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天使と死神  作者: 茶野森かのこ


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天使と死神13



三丁目の住宅街を抜けた先に、鞍木地(くらきじ)中央病院という大きな総合病院がある。駅からは少し距離がある為、直通のバスも通っているが、歩いて行けない距離ではない。

下界で働く者達は、人間の姿になった時に困らないようにと、下界で使えるお金が給料とは別に支給されているが、今は神様探しの途中なので、なるべく交通機関は使わずに移動しようとフウガは考えていた。どこで有益な情報に出くわすか分からないからだ。

それに対し、アリアはぶつぶつと文句を言いながらも、足を止めることなくフウガの後を着いてくる。意見しても無駄だと思っているのか、勝手に翼を出して飛んでしまう事も、タクシーが通りかかっても手を上げる事もない。ただ、文句が止まると、どこかぼんやりと空を見つめていたりするので、それがフウガには些か気がかりではあった。昨夜も辛そうであったし、体調がまだ悪いのかと思い声を掛けようと振り返れば、大あくびが返ってきたりする。それが示し合わせたタイミングのようにも感じられて、フウガは出かかった言葉を飲み込み、前を向いてそのまま歩を進めた。


やはり、この天使は何を考えているのか、いまいち分からない。


フウガの心は結局そこに行き着いて、もやもやを胸の内にまた広げては閉じるだけだった。




そうして、新たな情報を得ることもなく住宅街を歩いていると、病院の建物が見えてきた。


「あれか?」

「そのようですね」


フウガはアリアの言葉に頷いた。車道を挟んだ手前の通りで足を止め、その大きな建物を見上げた。

鞍木地中央病院は、六階建ての建物が二棟連なっており、その隣にある広々とした駐車場は、車がほぼ埋まっているような状態だ。町の外からの来院も多いのだろう、病院の入り口を見れば、通院患者や見舞いに来た人々が、病院を入っては出てを繰り返し、自動ドアも開いては閉じてと忙しそうだ。

空を見上げれば、病院の上空に死神の車が何台か向かってくるのが見える、きっと魂の迎えに来たのだろう。


「迎えがきたのか」

「そのようですね」

「お前はいつも淡々としてて凄いな」

「え?」


フウガはきょとんとして、アリアに顔を向けた。しかし、アリアの表情からは、その感情が上手く読み取れない。相変わらず気だるそうではあるが、その中には、それだけではないものが混じっているような気がする。


「仕事ですから」


それが何か掴めないまま、フウガは当然のように答えれば、「そうだよな」と、アリアは何だか寂しそうに笑った。


「アリア?」

「俺、そのその辺に妖がいないか見てくる。手分けした方が早いだろ」

「え、」

「じゃ、院内は任せた」


アリアはやはり気だるげなままフウガの肩を叩くと、フウガの返事も聞かずに歩き出してしまった。歩くのも億劫そうな足取りだ、追いかければすぐに追いつく事は出来たが、フウガはアリアを追いかける事が出来なかった。丸い背中が、着いてくるなと言っているようで、珍しくフウガを躊躇わせる。その躊躇いの理由が自分でも分からず、フウガは落ち着かない気持ちを誤魔化すように病院へと足を向けた。


アリアの体調の事もある、一人で歩かせるのは少し不安が残るが、病院の周辺だけなら問題ないだろうと、フウガは自身を納得させ、開閉に忙しい自動ドアをくぐり抜けた。


院内は、一部がガラス張りの壁になっており、そこから太陽の光が差し込んで、明るく広々とした印象だった。そして、とにかく人が多い。診察や会計を待つ人やらでロビーや待合室は埋まり、医療従事者達が忙しそうに行き来をしている。その中に紛れ院内の様子を窺ってみたが、特別気になる点はなく、目に止まるのは、魂の迎えに来た死神達の姿だ。


その同僚達の姿を見て、何故、アリアはあんな顔をしたのだろうと、ぼんやりと思う。死神の仕事は魂を導く事。アリアはそれに対して思うところでもあるのだろうか。


「思ったところで、どうにもならないと思いますが…」


フウガはひとりごち、踵を返した。同僚達の仕事の邪魔になってもいけないので、ひとまず病院周辺で聞き込みをしようと思ったからだ。


フウガには、仕事に意味を見出だす気持ちが分からなかった。死神や天使は、神様の手となり足となる為に生まれてきたようなものだ。それを悲観するつもりも、否定するつもりもフウガにはない、それが使命なのだから考える必要もないと思っている。神様の為、神様の創造したこの世界の為、フウガは使命感に沿った行動をとっているだけだ。

ただ怠けていただけのアリアとは違う。そう思いかけ、フウガはふと首を傾げた。


もしかしたら、アリアが怠けていたのには、何か理由があったのだろうか。




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