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04 宝石箱ぶっ壊して


 ──俺の二度目のダンジョン突入から、数時間後。


「ん〜っ! おいし〜っ!」


「「恐縮です」」


 長い脚をパタパタと踏み鳴らし、コクレアは満足気に朝食を摂ることができた。

 食材調達を担当した俺と、調理を担当したスィンは、疲労を顔に出さないように深くお辞儀をする。


「ねぇこのお肉、何処から取ってきたの?」


「僭越ながら、そちらはアガタ様がダンジョンでお狩りになりました」


 ガチャン! 食器を机に叩き付けて、コクレアは金色の瞳を大きく見開く。


「えぇっ! 自分でダンジョン入ったの!? 大丈夫だった〜? 主に命とか〜!」


「それはもうめちゃくちゃ死ん──」

「はい、アガタ様は一度も死ぬことなく危険な猛獣を仕留めておられました」


 つい“口を滑らせかけた”俺を押し退けて、スィンが仏頂面でクールに答える。危ない所だった。

 俺達がこんなにも必死になって何を隠しているのかと言うと、事態は数十分前に遡る……。




「これもう無理だろ。俺もう何回死んだ?」


「まだ四回目です。アガタ様のゾンビアタックにより食材も疲弊してきています。あとちょっと。ガンバレガンバレ」


 スィンは感情のない仮面のような顔で、俺の肩をバンバンと叩いて勇気づけてくれるが、そんな雑に応援されても無理なものは無理だ。


「少なくとも正攻法じゃ絶対に勝てないな。あの猛獣、物凄く強いぞ。一見するとフサフサの体毛の塊みたいな外見だけど、明らかに普通の生き物じゃない」


「まぁ生成するのに70詛も消費した魔獣ですから、単純計算でアガタ様の七倍は強いでしょうね」


「初耳だよ。じゃあもう勝てないよ」


 俺は不貞腐れたように地べたに寝そべり、ばちゃばちゃと沼の水面を蹴る。

 スィンは少しだけ無言で考え込むと、表情を崩さないまま、落ち着いた声色で提案した。


「やはり最初に仰っていたように、罠を作れば良いのでは? アガタ様の死体が積み重なったおかげで沼ダンには呪詛Pが30詛も貯まっています。今ならば落とし穴の底面にオプションで竹製の杭も追加できますが」


「いや、もはやそういう次元の相手じゃない気がしてきた」


 最初は罠に掛ければ何とかなると思ったが、あの猛獣は素早く、狡猾で、力が強い。

 例えるなら虎のような強さを得たドブ鼠だ。落とし穴でどうこうなる相手じゃない。


「せめてもっとポイントが沢山あればな……」


「そうですか。呪力が足りないのであれば、姫様から供給して頂けば宜しいのでは?」


「どうやって? あいつの首にチューブでも挿して吸い上げるのか?」


「いえ。既に申し上げたように呪詛Pをチャージする方法は二種類だけです。ダンジョンで生き物を殺すか──」


 ──持ち主の強い感情が宿った物品を、分解するか。




「いやぁ、流石は私が転生させた男だよね! まさかたった数日で、あの枯れかけた沼ダンジョンをまともに運用してしまうなんて! 偉いぞこのっ! 何でもご褒美あげちゃうぞ〜っ?」


