ララベルはそっと息を吐いた。


「ララベルさん?」

私は心配して後ろから覗き込む。

「魔族の言う事だけど……」

「信じたほうが良いでしょう」

「!」

「実は二十年前もそうでした」

「え?」

「その時のスタンピードも、大怪我を負いながら人間側へ知らせてくれた魔族がいました」

「魔族が?」

「はい。残念ながらその魔族は、その時の怪我があまりにも酷く、そのままお亡くなりになりました。スタンピードの勢いをシュタインベルク領で何とか留め、流失を最大限に防げたのも、その一報があって準備が出来たからなのです。私が領外へ逃げ出す時間ができたのも……」

「では」

レオンハルトが魔族を見つめながら口を開く。

「スタンピードは起こる、という事か?」

「はい。間違いないでしょう」

厳しい表情のまま、ララベルは頷いた。



地図をじっと見つめながら、私は斜めに縦断してくる様子を指で描く。

「今回はこう、南下してくる予想みたいなんです」


一番北側の突端に魔王城があり、ゆるやかに逆‘く’の字を描くように大陸が続く。

東側の山岳地帯を経て南に伸びるラインが、魔王領の輪郭となる。

西側は切り立った崖で、巨岩がそびえ立つ。


「迎え撃つとしたら、最終ラインはこの辺りかと」

村の北側を中心として東と西側に向かって弧を描く。

旧シュタインベルク領、キャラッ レ アリエル村、ライヒベルク領(現辺境伯領)に至る三か所を拠点として、それよりも北東寄りの地を人間側の防衛ラインとする。


「右陣はこのライン。」

指をゆっくり動かしながら続ける。「北東側の森から南東へと弧を描く形で配置して」

指を左側に移す。

「左陣はこっち、西側の地の利を活かした立地に陣を」

そして中央を指でなぞる。

「中央は村を通るこのライン。ここが突破されると村が直撃されるから、左右の陣と連動して守る必要があります」


「三方向からスタンピードを迎え撃つという事でしょうか?」

「そう。そこでララベルさんにお願いがあるの」

「はい。何でしょう?」

「旧シュタインベルク領の……この魔族領の境界辺りの地点、ここを右陣として魔族の仮集落を置きたい」

「……魔族の拠点を今の場所から移す、という事ですね?」

「うん。今のままでは全滅してしまう」


私の提案にレオンハルト達も戸惑っている。


「魔族との共闘なんて、前例がないかもしれない。でも、力を合わせて乗り越えたいの」

「ナギはそれが出来ると思っているのか?」

ドルガンが真剣な眼差しで質問する。


「正直分からない……でも、このままではこの村に魔物がなだれ込む。それは避けたいの」

「魔族を右陣に置き攻撃させることで、なだれ込む魔物の勢いを側面から鈍らせる、という事ですか」

地図を見ながらゼノスが呟く。


「そう。そして、左陣に辺境伯軍の前線を敷く。中央になだれ込んでくる魔物を削ぐ形で」

「なるほど……それなら至急辺境伯に使者を出した方が良いですね」

「うん。それもララベルさんにお願いしたいの。できればライエルさんと一緒に行って欲しい」

「ライエル隊長と一緒ですか?」

「最初に魔族と接触したしね。私たちが行くより、元辺境伯軍のライエルさんからの方が良いかと思って」


ララベルは私を見上げると、

「承知いたしました。使者にすぐ立ちます」

「昨日着いたばかりなのに……すみません」

「いえ、問題ございません。それより一刻を争います。すぐに向かいますね」

立ち上がって戸口に向かう。


「ウェブスターさん、ごめんね。又村まで送り届けて欲しいの。後、もし必要ならそのままララベルさんを辺境伯領まで警護してほしい」

「承知いたしました」


ララベルとウェブスターが戸口から出るのを見送ると、

「ナギ?我々だけ残したのは意味があるのでしょう?」

ゼノスが私に尋ねる。


「うん。実は、魔族の集落がこのままだと脆い可能性があって」

「右陣が潰れたら……中央が崩れるな」

「それで、さっきまで相談してたんだけど」

「我々が助勢するぞ?」

レオンハルトが当然のように言うと、ドルガンとゼノスも頷いた。


「三人には私と一緒に中央を守って欲しい」

「お?勇者パーティー復活か?」

「だが、そうすると魔族の集落は?」

ドルガンの質問に、

「私がそちらを采配する」

シオルが戸口から静かに答えた。


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