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八話

あの日お姉さまとお話をした後、私は自分たちの将来のために知り合いに相続のことについて相談をしていった。

もちろん、内容が内容だけに話せる相手は限られてくる。信用のできる人に、なるべく詳しいことは伏せながら、内緒で私は今回のことを話していった。


その中で友人からとある伯爵令嬢を紹介してもらうことができた。彼女は今の法務大臣の姪にあたるご令嬢だった。法務大臣の仕事の内容についてよくは知らないけれども、法律についてはすっごく詳しいに違いない。そう思った私は友人に感謝しつつ、彼女に会うためにセッティングをしてもらった場所へ向かっていった。


指定された場所は学園内にある小さなお茶会を開くための個室だった。中々予約が取れないと聞いていたのに、さすが大臣の親戚のご令嬢だと思いながら私は部屋へと入った。


するとそこには友人に聞いていた伯爵令嬢であろう髪色と瞳の色を持つご令嬢と、もう一人席についている人がいた。


その人は貴族の名前もまだまだ覚えきれていない、顔を見て名前が分かる人なんて限られている私でも知っている人物だった。けれどその人がそこにいることが信じられなくて、私は失礼だと思いつつもそのお顔をじっと見つめてしまった。


そこにいたのは、なんと第一王女であるレティシア殿下だった。



予想外の人物に驚き固まる私に、レティシア殿下はすごく美しい笑顔を向けながらこう言ってくださった。


「驚かせてごめんなさい、アンブルジア伯爵令嬢。貴女のお話を小耳にはさんで彼女に無理を言って同席させてもらったの」


『彼女』と言われた本来紹介されるはずの伯爵令嬢も緊張に表情を固くしていた。どうして、どんな話が耳に入ればレティシア殿下がここに来ることになるのだろうと思ったけれど、まずはご挨拶を返さねばと私はお姉さまに習ったマナーの知識を総動員して、臣下の礼をしながら殿下にお返事をした。


「アンブルジア伯爵家次女のフェリアと申します。レティシア殿下と同席させていただきますこと、光栄に存じます」


そんな私をレティシア殿下はしばし見つめたあと、「ここでは同級生よ。もう少し肩の力を抜いて頂戴」とにこやかにおっしゃった。



そこから恐れ多いことに、何度かレティシア殿下とお話をする機会をいただいた。最初の伯爵令嬢に相談するはずだった話も殿下に促されるままに全て話をした。

レティシア殿下はとても優しい雰囲気の方だったが、生まれながらの人に命じる立場のお人でもあった。その殿下に問われるがままに、私は自分の考えや普段の行動の話をしていった。



全く予想していなかったレティシア殿下の登場であったが、殿下の存在は私たち姉妹の未来を大きく変えることとなった。


何度かお会いした後、レティシア殿下は私に向かってこうおっしゃった。


「フェリア、貴女は今までの学業の成績は良くないけど、人を見る目と機微を読む能力はかなりあるようね。努力もできるようだし、何より見た目がそれほど良いのが個人的にはとてもいいわ。


ねぇ、これは命令ではないのだけれど、よかったら私がこれから話すことを貴女の将来の選択肢の候補に入れてみない?貴女にとっても、貴女のお姉様にとっても悪い話ではないと思うわよ」



レティシア殿下のお話は私たちが今まで考えてもみなかったことだったが、確かに私たち姉妹にとって新しい選択肢となるものだった。


その殿下のお話も含めて、私とお姉さまは将来のことを真剣に話し合った。通学の馬車の中で、深夜のお姉さまのお部屋で、お昼休みの人気のない中庭で。お姉さまとたくさんの話をした。


それは今まで経験したことのない『私』を大切にしてくれるものだった。相手の要求ではなく、私がどうしたいかを大事にしてくれるものだった。


だからこそ私も、自分だけではなくお姉さまのお気持ちも大切にされるように、しっかりとお姉さまと話をした。


そうしてお互いの考えを十分に話し合って、私たちは将来のためにどう行動するか結論を出したのだった。


それは誰のためでもない、誰かの意見でもない、確かに自分たちで決めたものだった。



そうして二人で出した結論のために色々と準備を進めていたある日、夕食の終わり頃、いつも通りの無言で席を立とうとしたお姉さまにお父さまが唐突にこう告げた。


「ロゼッタ、お前に話がある。後で私の部屋に来るように」


「分かりました。今から30分後でよろしいでしょうか?」


「ああ、そうしてくれ」


お父さまがお姉さまに声をかけることなんて、今までないことだった。そして、そう話をするお父さまの横でお母さまがにんまりと悪い笑い方をしていた。

そんな二人を見て、両親は今日これからあの話をお姉さまにするつもりなのだと私は理解した。


ついにお姉さまと考えた計画を動かすときが来てしまった。私は緊張で心臓がドキドキしているのを隠しながら、いつも通り振る舞い夕食を食べきった。



その日の深夜、屋敷の中がしんと静まり返る時間帯に私はお姉さまのお部屋を尋ねた。決めていた通り、早めのノックを三回すると、お姉さまがドアを開けてくれた。


「お姉さま、今日のお父さまのお話は……」


「ええ、相続放棄の話だったわ。貴女が聞いた通り、断れば執事長と料理長のご子息を紹介状も書かずに首にすると言われたわ」


私はそのお姉さまの言葉を聞いて、浮かびそうになった涙をぐっと堪えた。どこかで両親が思い直してくれることを期待していた。私やお姉さまにどうしたいか聞いてくれないかと思っていた。

けれどもそれが叶うことはなかったようだった。


小さく息を吐いた後、私はお姉さまに向かってこう話しかけた。


「ではお姉さま、これからのことは決めた通りで問題ありませんか?」


お姉さまは私の目をしっかり見つめ返しながらこう返してくれた。


「ええ、私の気持ちは変わらないわ。貴女はどう、フェリア。これからの行動は貴女の気持ちを裏切ってはない?」


「正直こうならなければいいなと思っていました。けれどもお父さまたちが考えを変えてくださらなかった以上、前に決めた通りにしたいと思います」



私は決意を込めて、お姉さまにそう告げた。

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