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天使と死神  作者: 茶野森かのこ


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天使と死神48



背中でふらりと落ちそうになるアリアを、フウガは慌てて体を入れ替え抱き止めた。アリアの大きかった翼は、先程よりも羽根が落ち、小さくなってしまっている。


「アリア、もう無理です。このままではあなたがもたない」


フウガは一旦、地上に降りようと辺りを見渡した。暗闇の中、頭に浮かぶ地図から悪魔の手が地上に伸びていない場所を探し出すと、近くの公園が浮かび上がった。

悪魔の手が伸びていないという事は、人が居ないという事だ。人が居れば、アリアはその人が安全かどうか、被害に遭っていれば力を与えにいくだろう、そうなればろくに話も出来ない。


アリアの力は未知数だ、だからフウガは余計に不安だった。

もし、アリアが力を使い尽くしたらどうなるのか、アリアの与える力は伝説上のものだと天使も死神も思っていた、力を使い果たした先の事なんて想像もつかない。

フウガはアリアを背負い直し、公園に向かった。公園に向かいながら、フウガはアリアを気遣うが、アリアは何でもないように笑うだけだ。


「だから言ってるだろ、俺にはこれしか出来ないんだから。俺以外、神様の代わりは出来ないだろ?」


二人の背後では、また誰かの命が危機に晒されている。側で悪魔の手が伸びるのを見て、「行かなくちゃ」と、アリアはフウガを促したが、フウガは難しい顔を浮かべ、そちらに向かおうとしなかった。


「おい、フウガ、」

「普段から仕事してくれれば、こんな事にはならないんですよ」


きゅっと眉に皺を寄せ、アリアの顔を見ようとしないフウガに、アリアはきょとんとした。


怒っているのだろうか、それにしても、言い訳がらしくない。アリアがちゃんと仕事をしていても悪魔は来ただろうし、神様も失踪しただろう。辻褄の合わない言い分は、フウガ自身も自分が何を言っているのか、何を言いたいのか分かっていないからかもしれない。フウガは眉を顰めながら、そわそわと落ち着かない様子で瞳を動かしている。それは、目的に背く自分自身の行動に、戸惑っているようにも見えた。


仕事をこなすのが第一優先だった死神が、そうまでしてアリアを案じている。フウガの優しさが何だか擽ったくて、アリアは思わず頬を緩めていた。


こんな風に誰かに気遣われるなんて、アリアの記憶にはほとんどない。

だからつい、ほんの少しその気持ちに寄り添いたくて、だらけたようにフウガに体重を預ければ、フウガも僅か肩から力が抜けたようだった。


けれど、アリアにも譲れない思いがある。


「でもさ、俺、これ以外は何も出来ないから。俺、記憶がないんだよ、気づいたら、世界管理局にいて、でも、何か仕事しようとすると、どうしてか何も出来なくて。だから、唯一これが、俺の、誰かの為に出来ることなんだよ」


記憶を失い、何かに制御されているような、自分を無価値だと思っていた日々が、自分でも知らなかった力のお陰で一変した。自分も誰かに必要とされている、存在を証明出来たような気さえしている。この力を使う為に自分があるなら、その使命を全うしないでどうする。


「だから、行かせてくれ」


そう切に願うアリアの話を、フウガは驚きを持って聞いていた。

自身に力がある事を知らなかっただけでなく、まさか記憶がないなんて。ただ怠けているだけだと思っていたアリアに、そんな事情があったとは思いもしなかった。いつだって呑気にしていたのにも、そうしなくてはいられない理由があったのだろうか。フウガは、そうアリアの気持ちを慮るが、だがそれでも、フウガにだって思いはある。


アリアの力は必要だ、だが、がむしゃらにその身を犠牲にするのは、違うのではないか。アリアがいるから助けられる命があるのは確かだが、それでも、アリアがいなくてはその命だって救えなくなる。

何より、アリアが危険な状態であると分かって、アリアに無理に力を使わせたくない、そんな風に思ってしまっている。


フウガは、アリアを抱える手に、きゅっと力を込めた。


「…そうだとしても、力だけが、あなたの全てではないでしょう。例え、あなたに何も力がなかったとしても、あなたは必要だからここにいるのです。勿論、私にとっても」

「え、…え?」


それには、アリアは驚いたように目を見開き、それから、困惑を覚えながらも、背中から身を乗り出してその顔を覗き込んだ。フウガはそんなアリアの顔を見ても、照れるでも不機嫌になるでもなく、困ったように微笑んだ。


「…あなたの世話は嫌いじゃないですから。だから、無茶は見ていられないんですよ」

「…はは、変わってるな、お前は」


そう面と向かって言われたら、何だか胸の奥がきゅっと苦しくて。「優秀な死神様は違うな」と、アリアは誤魔化すように笑った。


渇いていた喉が、胸の奥が、不思議と温まって満ちるような。少しだけ、力が湧いてくるような気がして、どうしてか泣きそうになる。


「…俺なら、大丈夫だ。神様が戻ってくるまでで良いんだから、ちゃんと力の配分は考える。俺は、仕事をほっぽりだすタマじゃないからな!」

「どの口が言ってるんですか…」


現状が何変わった訳でも、きっと互いに不安が消えた訳でもないが、軽口に乗せて感じるのは、同じ方向を向いてるという事。アリアの傷だらけの姿が変わった訳ではないが、フウガを少しだけ安心させる事が出来たみたいだ。


「だから、」



「おっと。これは、天使の力を美味しくいただくチャンスかな」



アリアがフウガを促そうとした時だ、アリア達の更に上、黒に覆われた空の中から、愉悦を含んだ声が聞こえてきた。

アリア達が驚いて仰ぎ見れば、そこに、悪魔がいた。




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