28話
『ゆうしゃさま』
クルクルが私の手の平の上で元気よく跳ねている。
『きょうは なにするの~???』
そう、今日は遠隔実験日である。
シオルの部屋と私の部屋に別れて、クルクルに片方の声が聞こえない距離で物の出し入れができるのか。
ひとまず、実験をしてみることになった。
このアイテムボックスには初めから意外な制約があった。
なぜか勇者の剣だけは収納できないのだ。
入れようとしても入らない。
物理的に無理やり剣先を突っ込んだら、信じられない力で押し返してきた。
おかげで勇者の剣だけは手持ちにするしかなく……
一度なぜ収納できないのかクルクルに聞いた所、
『おいしくないの』
との事だった。謎である。
ともかく、他に制約があるかもしれないと、今回の実験になった。
「クルクル、シオルの魔力の鍵は感じる?」
私の部屋で手乗り毛玉に問いかける。
『う~~~~ん。わかる』
「じゃあ、次にその鍵の側に口を開けてほしいの」
『う~~~~ん???やってみる〜』
ドアのところに待機しているウェブスターに、シオルへの言伝を頼む。
「ウェブスターさん、シオルの部屋に行って様子を確認してもらっても良い?鍵の側に口を開けてもらうようクルクルに頼んだから」
「承知いたしました」
シオルの部屋では、黒いブレスレットのそばに、小指ほどの黒い渦の口が開いていた。
「これは……成功でしょうか?」
「小さいな」
「この口に入るサイズで何か入れてみますか?ダンジョンで拾った魔石がございますが」
「いれてみるか…」
シオルはそっと魔石を渦の中心にある口に近づける。
するとシュルッと吸い込まれていった。
「収めるというより、吸い込んだな」
シオルはもう一度魔石を近づける。
同じく、魔石はスッと吸い込まれていった。
「ウェブスター、この口に入らないような物を持ってきてくれ」
「少々お待ちください」
そう言って、今度はダイニングから村人にもらった、紫色の先が細い楕円形の野菜を持ってきた。
「こちらはいかがでしょうか?」
「試してみよう」
だが近づけても口は微動だにしない。
「だめか?」
そこでシオルはブレスレットの魔方陣に魔力をもう一度流す。
今度はさっきより多めに。
すると口の大きさが手のひらサイズになった。
「ほう。ご主人様の魔力量に比例してらっしゃるみたいですね……」
ウェブスターが感心したように呟く。
シオルはその口にその野菜を近づける。
すると問題なく吸い込まれていった。
「なるほど…ウェブスター、ナギの部屋に行こう」
『ゆうしゃさま。なにか、はいってきたよ~~』
クルクルがプルプルと震える。
「ん?……成功したのかな?」
その時ドアをノックしてシオルが入って来た。
「ナギ、先ほど何点か入れてみた」
「おお!成功したんだね!」
「物が大きいほど魔方陣に流す魔力量を増やさないといけないらしい」
「じゃあ金盥だと?」
「その分魔力を流す必要があるが。問題はない」
へえ~~と思わずクルクルを見つめる。
続いて出す実験をする。
シオルが魔方陣に魔力を流し、黒い渦を見つめる。
「……」
シュルッと音がして、見た目だけはナスのソレが、勢いよく転がり出てきた。
「出たね!」
『えっとね~さっき、いれたばっかりだから~~~!』
クルクルが胸(?)を張る。
「……どういうことだ?」
『クルクルね~、さいごにいれたやつしか、だせなかったの』
「ん?一番直近だけ出せるってこと?」
「なるほど、なら魔石はむりか?」
『ませき~~~~ませき~~~~~』
クルクルが横に微妙に揺れている。
一生懸命考えているようだった。
私はそっとクルクルの中から魔石を探す。
最近整理したばっかりだったから、見覚えのない魔石2つを簡単に見つけ出せた。
「私は相変わらず、問題なく取り出せるのね」
「つまり、所有者ならクルクルに関係なく自由に使える。でも鍵だけ持つ者は、クルクルの記憶次第……そういうことか」
「なるほどね~」
では次の問題は、どこまで大きめの物が入るかどうかだ。
クルクルから、空の金盥と客用ベッドを片手で取り出した。
シオルが魔方陣に魔力を流し、まず金盥が入るまで口の直径を広げる。
黒い渦をじっと見つめ、慎重に金盥を近づけた。
問題なく吸い込まれるのを確認する。
『ゆうしゃさま、なんかはいってきたよ~~』
クルクルがプルプルと震えながら報告する。
次はもっと大きな家具。
シオルは客用ベッドに近づくと、再度魔方陣に魔力を流す。
今度はかなり長めに慎重に。
黒い渦はゆっくり口を広げ、ちょうど人が一人すっぽり入りそうな大きさになった。
「クルクル入れるよ」
『う~~ん……がんばる~~!!』
クルクルはやる気満々に、またプルプルと震えた。
客用ベッドがカタカタと揺れながら、ゆっくり黒い渦の中に吸い込まれていく。
「ご主人様、魔力は問題ないのですか?」
ウェブスターがシオルに質問する。
「そうだな。鍵の機能を保つためには、魔方陣をずっと起動し続ける必要があるようだ」
「え!じゃあ、ずっと魔力流しっ放し?」
「そうだな。まあ問題ない」
やがてベッドは完全に姿を消した。
『クルクル、まだ、はいるよ~~』
私とシオルの間をピョンピョン跳ねながら、得意げに報告するクルクル。
続いてシオルが、再び私が取り出した金盥に水を入れ、もう一度魔方陣を展開した鍵を使用して収納する。
今度はそれを私が取り出して、水を捨てた金盥をもう一度クルクルに収めた。
「今ナギが入れた金盥を私に出せるか?」
シオルが問いかけると、クルクルは縦横にプルプルと揺れ出した。
『さいごに、いれたやつ~~~~』
そう言ってシオルの近くに空の金盥が出現した。
実験は成功だった。
ドアの近くでは、シオルとウェブスターが何やら相談している。
とりあえず、念願だった温泉のピストン作戦はできそうだ。
「家にいながら温泉を満喫できるなんて、楽しみだね!クルクル」
『ゆうしゃさま、うれしい~~??」
クルクルはふわふわ跳ねながら、部屋中を嬉しそうにくるくると飛び回っていた。




