表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

サマァな魔法〜キラキラネームの逆襲〜

作者: 城壁ミラノ

 私の名前はザマァ


 最近、自分の名前にイラついている。


 妹の名前はズルゥ


 小さい頃から、この名前やだやだと騒いでいた。

 今では別名を名乗っているが、昔からの知り合いはズルゥと呼ぶのでイラついている。

 親のくれた名前を変えるのはよくないと思っていたが、自分自身が改名したくなってズルゥの気持ちがわかった。


 そこですぐさま魔法を作った。


 指定した部分の ゛を消去する魔法――!! 


 まずは自分にかけてみる。


 ザマァのザから ゛を消去!


 ステッキの星から魔法が出てきた。

 頭からふりかける。


 キラキラキラ


 これでいいはず……


 丁度いいところにズルゥがきた。

 最近は魔女のローブを脱いでドレスなんか着ている。しかも、ピンク。将来が不安になる。

 城の夜会に潜り込んだりしているようだし……


「サマァお姉ちゃま! いい加減私の名前なんとかして! 魔法でなんとか……あれ? 今、おかしかったような?」

「成功したよ。名前をなんとかする魔法がね」

「ほんと!?」

「もういちど、私の名前を呼んでごらん」

「サマァお姉ちゃま。あっ! サマー! サマァー!! サマァとしか呼べない!?」

「指定した部分の濁点を消す魔法をかけたんだ。これで私は永久にサマァだ」

「私にもかけて!」

「もちろん、消去魔法!」


 キラキラキラ


「これが魔法!? 名前呼んでみて!」

「スルゥ。スルゥ、スルゥとしか呼べないよ」

「やった! ありがとう、サマァお姉ちゃま!」

「私たちの問題は解決した。出かけてくるよ」

「どこに?」

「とりあえず、町に」


 町だけでなく国中で "ザマァ" という言葉が流行っている。


 みんな、あざ笑うように見下すようにザマァという。それが私をイラつかせる。


 全てのザマァから濁点を奪ってやる!! 


 私は魔女だ、覚悟せよ!


「あの女と共に沼に沈んでいくハロルド公爵、ざまぁだったわ」


 森を抜ける前にさっそく、消去対象発見。

 ザマァが森まで侵食してきていたとは。

 見れば、美しい令嬢が一人で歩きながら呟いている。

 木の陰からステッキで狙う。


 消去魔法!!


 キラキラキラ


「私を裏切るからよ。公爵さまぁ……公爵さまぁ……えっ?」


 令嬢は立ち止まり、うろたえはじめた。


「ハロルドさまぁ! おかしい! ハロルドさまぁ! どうして!?」


 ハロルドさまぁと繰り返す驚きの叫びは、次第にどこか悲壮なものに聞こえていった。


 さて、次は――


「ハロルド公爵は行方不明ですって?」

「婚約者がいながら他の令嬢と深い仲に……なにかあってもおかしくないですわ」

「今頃、婚約者に復讐されて森の底なし沼に沈んでいたりして? ザマァですわね」

「ほんとザマァですこと」


 お屋敷の貴婦人たちまで、お茶をしながら……


 消去魔法!!


 キラキラキラ


「サマァですわねぇ」

「サマァですわぁ」

「あら? サマァ、サマァ、サマー?」

「サマー?」

「サマー」

「サ、サマーですわねぇ」

「え、ええ。なんだか暑くなってきましたわねぇ」


 貴婦人たちは扇であおぎだした。

 季節外れの夏にバテるといい。


 次はどこに……待て。

 ザマァの言葉を口に出したのは、令嬢に貴婦人。

 共通点は公爵。

 ザマァの発生源は貴族か?

 城に行ってみるか。今日は夜会が開かれる。まぎれ込んで探ってみよう。



 夜。

 スルゥを見習い、ピンクとはいかないが紫のドレスを着て、うまく夜会に潜り込めた。


 今のところ会場から、ザマァは聞こえてこない。

 今夜はフラン王弟とベアトリス公爵令嬢の婚約発表があるという。めでたい。

 

「ベアトリス! 君との婚約を破棄する!!」


 ???


 どうしてだ? フラン。


「婚約破棄ですって!?」

「婚約破棄だ!」


 会場中がざわついている。


 ベアトリス嬢と向かい合うフラン王弟の隣には可愛い令嬢が寄り添っている。


「私は、このフローラと永遠の愛を誓った! よってベアトリス。君との婚約は破棄する!!」


 かわいそうなベアトリス。乗り換えられたんだ。

 復讐なら力を貸すよ。


 ベアトリスはなんと答えるつもりだろう?


「どうぞ、ご勝手に」


 え?


「え?」


 フランも驚いてる。


「どうぞ、お幸せに。私は、あなたのお兄様であるフレデリク様と婚約しますので」

「兄上と!?」

「そういうことだ。フラン」


 フレデリク王太子がベアトリス嬢の肩を抱いた。


 おめでとう?


「そ、そんな」

「どういうこと!?」


 フランは泣きそうになりフローラの顔は醜くゆがんだ。


 会場中からヒソヒソ話が聞こえてくる。


「ベアトリス様かわいそうと思ったら、フラン殿下より何もかも上のフレデリク殿下と婚約なさるなんて凄いわね」

「フラン殿下は捨てたと思っていたら捨てられたようなものね。ザマァだわ」

「フローラ嬢のくやしそうな顔。ザマァ」

「ザマァ」

「ザマァ」


 始まった――!


 会場中のザマァを消去する!!


 キラキラキラ〜〜〜


「サマァ」

「サマァ」

「サマァ」


 サマァサマァと、そよ風のようになった。


 フッ、気持ちもスッとして涼しくなってくる。


「誰? 魔法を使って、ザマァをサマァに変えたのは?」


 何!?

