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十二話

「ロゼッタが行方不明の上、相続を放棄して、さらに学園まで退学になったですって!?」


ロゼッタの祖母は悲鳴のような声を上げて、そう叫んだ。


「どうしてそんなことをさせたのです!?あの子は最優秀卒業生になるはずだったのよ?貴方たちのバカな娘とは同じ退学でも重みが全く違うのよ!?」


「なんですって!?あんなの勉強だけで可愛げも全くない淑女としては三流の小娘じゃない!うちのフェリアをバカにしないで!」


「お黙りなさい!マナーもろくに身に付けていない三流はそちらよ!

どうせあの子の才能に嫉妬したお前が相続放棄と退学を無理やりさせて、どこかにロゼッタを拐ったのでしょう?

あぁなんて醜い女。早くあの子をここに連れ戻して来なさい!」


「そんなことしてないわよ!あんたこそフェリアの美しさを妬んで、あの子をどこかに連れ去ったんじゃないの!?」


「はっ、あんな頭の悪い娘など眼中にありませんよ。そんなことより早くロゼッタを探しなさい。こちらも人を出しますが、秘密裏に行うのですよ。行方不明だなんてバカな娘はともかく、あの子の名誉に関わりますからね」


「バカとは何よっ!取り消しなさいよ!!」


醜くも言い合う二人の間に入り、伯爵はこう言った。


「とりあえず二人とも落ち着いて。夫人、娘たちを探すのはもちろん行います。何か分かればご連絡します。そちらも何か手がかりを掴まれたらご連絡をお願いします」


そうして姉妹がいなくなった翌日は、醜い言い争いをしただけで何も進展がないまま解散することとなった。




そこから1ヶ月、懸命の捜索が行われていたが、人目に触れぬようにした捜索であるため芳しい結果は得られていなかった。


ロゼッタの祖母は苛立ちながら彼女の息子にこう話しかけた。


「もう少し捜索の人数は増やせないの?もう1ヶ月も経つのよ」


「母上、無茶はおっしゃらないでください。人目を避けての捜索はこれが限界です」


「そんな言い訳をせずどうすればいいかもっと考えなさい。全く、貴方は昔から気が利かないのだから」


息子相手にぶつくさと文句を言い続けていると、そこに彼の娘、ロゼッタの祖母にとっては孫娘となる少女が部屋に入ってきた。ロゼッタの祖母は確か彼女はロゼッタと同学年であったことを思い出したため、彼女にこう話しかけた。


「ねぇ、貴女も学園でロゼッタのこと何か聞いていない?噂でも何でもいいのよ」


そうすると、声をかけられた少女は冷え冷えした視線を自分の祖母に向けながらこう答えた。


「ああ、アンブルジア伯爵令嬢の姉の方ね。彼女なら自ら失踪したんじゃないかって皆言ってるわよ」


「何ですって!?あの子は体調が優れず休学しているということにしているはずよ!?」


孫娘の反抗的な態度と信じがたい言葉に、ロゼッタの祖母は声を荒らげながらそう答えた。怒りを隠そうともしない祖母に向かって孫娘は淡々とこう告げた。


「そんな噂流したって、もう在籍してないんだから席もなくなってるし、皆嘘だって気づいてるわよ。


それに彼女、家族には冷遇されて、貴女からは勉強ばかり課せられていたのでしょう?

ねぇ知ってた?放課後に令嬢が集まってする情報交換も兼ねたお茶会に彼女だけはこの三年間一度も来たことがないのよ。別に避けられて、呼ばれてなかった訳じゃないの。彼女はいつ誘っても『勉強しなきゃいけないの』って申し訳なさそうに断っちゃうのよ。


他人と交流することすら許さないほど膨大な課題を彼女に課してたのは貴女なんでしょ?その癖、いつももっと勉強しろ、もっと勉強しろなんて言われたらそりゃ逃げたくもなるわよねって皆言ってるわ」


その言葉に祖母は激昂した。喚き散らすような声で彼女の言葉を否定した。


「そんなはずないわ!!あの子は一流の教育を施してくれる私に深く感謝していたわよ!!いつだって折り目正しく私に『ありがとうございますお婆様』と言っていたわ!!!」


「そりゃ幼い頃にちょっとやりたくないって言っただけであんなに執拗に叱責されてれば従順にもなるわよ。あの子いつだって追い詰められたような顔で勉強してたわよ」


「嘘よ嘘よ!ロゼッタもあの子の母親も私に感謝しているわよ!!!優秀に育ててくれた私に……」


「妹は感謝なんかしていなかった!!!」


そのとき、それまで黙って話を聞いていた彼女の息子が大きな声をあげた。見たこともない息子の姿に彼女が声を失っていると、彼は憎悪を込めた目でこう続けた。


「妹はいつか自由になりたいってずっと言っていた!!だから伯爵に愛する人がいることを知りながらも、この家よりはマシだと思って嫁いで行ったんだ!!お前に感謝などしていない!!!」


「母親に向かって何て口をきくのです!!」


「母親?これは驚きました。貴女は優秀な妹ばかりを見ていたから私が血縁上の息子であることも知らないとばかり思っていました」


「な、何ですって?そんな訳ないじゃない……」


「そうですか、では私が学生だった頃何に打ち込んでいたか答えられますか?今力を入れている政務は何か分かりますか?ここにいるずっと同居している貴女の孫娘の好物は分かりますか?」


底にしんとした怒りが見える目で見据えられながら息子にそう問われた彼女は焦って答えようとした。しかし彼女の記憶に、それらに関することは収められていなかった。


「あ、あれよね。そうそう、えーっと、嫌ね歳ですぐ出てこないわ。分かってるのよ、ええ」


そうしどろもどろ答えようとする彼女に落胆した表情すら見せずに、彼女の息子はこう答えた。


「貴女は興味がなくてご存知ないかもしれませんが、この家の実務は今はもうほぼ私が担当していて、あと少し残っている引き継ぎが終われば爵位は私に引き継がれます。そうなれば貴女には一人領地に戻っていただきます」


「そんな!そんなこと旦那様が認めないわ!」


「その父も認めてくれています。もう庇いきれないと。


あと、私が家督を継げばロゼッタの捜索は続けますが、それはあくまで安否確認のためだけになります。役所や学園で彼女たちの手続きに立ち会った人たちに話を聞きましたが、皆彼女たちは自らの意思で手続きをしていたと答えていました。恐らく娘が言うように自分の意思であの家から去ったのでしょう。


あの子は聡明な子です。何の計画もなく飛び出したとは思いませんが、とは言え若い娘の行方が知れないことは心配なことです。もし見つかれば無事であることだけはお知らせします。安心して領地にてお過ごし下さい」


「違うのよ!!私は、娘だけじゃなく貴方たちのことも愛しているわ!もちろん大切よ!さっきの質問の答えはごめんなさい、分からないけど。でも愛しているわ!ねぇ!ねぇ母を信じてちょうだい?」


悪足掻きのようにそう言い続ける彼女に、少しだけ寂しさを見せる目をした息子はこう答えた。



「上辺だけの言葉だったとしても、私も娘も幼い頃に貴女にそう言われたかったですよ」




彼女はそこから必死に言葉を重ねたが、彼女の息子が態度を変えることはなかった。


数ヵ月後、代替わりと共に彼女は領地へと半ば無理やり送られていった。

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