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第4話 乙女心

「勝手にテントを抜け出したようだな」


「私は悪くないです、寧ろ助けたのですもの」

 ヴェイツの前で正座をしながらそう言い訳をする。


「それに戦う余力は残してあげました。あのような事をする元気があるのなら前線に送ってとことん戦ってもらいましょう」

 エイシャスは怒っているようだが、ヴェイツとしてもそのままにしては置けない。


「女性騎士達の証言もあるし、傭兵ギルドにも後ほど抗議をし、責任を取らせる。あいつらは生きて帰れるかわからんがな」

 戦いたいのならば、戦ってもらおう。


 一番危険なところでな。


「それとは別でエイシャス。テントを抜け出したことについてはどう言い訳する?」

 怒っている声にエイシャスはびくりとした。


「一言俺に相談しようと思わなかったか? 傭兵たちが不穏な動きをしていると知っていて何故俺に言わない?」

 どうやら何も言われなかったのが不満なようだ。


「それは、ウォン様がヴェイツ様の手を煩わせるのはいけないとおっしゃっていたので、勝手ながら私が処理をしたのです。申し訳ありません」

 青褪めた顔でエイシャスは頭を下げた。


 いくら魔法が使え、強くなってもヴェイツに嫌われたくはない。

 彼はエイシャスの全てだ、嫌われたら生きてはいけない。


「ウォン、どういう事だ」


「いえいえ別にヴェイツ様の耳に入れる程ではないかなぁって。ただエイシャス様が女性騎士達を助けたら彼女達のエイシャス様を見る目が変わるかなぁと思いまして」


「不要だ」

 エイシャスが他の者と仲良くなるのは良いが、そのような小細工をしてまでは要らない。


 非必要に仲良くなればどこからエイシャスの秘密が漏れるかわからない。


「で、どんな手を使った? ばらしてはいないか?」


「勿論です」

 エイシャスは傭兵たちを女性騎士から引き離した後、森の中へと誘導した。


 そこで森の中で呼びかける。


「連れてきたわよ、懲らしめてあげて!」

 そう声を上げ、ばれないように魔法を使う。


 居るのはエイシャスだけだが、エイシャスが呼びかけた事、そしてただの情婦だと思っている傭兵たちはまさか魔術師だとは思っていないようで、視線を彷徨わせながらも倒れ込む。


 体に電流が流れ、酷い痺れで動けない。


「てめぇ……!」


「隊長のお気に入りが護衛もつけないわけがないでしょ? 私に何かあればヴェイツ様が悲しむもの」

 そうであって欲しいが実際はわからない。


(私が一方的に慕っているだけだもの……)

 ヴェイツはあんなにも親身になってくれるのに一言も自分から好きとは言ってくれない。


 いつもエイシャスからだ。


 ほんのり寂しいがエイシャスから離れる気はない。


「後の始末はヴェイツ様に任せるから、ここで待ってなさい。次に彼女達に手を出したら許さないからね」

 表情も変えずに言うエイシャスが気に食わないのだろう。


「人形が。動けるようになったら、覚えておけよ」

 聞こえないふりをし、エイシャスは自分のテントへと戻る。


 女性騎士達もはさすがに自分達で抜け出しただろう。


 そうでなければ誰かが助けたはずだ。エイシャスに助けられるよりもその方がいいだろう。


 彼女たちはエイシャスを嫌っているのだから。




「待て、エイシャス」

 そこまで聞いてヴェイツは気づいた。

「俺は今詳細を聞いたのだが、誰か傭兵のところに向かわせたか? ウォン、どうなんだ?」


「僕も今聞いたので、まだ森にいるのでは?」

 今は夜だ。


 陣地には、魔獣避けの香を焚いているがその外には効力はない。


「すぐに助けに行かせろ。敵にやられたならともかく、魔獣に襲われて死んだとなればこちらの責が問われる」


「彼らが勝手に出た事にすればいいのでは?」

 エイシャスが暗に見捨てようと提案するが、ヴェイツは首を横に振った。


「責任は取らせたい。だから生かして帰さなくては」

 そうなると戦いにかこつけて魔法で始末するのも駄目かと、残念に思う。


 ウォンがテントを出て救出に向かった。


「さてエイシャス。ようやく二人になれたがまだ言い訳はあるか?」


「……いいえ、ありません」

 エイシャスは身体の力を抜き、怯える様な期待するような眼差しでヴェイツを見る。


「俺の言いつけを守らなかった罰だ。帰るまで触れるのはお預けだ。いいな?」


「はい……」

 がっくりと顔を落とすエイシャスだが、それはつまり早く戦いを終わらせればいっぱい触れられるという事だろう。


 俄然エイシャスはやる気を出した。おおよそヴェイツの望まぬ方向に。


 翌日、エイシャスは山を抉るほどの爆発を多数引き起こし、相手方の軍勢の大半を始末した。


 そして傭兵達に後始末を任せ、「魔力切れで動けない」とヴェイツに甘え、結局のところ同じ馬に乗せてもらい帰路に着く。


『隊長のお気に入り人形』はしおらしくしながらも口元には笑みを浮かべ、寄り添う。


 ヴェイツがエイシャスの魔法だけが目当てでもいい。


 彼はこの国を大事に思っている、その為この国を守る手伝いが出来ればいいのだ。


 この力があればエイシャスはヴェイツに愛してもらえるし、側にいる権利が得られる。


 それだけで幸せだ。


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