第六話
体育祭を終えて、期末テストをやっと終えると学年が変わる。
「進路決めたか?」
「う〜ん。迷ってる〜」
「荒太は?」
俊はスポーツ推薦でいけるので、選びたい放題だった。
それに比べ恵も荒太も自力で勉強をするしかなかった。
『天は二物を与えず』とよくいうが、俊は成績も上位だった。
「俊はなんでそんなに勉強できるんだよ〜」
「そりゃ〜頑張ってるからだろ?俺部活あるから先に行くな!」
「おう、恵はどすんだよ〜進路〜」
「うん、そうだね」
少し元気がない気がした。
俊はなんでもできる男だ。
それに比べると落ち込むのはよく分かる。
「悩みならなんでも聞くぞ〜」
「そうだね…荒太くんになら…ちょっと聞いてくれる?」
「うんうん。なんだ〜なんでも質問しなさい!」
ふざけるように胸を張って答える荒太に笑いながら恵が言う。
「高校は東京の方でうけようと思うんだ」
「ん?東京?なんで?」
「もうすぐ転校するんだ、僕。」
「…あと一年あるだろ?それって俊は知ってるのか?」
首を左右に振る恵に、一瞬目の前が暗くなった。
なんで?俺が欲しかったものを手に入れたのに?
なんで、そんなに簡単に手放せるんだよ?
言葉を飲み込むと恵を見つめる。
「ちゃんと俊に言わなきゃだろ?」
「そう…なんだけど…。俊が辛そうにするのは見たくなくて…」
「それでも、大事だって思ってるなら、余計中途半端になんかするなよ!」
「荒太くん?」
「俺は俊も恵も大事なダチだって思ってる。でも、卑怯な真似はすんな!
言いたいことはちゃんと自分の口で言えよ!正々堂々と自分の気持ちを
裏切らねーなら俺はいつまでも親友でいるし、ずっと味方でいてやる。
だから…自分を偽るなよ!」
恵に対して熱くなってしまった。
こんな事言いたいわけじゃないのに…。
ただ、励ますだけでいいのに…。
もし、俊と別れてくれるのなら、もしかしたら自分にも可能性があるのか?
そんな淡い期待をしている自分に嫌気がさして、つい怒鳴ってしまった。
恵は本気で怒る荒太に驚いていたが、ふっと目を逸らすと笑いだした。
「荒太くんには敵わないな〜。いつも真っ直ぐで…眩しいんだから…。俊くん
の事好きなんでしょ?僕が居なくなったら付き合ってくれるとか思わなかっ
た?」
「思わねーよ!俊が選んだのは恵なんだ。どっちも大事な友人だからな…」
「そっかぁ〜、俊くんも僕じゃなくて荒太くんを好きになってたら幸せなのに
ね〜。ごめんね。」
恵はそれだけ言うと立ち上がって行ってしまった。
流石に追いかける勇気もなくて見送った。
数日はギクシャクしていたが、事情を知らない俊が哀れに思えてきた。