「あの、いや、俺は褒められるようなことは全然……」


 やけに身長と声が大きいコクレアに、俺は頭を鷲掴みにされ、ガシガシと撫で回される。

 女に飼われるチワワってこんな気持ちなのかな。


「これは昇進ものだよキミ! よっ今日から副社長!」


「おだてないでください本当に」


「私に敬語なんて要らない要らない、副社長だもん。そうだ、副社長にはご褒美にメイドをあげよう! スィンちゃん、今日から彼の専属ねっ?」


「畏まりました。不束者ですが宜しくお願い致します、アガタ様」


 もはや全てを諦めたスィンは、死んだような顔でスカートを摘み、俺に恭しく一礼する。


「──私はこれよりアガタ様に絶対服従のメイドですので、私が何をしようと、アガタ様の責任となります。そこの所をご了承ください。切実に」


「お前最低だよ」


 このメイド、“アレ”の責任を俺に押し付けるつもりのようだ。

 違う。俺は提案されただけなんだ。絶対に俺のせいじゃないからな。


「あれ? そういえばスィンちゃんさぁ、私の魔石コレクションって何処に仕舞ってたっけ?」


「「えっ!!?」」


「……なにさ二人して。もう仲良しになっちゃったの?」


 例の“アレ”にさっそく勘付かれた。どうしたことだ。コクレアの言っている魔石とは、俺たちが呪詛を集めるためにさっき“分解”したばかりの、“コクレアの強い感情が宿っていた物品”の事だ。つまり既にこの世には無い!

 スィンもこんなに早くバレるのは予定外のようで、珍しく目線を泳がせている。こいつ普段クールぶってる割に一度崩れると表情がガンガン出るぞ。


「ひ、姫様、なぜ今更になってそのことを? 確かに姫様は数年前まで高価な石のコレクションにご執心でしたが、最近はめっきり飽きが来ていたのでは?」


 喋りすぎだ。いつも無表情のスィンが急にベラベラと捲し立てたら怪しまれる。

 俺たちがコクレアの魔石コレクションを全部ぶっ壊して呪詛Pに変換し、それを元手に高価なトラップ(使い切り)を建造して、大損しながら食材を狩って来たことがバレたらどうする? 大変な事だぞ。


「う〜ん、確かに魔石蒐集には飽きちゃったんだけどさぁ、アレを集めるのに相当なお金を掛けたし、思い出は詰まってるから……たまには箱から出してあげて、私が埃を拭いてあげても良いかな〜って」


「止めておきましょう」


 露骨にスィンが止めに入る。アホか、止め方が雑だ。そんなの余計に追求されるぞ。


「え、なんで? なんで駄目なの? なんか理由ある?」


「……アガタ様が、止めておいた方が良いと仰っています」


 ──余計な口出しをされた上に速攻で売られてしまった。

 そんな事をしても叱られる順番が前後するだけだと何故わからないんだ。もっと慎重に行動してくれ。


「え〜? えーえー? どうして駄目なの? アガタ君? 理由教えて?」


「…………く、悔しいから」


「「はい?」」


 コクレアとスィンが同時に声を漏らし、首を傾げる。少なくともメイドの方はそんな怪訝な顔をして良い立場じゃないぞ。黙って俺の名演を見ていろ。


「コクレアには俺という宝がありながら、まだ古い石っころなんか執着してるのか……? 俺のことはもう飽きたのか? 宝物じゃなかったのか?」


「ハッ……!」


 言葉通りハッとした顔をして、コクレアはガタンと席を立ち、雷にでも打たれたように直立する。

 枯れ木のごとき細身の巨躯がカタカタと震え、涙ぐんだ目でじっとこちらを見詰めてくる。


「そ、そうだよねぇ! 私、どうかしてたよ、アガタは私が血のにじむような研究をして作り出した転生男だもんねっ? こんなお宝が手元にあるのに、ちょっと豪邸が二三軒は建つ程度の石っころを思い出したりして……ごめんねっ! ごめんねアガタぁ〜ん!」


 ぎゅう゛ッ! 身長180後半から繰り出される全力のハグ。細身なコクレアの腕が、めり込むように俺の背骨を侵食する。


「ゲホッ……! わ、わがっでぐれれば良いんですよ……! あの、手を離して貰えると……!」


「敬語禁止! 私とアガタの仲でしょ! 今度ヨソヨソしくしたら脳に呪詛針ぶっ刺してロボトミの刑だからね?」


「スィン、助けて……! 命令……!」


 スィンは背を見せて逃げ出した。あの薄情メイドめ、俺は助けてやったのに。

(⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️)←私が今一番欲しい物の象形文字です。

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