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天使と死神  作者: 茶野森かのこ


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天使と死神37


***



八重(やえ)…!」


話は現代に戻り、神様は子供の姿のまま、死神の車に乗った八重を追いかけ、懸命に空を駆けていた。

もう、敢えて化けているのではない、同じ子供の姿でも、今の子供の姿は、神様の力の表れだ。本来の姿なのに、子供の姿でしか会う事が出来ない、空がこんなにも遠い、まだこんなにも八重が遠い。


あの頃から、町も人も随分変わってしまったが、側に居られなくても、例え八重の瞳にこの姿が映る事がなくなっても、八重を大事に思う気持ちに変わりはなかった。八重に家族が出来たって、ただこの空の下、どこかで幸せに暮らしてくれたら良いと思っていた。

それが、こんなに早く逝ってしまうなんて、本当は、いつかまた会えるんじゃないか、いつかまたその瞳にこの姿を映してくれるんじゃないか、そう思っていたのに。



「八重!」


追いついた車の窓に手を掛けて呼び掛ければ、窓際にいた八重は、驚いて顔を上げた。魂の姿になれば、神様や妖が見えない人間にも、その姿を見る事が出来る。なので、八重に限らず、半透明の魂の姿となった車の同乗者達も、驚き顔で窓の外に目を向けていた。


だが、ここで一番驚いていたのは、車を運転していた死神のようだ。長い髪をお下げに結った女性で、アリアが神様と対峙していた時に見かけた死神だ。

「え、神様!?」と、彼女は慌ててブレーキを踏み、車は宙で停止した。死神は焦った様子のまま、神様を前にして身を低くしつつも、混乱のまま車の窓から顔を出し、地上の様子を覗き見た。


彼女も、自分の仕事を進めながら、アリア達の騒ぎには気づいていた。神様とアリア達が何故か対峙している状況に、とんでもない事が起きているのは分かってはいたが、今夜も既に悪魔の手が現れたと報告は受けている、今は仕事を一つでも多くこなす事が、彼女の優先すべき事だった。


とは言え、彼女も気にしていない訳ではない、仕事をこなしながらも、あれが失踪した神様だろうかと、アリアは大丈夫なのだろうかと心配はしていたが、途中でフウガが合流しているのに気づき、ほっとしていた。フウガがいれば大体の事はどうにかなるだろう、そもそも自分は関わることもない、死神の彼女はそんな風に思っていたのだが、気づけば目の前に神様だ。混乱の極みの中、彼女が頼れるのはフウガだけ、だがフウガは、神様を追いかけにくることもなく、アリアと二人で何やら話し込んでおり、こちらを見上げてもいなかった。


「え、神様こっちに来ちゃってるのに、ほったらかし!?」


と、状況が飲みこめない死神は、おさげの髪ごと頭を抱え、完全にパニックに陥っていた。




そのフウガはといえば、神様が空に駆け出した時、フウガは神様を追いかけようとしていた。だが、アリアがその腕を掴んで止めていたのだ。「何をするんです!」と、焦って声を上げたフウガに、アリアは「きっと大丈夫だ」と、やけに冷静な声で言った。


何をもっての“大丈夫”なのか、フウガにはまるで分からない、根拠も確証もない話だ。もし、神様が八重を引き止めたらどうする、神様の力が削がれているといっても相手は神様だ、その体の根底に何を持っているのか分からないし、何より魂を連れ出したとなれば、天界の神達もさすがに彼を庇いきれないだろう。そうなれば、鞍木地(くらきじ)町からは神様が消え、その先は、神様も神使もこの町も、どうなるか分からない。


反論しようと口を開いたフウガだが、アリアの姿を改めて目にすれば、それも出来なくなってしまった。ふわふわの薄紫の髪も、白いジャージも、大きな翼も疲れたように落ちている肩もその頬も、傷を負ってぼろぼろで。それでもアリアは、いつもは眠たそうな瞳を真っ直ぐと空に向けている。神様を、八重を信じて、ただ真っ直ぐと。

その思いが伝わってしまったから、フウガは迷ってしまった。何事も自分の手で解決してきたフウガには、誰かを信じて任せる事は、今までほとんどしてこなかった。自分が一番信用出来たし、仕事も一人でした方が速い。そんな中、与えられた今回の任務は、フウガの力だけでは遂行出来ないものだった。元々持っている能力が違う事もあるが、こんな風に誰かと組んで仕事をすることはなかったし、共に働く誰かの事を、ここまで考える事もしなかった。


誰かを信用して、信頼して。フウガがしようとしてこなかった事を、アリアは簡単にしてしまう。神様とはいえ心乱した状態で、八重に至っては会ってもいない。

それなのにどうして信じる事が出来るのか、そんなアリアがどうして頼もしく、眩しく見えてしまうのか。

フウガは唇を引き結び、空を行く神様を見上げた。まだ不安や迷いはあるけれど、フウガも信じてみたいと、思ってしまったからだ。



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