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天使と死神  作者: 茶野森かのこ


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18/72

天使と死神18


***



とぷりと沈んだ意識の中、アリアはぼんやりと空を見つめていた。辺りは暗く、自分が立っているのか横になっているのか、どちらが天で地なのかも分からないが、ここが深い意識の底だなんて思わないアリアは、それを疑問とも思わず、ただぼんやりとするばかりだ。


だが、そんな状況でも、痛みは体に留まり続け、アリアをこの暗闇から引きずり出そうとしているかのようで。手の甲に浮かび上がった火傷のような傷痕がジクジクと疼いて、この体の持ち主はお前ではなく自分だと主張しているみたいだった。


その痛みに、ただ空を見つめるだけだったアリアは、小さく息を吸った。暗いだけだった視界が徐々に揺らいで、胸が苦しくなる。この体は本当に自分のものなのか、分からなくなる。


こんな風に不安に襲われるのは、アリアには失われた記憶があるからだ。




ある時、気がついたら世界管理局の本部の中、ただただ広い広間で、アリアは神様と対面していた。


真っ白な大理石の床がどこまでも広がり、天を仰げば神々の姿が描かれた天井画に圧倒され、どこからか、さらさらと水の流れる音がする。部屋の中だというのに、そこには荘厳な滝があり、更には広大な赤土の大地さえ見え、その先には青く透き通った空があった。目の前には、青く輝く蝶が戯れながらも優雅に飛び、傍らでは、紅茶を淹れる天使の姿。ここは室内なのか屋外なのか、アリアは自分がどこにいるのか、この時は全く見当がつかなかった。



同じ世界管理局の建物内であっても、天使達が働く空間と神様が暮らす上層部とでは、完全に区切られていた。


天使達が働く下層部は、西洋のお城の中のような佇まいで、気品と煌びやかさに満ちた空間が広がっている。広い廊下に高い天井、廊下に敷かれた赤い絨毯はふかふかで、壁には美しい絵画や上品なライトが灯る。白い壁に金の枠が嵌め込まれた扉、オフィス内もさぞ下界の雑多な支部とは違うのだろうと思いきや、その荒れ具合は大して変わりなかった。ピカピカの床に、デスク等の調度品は確かに優雅で品のある物に見えるが、その上には書類やファイル、開きっぱなしの液晶画面、食べかけのお弁当やパンの袋、すっかりのびてしまったカップラーメン、誰かの脱ぎ捨てたシャツ等で渋滞を起こしており、とても残念な状態の部屋ばかりだ。これも、万年天使不足の代償だろうか。


そんな豪華絢爛さと生活力に満ちた天使の職場だが、上層部は別世界、異空間だった。


天井があったと思えば消えていたり、壁があったと思ったら広大な大地の果てを見たりする。内装も神様の気分で自在に変化し、神様達には上も下もなく、そこに見える全てが幻覚ではなくちゃんと存在しているので、もし、この部屋に現れた空を飛んでいる内に天井が現れてしまったら、空を飛んでいた者はどこにいくのだろうかと、アリアは現実を忘れて妄想に逃避したりもした。



神様との対面は、薄い幕を隔ててのものだったので、顔や姿は一切見えなかった。それなのに、その存在の大きさに圧倒され、威圧感にも似た神々しいオーラに顔を上げられなかったのを覚えている。何故、自分がこんな所にと、アリアは冷や汗が止まらなかった。


下界で暮らす神様も、天界で暮らす神様も、立場は皆同じだが、天使にとって印象は少し異なる。下界で暮らす神様は、人間を見守り、神使を通して、時には直接顔を合わせて意見交換をしたりと、天使にも身近に感じられる事が多い。だが、天界で暮らす神様には、限られた天使しか近づけず、神様に話を通す時も、側仕えの天使が間に入る事になっている。下界の神様と違い、世界を管理するという役割のせいもあるからなのか、天界の神様は近寄りがたく、逆らう事など以ての外。そんな神様ばかりだった。


だからアリアは、きっと自分は何かしでかして消滅させられるのだと思い、恐怖で縮こまるばかりだったのだが、そこで思いもよらず告げられたのは、「ようこそ、今日からあなたは世界管理局の局員です」といったものだった。アリアは予想外の言葉にきょとんとした。消滅どころか働く場所を与えられた、しかし上手く言葉を飲み込めない。気がついた時から困惑していたせいもあるのだろうか、神様のものと思われるその声は、遠いようで近く、はっきりと聞き取れるのに霞に紛れているようでもあり、気を抜くと目眩を起こしてしまいそうであった。


そうしてアリアが頭を下げたまま固まっていれば、側仕えの天使から返事を促され、アリアはようやく「はい」と返事をすることが出来た。


「…あの、」


そして思いきって顔を上げた時、アリアは瞬きする間に、本部の下層部に移動していた。


「…え?」

「お前が新入りだな!ほら、こっちに来い!仕事はどこの部署も山ほどあるんだ」


と、これまた突然現れた厳つい天使によって首根っこを捕まれ、アリアは即座に新人研修に入り、結局何も分からないまま、世界管理局で働き始める事となった。




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