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本の都市

 


「さよなら」

泣きそうな顔でそういった彼女には、なんの感情もなかった。


 私は、家でも、婚約者にさえ、愛されていない。誰も私を見ることはない。使いやすい駒。扱いやすい女。そう見られていることに、10の時からとっくにわかった。それでも死にたいと思ったことはない。世界が美しいから。だから、ただ世界を見つめながら生きるのもいいと思ったの。


「おはよう。みんな」 「おはようございます。」

挨拶をすれば使用人たちは、みな返してくれる。いい仲を築けていると思うわ。


朝食の間に入ると、父が書類を片手に座っている。父から見て右が今騎士団の寮にいるお兄様。そして、私の席。

「おはよう御座います。お父様。」

笑顔を被り、完璧なカーテシーで挨拶すれば、うなずいてくれる。それでもいい。


 今私は、学園に通っている。この国は、愛妻家で有名だ。だから、婚約者は、ともに登校する家が多い。けれど、私はいつも一人。挨拶さえしない。馬車から降りるとき、「いってらっしゃいませ」そう言われるたびに戦場へ向かう気がした。

「ごきげん…」「ごきげんよう 皆様」

教室に入り、挨拶した言葉は、他の方の中に消えていく。誰も気づくことはない。席でも話すことはない。


 昼。私は、食事をしたあと、いつも図書室へ行く。

「ごきげんよう」そう小さな声で呟けば、

「ごきげんよう。愛し子。」そうささやきが返ってくる。幸せになる。私が、一番くつろげるのは、本があるところ。彼らは、私にとても親切だ。そうして色々な予言をくれる。例えば、「今日は 雨がふるよ」など

一番驚いたのは、「今日の夜にあの子屋上から飛んで死ぬ けどそれは本当の死じゃない あの子はこの国を出る」と言われたとき。本当にその通り。

「今日は、何を教えてくれるの?」

「今日は 長老様が貴方を呼んでる」

長老様。初めて聞くものね。耳を澄ますと、

「リーリヤ 愛し子よ レイラの森ヘおいでなさい」

そう美しい声が響く。レイラは、この国が古代呼ばれていた名。そして、森というのは、図書館ということ。古代の王朝は、今国立図書館になっている。おとぎ話では、レイラの森を一日にして、本に変えた。とある。つまり、国立図書館ヘ私は行かなければならないのね。

「わかったわ。ありがとう。」

「できる限り急いでこちらへ」

なにか大変なことでもあるのだろうか。

学校が終わりすぐ御者に国立図書館へ行くよう言った。帰ってこなくてもどうせ父は気づかない。

国立図書館は、誰でも入れる。けれど、古代の、レイラの本を読むことはできない。とても大切に扱わなければいけないからだ。最近作られたものは、誰でも読める。

人の少ないレイラの本の場所へ行くと、

「リーリヤ こっちへ 本が導く」

そうあの声が響いた。本が導くとは?そう思っていると、レイラの本が、一冊出てきた。と思うと、見張りの人の前へ飛び、本が、勝手に開いた。すると、見張りは眠った。

「眠りの本 スーリよ みんな待ってた 見て」

そう言われて周りを見れば、沢山の本が私にささやき、一斉に出てきた。不思議な体験は、私を幸せにする。

「ごきげんよう」

ドキドキして挨拶する。

「ごきげんよう 愛し子 こっちへ」

そうささやくと本は、光のようになり、案内をする。奥の方へ、迷路のように歩く。そして隠し扉を抜け、いくつかの角を曲がると大きな扉が出てきた。

「ここだよ」

深く息を吸い中へ入る。

そこは、温室と部屋を合わせたような場所だった。

一面ガラス張りで床もガラス。そして空の上。

何より驚いたのは、温室のように植物が根をはりその合間から入る太陽の光が、ふかふかの天台付きベットと、アンティーク風の机を照らしていること。そして植物によって区切られたような場所へ、光の本とともに入ると、そこには、見渡す限り本があった。古書もすべて。高い天井まで並べられた本。天井には、小さな天文台まで。そして奥の扉。

「あそこへ行って」

言われたままに、扉の前へ

開くと、玉座の間のような場所があった。床はすべて大理石。赤い布が敷かれ、柱がそびえ立つ。

そして奥に立派なとても荘厳な玉座。けれど、誰もいないこの場所は、まるで、古代のレイラ国の忘れられた政の場…

「泣いているのかい」

後ろから、あの美しい声がささやく。

「泣いている?」

無意識に頬にやった手に涙が落ちる。

「なんで、私、泣いて…」

後ろを振り返る。そして目を見開く。

「やっと逢えたね。レイラ。愛し子よ」

ああすべてを思い出した。


 私は、レイラ。この国の王女。この緑に侵された森は、我が国の都市。この、ユートピア・アトラス。約束された盟約の国の!



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