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02 転生男と全肯定メイドさん


 転生男の朝は早い。

 蘇りの件から早数日、この家に時計は無いが、少なくとも沼地の姫君よりは俺の方が早起き生活なのは確かだった。


 起きてまずやるべき事は掃除と洗濯。このファムドンナ(という地名らしい)には幅15メートルほどの大きな沼があり、そこに隣接するようにして腐った木で組み上げられた三階建ての家が建てられている。

 便宜上、家主の名前からコクレア邸と名付けよう。俺はコクレア邸の掃除を……一切しない。やるのは沼の管理だ。ボロ屋敷のメンテナンスではない。


「こんな感じで良いんですか?」


「あぁそうですそうです。お上手ですよ」


「……えっと、本当に?」


 俺はファムドンナ沼に浮かぶ枯葉や動物の死骸を掃除するために、“沼の上を歩ける靴”とやらを履かされ、トングで一つ一つ回収していった。

 新人研修役として、コクレアのお世話係をしているらしいメイド隊のスィンという子が同伴してくれている。

 彼女は濁った氷みたいな眼をしてるが、わりと俺には甘い。というかダダ褒めだ。接待でもされてる?


「本当に上手ですね。沼の管理は私や(コクレア)様を凌駕します」


「そんなに……」


「評価欄には二重丸を付けておきます。明日には課長に昇進されているでしょう」


「そんなに!?」


「あ、やっぱり花丸にしておきます。今日から部長さんですね」


 さて、冗談なのか本気なのか分からないスィンを尻目に、次は洗濯を行っていく。

 主にコクレアの服が対象だ。お気に入りらしいセーターと、高級感溢れる贅沢な下着が何十種類。何故か一日に何度も着替えるために溜まる洗濯物はわりと多めだ。

 あと何故かスィンの私服も一緒に洗濯させられている。


「お洗濯も上手いですね。惚れ惚れします。いえ、もはやメイドとして嫉妬しますね。強めのジェラシーです」


「そうかなぁ」


「流石に凄すぎです。やってたでしょ」


「なにを……?」


 ベタ褒めを通り越して若干の敵意すら向けられながら、ごくごく普通に洗濯を終わらせると、次はコクレアの朝食を作る。

 一人暮らしの男が作れるものは大抵作れるが、それは用意された食材にもよる。今日の食材は……あれ? 今日の食材は?


「あの、食材が無いんですが」


「どうやら在庫が尽きました。足りない食材は現地調達になります、部長」


「部長じゃないです」


「私に敬語は不要ですよ、専務」


「トントン拍子で出世してく……!」


 とにかく食材が無ければ何も作れないので、スィンに案内されて調達場所に向かってみる。

 案内されたのは、何やら不快な異臭を放つ、幅15メートルほどの深そうな沼。ゴミ一つ浮いておらず、すぐ隣にコクレア邸がそびえ立つ。


「ここファムドンナ沼だろ。さっき掃除したばっかりの」


「全ての狩りはここで行えます」


「説明を頼む」


「これをお持ち下さい」


 スィンは当たり前のように両手で一本の槍を渡してきた。先程の言葉通り、狩りをするのだろう。しかし今から? この槍で?

 よく分からないが、槍を握られたまま無言で待機されるのも気まずいので受け取るだけ受け取ってから幾つか質問を……。


「ではご武運を」


 しかし槍を手に持った瞬間、俺はスィンに背中を突き飛ばされる。“沼の上を歩ける靴”を履いていなかった俺は、そのままファムドンナ沼に飛び込んだ。

 そして気が付くと、全てが真っ白なタイルで覆われた正方形の広大な部屋に居た。


「……説明を」


 返事はない。


「説明は!?」


 恐らくだが、“狩り”が終わるまで説明はされないのだと思う。

 何故なら、白い空間に放り出された俺の目の前には、活き活きとした“食材”があるからだ。


『ゴルルルルッ!』


 その見たこともない毛むくじゃらの生き物は、明確な敵意と牙をむき出しにしている。

 説明はない。ただ今は、生き残ることだけ考えろ。そう言われている気がした。


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