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天使と死神  作者: 茶野森かのこ


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天使と死神38



だが、そんなやりとりがあったとは知る筈もない空の死神は、神様そっちのけで話し込んでいる二人に対し、何を呑気に立ち話をしているのだと、頭を抱えるばかりだ。


「どうなってんの…、あ、あの、神様、」

「八重、私だ!行くな!」


切に訴える神様の姿に、言葉を遮られた死神は、ぽかんとした。それから、先程連れてきた八重という女性を振り返る。神様は彼女と会った事があるような口振りだ、聞き間違いだろうかと、死神は更に困惑し固まった。神様と人間は、普通、出会う筈がないからだ。

相変わらず、静かに騒然とした空気に満ちている車内だが、その中で八重だけがそっと表情を崩し、柔らかに微笑んでいた。それはとても清らかで、美しい微笑みだった。


「…勿論、忘れる筈ありませんよ、(あやかし)様」


八重は懐かしそうに目を細め、そしてその瞳が泣き出しそうに潤むのを見て、必死な表情を浮かべていた神様も、ほっとした様に表情を和らげた。「え、本当に知り合いなの…?」と、死神は状況が飲み込めず、おろおろとするばかりだ。


「窓を開けて頂けますか?」

「え?あ、は、はい、ど、どうぞ…」


柔らかな八重の申し出に、死神は戸惑いながらも車の窓を開けた。一度、死神の車に乗ってしまえば、死神の許可なく車外に出る事は出来ない。窓を開けて、顔や手を出す事は出来ても、その身を乗り出して下界へ戻る事は出来ないよう、魂は死神の車と見えない縛りで結ばれていた。


神様もそれは知っていたが、それでも窓から手を差し入れ、八重の手を握った。八重の手は、あの頃よりも痩せ細り、病気をしたせいだろうか、実年齢よりも歳を重ねているように見えた。それでも、その温かさは変わらない、その美しさは変わらない。神様が恋い焦がれた、八重の手だ。

ぎゅっと、胸が締め付けられる。神様は唇を引き結び、真っ直ぐに顔を上げた。


「八重、帰ろう!」


「は!?」と、ぎょっとした声を上げたのは、またもや死神だ。神様が一体何を言っているんだと、理由も経緯も知らない死神は、混乱に拍車をかけている。

八重はきょとんとしていたが、やがて表情を崩すと、神様の手を握り直し、優しくその手を撫でた。愛おしく、慈しむようなその仕草に、神様の頬がじわりと赤らんでいく。


「私は、死神様の手を取りましたから、戻る事は出来ません」

「…そ、そんなの、私が何とかする!大丈夫、お前を死なせない!」


「いや、嘘でしょ!神様、さすがにそれは無理ですよ!」と、死神が慌てて間に入ろうとするが、神様の耳にはまるで届いていないようだった。





死神が助けを求めるように、地上へと視線を投げた頃。地上では、フウガが狸もどきから聞いた神様と八重との関係を、大分かいつまんでだが、アリアに話していた所だった。


神使達にも居場所を悟られないように身を隠していた神様だが、狸もどきだけは側に居るのを許していた。今の神様は、笑わなくなったし、話をしてもろくに返事もしてくれない、以前の神様とは随分変わってしまった。それでも狸もどきが神様の側を離れなかったのは、いつか神様が昔のように戻ってくれる事を信じていたからだ。

それに、今ここで神様の側を離れれば、神様は一柱になってしまう、そうなればもう会えないような気がして怖かった。

だから、八つ当たりのような言葉を吐かれても、荒げるその力に傷つけられそうになっても、狸もどきは神様の側を離れなかった。


朝、駅に居たのは、神様にアリアの動向を探るようにと指示を受けたからだ。あの時、狸もどきは迷っていたという。神様が欲しがる力を持つアリアなら、神様の心を変えてくれるのではないか、昔の神様を取り戻してくれるのではないかと。だが、勝手にアリア達に接触したと分かれば、神様は怒るかもしれないと思い直し、あの時はやや遅れて逃げ出したという。


それでも再びフウガの前に現れたのは、神様を救って欲しいと願ったからだ。

狸もどきが何を言っても、神様はもう話を聞いてくれない。それに、神社内にアリアが一人で居ることが分かると、神様は妖に化けて消えてしまった。神社内の事は離れていても分かるというし、瞬時に移動する事も可能だ。


神様は、アリアに会いに行った、その力を奪いに行ったのなら、アリアは消えてしまうかもしれない。もしそのような事になれば、誰が神様を救ってくれるのか、もしかしたら神様は天界からも追放されてしまうかもしれない。狸もどきはそう思い、アリアと共に居たフウガを探して駆け回り、助けを求めたという。



狸もどきの思いを含め、フウガから神様と八重の話を聞いていたアリアは、ふと首を傾げた。


「でも、神様は、何で八重の話を聞かなかったんだ?桜が咲かなかったのか?」


枯れた桜が咲いたという話も、フウガから聞いていた。それなら、桜が枯れる事はなかったのではと。神様は八重の思いを聞けた筈だ。


「何も起きず桜が咲けば、八重さんの思いも聞けたのかもしれませんが、あの二人は悪魔に目をつけられていたそうです」

「そんなの、しょっちゅうだろ」


アリアは、何を今更とばかりに眉を寄せた。今もこの町は悪魔に狙われているのだからと、アリアは言いたいようだが、そんなアリアの主張に、フウガは溜め息を吐くと共に、緩く首を振った。


「まともに神様がいる町に、悪魔は簡単には手を出せませんよ。これは後で分かった話のようですが、夏祭りで神様が本来の姿を現したのを、悪魔は見ていたようです。そして、八重さんが神様の弱点だと思ったんでしょう」


フウガが空へ顔を向けたので、アリアもつられるように顔を上げた。

それからフウガは、狸もどきから聞いた話の続きを、アリアに聞かせた。





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