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第九話

荒太が帰って行った後で、泣き出した恵を抱きしめると俊は動揺していた。


楽しい事ばかりだったはずなのに、なぜいきなり泣き出したのか?


荒太は用意したプレゼントを置いてそのまま帰ってしまった。

きっと俊達に気を使ったのだろう。


それでも、まだ理解が追いついていないせいでどうしたらいいのかわからず

にいたのだった。


泣き止むとキスをせがむ恵に何度もキスをすると泣き止んだのか真っ直ぐ俊

を見つめてきた。


「ごめんね…一緒に3年にはなれないんだ…」

「…?」

「僕ね、転校するんだ。高校は東京の高校に通う事になると思う。だからここ

 にいられるのも…後わずかなんだ。だから俊くんに言わなきゃいけない事が…」

「聞きたくない…俺は恵の側にずっといるって…」


耳を塞ぐ俊の手に恵の手が重なる。


聞いてと言うようにずらすと顔を近づけて言う。


「俊くん、ごめんね。別れよう」


一番聞きたくない言葉を一番楽しいはずの日に言われた気がする。

みっともなく取り乱すと恵を抱きしめ、持ち上げると自分の部屋へと入った。


朝まで見境なく抱いた記憶だけが残っている。


起きた時には恵はおらず、キッチンはきちんと片づけられていた。



その日から連絡が取れなくなった。

新学期が始まり、中学3年に上がった。


恵は学校に来ることはなかった。


屋上で空を見上げると何もやる気にならなかった。


「おい、授業始まるぞ〜」


呼びに来た荒太に蹴り飛ばされるが動くつもりはない。


「おい、聞いてるのか?」

「恵…俺のどこが嫌になったんだろう…」

「何言ってんだよ。そんな事言ってたのか?」

「…別れようって…転校するって…」

「なら、俊が嫌になったわけじゃねーじゃん?」

「うん、そうだな…」


授業開始のチャイムが鳴ると諦めたのか荒太が横に腰を下ろした。


「授業遅れるんだろ?」

「そうだな…俊が行かねーなら俺も行かね。そんなに恵の事忘れられないの

 かよ…」

「無理だ…もう、誰もいらない…」

「ふ〜ん、なら俺と付き合わねー?」

「…?荒太?俺は恵が…」

「知ってるよ。俺だって分かってる。恵が忘れられないんだろ?いいよそれで。

 高校は東京行こうぜ。大学もさ。きっと向こうで会えるからさ。」

「荒太はそれでいいのか?」

「あぁ、恵と会うまででいい。俺と付き合ってくれよ。」


心を決めると勇気を出して言った言葉は俊を独り占めしたいという心があった。

少しの間でもいい。思い出だけでいいから、一緒にいたかったのだ。


「恵が好きなままでも?」

「あぁ、それでもいい。」

「付き合うって俺は男だよ?」

「分かってるって言ってんだろ?くどいぞ!」

「いやいや、荒太の方こそ分かってるの?男に抱かれたいの?」

「俊なら…いいって思えるくらいにはなっ!」


ニッと笑うと手を出した。


「付き合おうぜ?よろしくな!」

「…う、うん」


俊はまだ迷っているようだったが、それでも手を掴んだのだった。




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