 私の消去魔法が効いてない者がいる?



 声の主は、玉座の女王――!!


「出てきなさい。私の楽しみを邪魔する者」


 女王は立ち上がり、ゆっくりと歩いてくる。


 この女王が、ザマァを発生させたのか!?

 対峙して決着をつけなければ!!


「私だ!」


 人が引いていき、私は女王と赤絨毯の上で対峙した。


 美しいが恐ろしい形相の女王。底しれぬ魔力を持っているのがわかる!


 消去魔法!!


 キラキラ


 ザザザマァ


 かき消された!

 女王のステッキから放たれた魔法!

 私にも襲いかかっくる、こらえきれない、


「うっ……」


 床に叩き伏せられてしまった。


「ザマァだな! 母上に勝てるわけないだろう?」


 フラン!


「ほんと、ザマァだわ! 下級魔女の分際で!!」


 フローラ!


 二人とも――


 ヒキガエルになれ!!


 カエル化魔法!!


「うわっ」

「きゃあ!」


 醜いヒキガエル二匹の誕生だ!

 さぁ、ザマァと鳴いてみろ!!


「ゲコゲコ」

「ゲコ!」

「ふん、鳴けないか!? ザマァ!!」


 はっ!? しまった!?


 私が……私まで、ザマァに侵食された……だと……?


 女王が笑っている。


「バカね、お姉ちゃま」

「スルゥ!」


 いつの間に後ろに。

 女王と私を挟み撃ちにするように。まさか。


「女王陛下に勝てっこないじゃない。邪魔しちゃダメよ」

「スルゥ! 女王の手下になったのか!?」


 スルゥは暗い表情で黙ってしまった。

 その視線はヒキガエルになった王子に向いた?


「お前も、私の手下になりなさい」


 女王!


 お断りだ!!


 もう一度、消去魔法!!


 キラキラキラ


 ザザザザザマァ


 また、負ける――いや


 二つの魔法は弾け飛んだ。


 互角。しかし、私は力尽きそうだ。


 もう、起き上がれそうにない。意識が遠のいていく。


「お姉ちゃま! お姉ちゃま!?」


 すまない、スルゥ


「お姉ざま! ザマァお姉ざま! お姉ざまあぁぁあああ!!」


 悲鳴なのか嘲笑なのかわからない絶叫を聞きながら私は意識を失った。



「う、ん……?」

「お姉ざま!」


 ここは、家のベッド?

 嬉しそうに私の顔をのぞく、スルゥ。


「大丈夫!?」

「ああ、スルゥ、あの後どうなった!?」

「大変だったんだから! 女王陛下に頼みこんで連れて帰ってきたの。連れて帰るための交換条件は、女王陛下の邪魔をしない、よ。わかった?」

「……わかった」


 くやしいが、命拾いしただけで有り難いんだ。


「ベアトリス公爵令嬢とフレデリク王太子も一緒に頼んでくれたの。いい人たちね。あ、フランとフローラは戻しておいたから」

「そうか、世話をかけた」


 またスルゥの顔が暗くなった。


「フランと何かあったのか?」

「えっ……うん、実はね、フランと結婚を条件に女王陛下の手下になったの」

「そうだったのか」

「だけど、フランはベアトリスとフローラとも。とんでもない浮気王子だったわ! もういいの!! カエルになったの見たら気持ちも冷めちゃったし!」

「そうか。もう、女王陛下の手下はやめるか?」

「やめるわよ! やる意味ないもん!」

「安心したよ」


 私の笑顔を見たスルゥも力なく笑った。


「あのね、女王陛下の手下になったのは、お姉ちゃまに婚約者ができてくやしかったからなの。カッコよくて強い魔法使いの婚約者が羨ましくて。お姉ちゃまを見返したくて。それでフラン殿下と結婚したいって女王陛下に頼みに行ったの……」

「そうだったのか。そういえば、私には婚約者がいたな。助けに来てくれないから忘れていたよ。君を信じてるとか言って大事な時にいない婚約者などいらない。婚約破棄だ。次に会ったらカエル化してやるよ」

「そうしなよ!!」


 私たちは笑いあった。

 久しぶりだ。


「きゃははっ……お姉ちゃま、お姉ざまぁ!」


 スルゥは急に泣き出し抱きついてきた。


「どうした?」

「無事でよかったよお! お姉ざまが死んだら困るもん! 女王陛下より王子より、お姉ざまが大事なの!!」

「スルゥ……」

「私のザマァお姉ざまぁ! ザマァお姉ざまあぁぁ!!」


 涙声だからじゃない。

 ザマァって言ってる。


「嬉しいが、ザマァ呼びはなぜなんだ? ザマァに追い打ちかけるように、お姉ザマァって……」

「これは、女王陛下に魔法をかけられているの。サがザになってしまう魔法。お姉ざまに一度解いてもらえたけど、またかけられたの。ザマァからは逃げられないよ!」


 恐ろしい魔法だ。


「そうか。それで最近、お姉ちゃまと呼んでいたのか」

「そうよ。女王陛下に近づいたことバレたくなかったし、魔法かけられたなんて知られて……心配かけたくなかったの」


 お姉ちゃまって可愛く呼んで、甘えているのかと思ってたら。

 心配かけまいとしたり、助けてくれたり、いつの間にか立派な大人になっている。


「ありがとう、私の大事な妹。その魔法、私がまた解いてやる!」


 消去魔法!!


 キラキラキラ


「私の名前を呼んでみてくれ」

「サマァお姉さま!」

「よし」


 この魔法だけは負けない。


 しかし、これからは森にこもって暮らすとするか。


 城には二度と近づかないでおこう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