殻を割る
アタシは彼女が好き。
艶やかな髪が好き。
刃のような瞳が好き。
ツンと尖った唇が好き。
あの娘の全部が好きで、愛している。
でもあの娘はアタシのことを見ていない。
ただ自分と遊ぶお人形さんだと思っている。
あの娘にとって、アタシは誰でも良いんだね。
アタシにとって、あの娘は一人だけなのに。
彼女に調理して貰うはずだったアタシの恋心は、彼女に保留されちゃった。
アタシはそれをきちんと食べて、飲み込むつもりだったのに。
アタシがあの娘のお人形である限り、アタシの恋心は何にもなれない。
アタシはそう思っていた、そしてそうなるはずだった。
けどアタシの恋は育ってしまった。
あの娘に優しく温められて、スクスク大きく成長した。
今産声を上げようと、殻にひびを入れている。
きっと彼女は知らないの。アタシがどんなに彼女を想っているか。
手を繋ぎ、肩を寄せて、頬を擦り合わせる。
そうして二人目を合わせて笑い合う。
頬を赤く染めながら。
あの娘は何てことないようにやってみせるけれど、アタシはその先が欲しかった。
きっとあの娘は知らないの。
だってあの娘はあの娘だから。
「ああ、そうそう。今日は誰もいないんだ」
コチラを揶揄うように見つめる瞳。
彼女は微塵も意識していない。
ただ安全な場所で火遊びをしている気分なの。
そうやってスリルを楽しんでいる。
だから、そう。
あたしはここで、勝負をかける。
意識させなきゃ勝ち目はない。
本当は眼中にない事はわかってる。
でも、だからこそ油断している今がチャンス。
アタシの全部をあの娘にあげる。
アタシのはじめて、恋も愛も唇も。
全部ぜーんぶあの娘にあげる。
たっぷりあまーいフルコース。
みーんな美味しく召し上がれ。
あーあ、本当は唇、奪って欲しかったな。